第八話 体育祭が気が気でない 前編

第八話 体育祭が気が気でない 前編 ①

 夏休みが終わって一週間程。

 ようやく平常の気分を取り戻してきた頃。

 今日も奈緒のいる図書室へ行く。

 いつも奈緒が佇んでいる、片隅の席に……って、あれ??

「えっ奈緒、どこ?」

 図書室に奈緒はいなかった。

 いないなんて事、普段なら考えられないのだけど……もしかして事情がある?

 食事が長引いている? 先生に呼び出されている? 何か分からないな、でも多分遅れているだけだな。僕は待つ! 昼休みが終わるまで…………


 ――って、来ない!

 もう昼休み終了五分前、そろそろ教室に戻らなきゃいけない時間だって言うのに!

 仕方ないなぁ、教室に戻るか。何でいないんだ?


「ねえ中島ぁ」

 教室に戻った僕。

 行き場の無い愚痴ぐちを中島にぶつける。

「な、何だぁ?」

「奈緒が図書室に来なかったんだよ。何があったんだと思う?」

「そうだなぁ、先生相手にエンコーでも……」

「死ねぇ!!!!」

 本当にくそだなこいつ。僕はほおをビンタしてやった。

「冗談だよ、じょう……」

「もう一発欲しいか?」

「あっ、ああっ……」

 失礼しちゃうな、もうっ。

 僕は自分の席に座った。


 さて、次の時間はと言うと…………

「今日は皆さんお待ちかねの体育祭に関して話していきたいと思います。では、号令……」

 担任の先生が教壇きょうだんに立って話す。

 そうっ、体育祭!

 めっちゃ楽しみぃっ!!

 この高校の体育祭は中学までの組対抗とは違う。クラス対抗だ。

 中学の時、奈緒は体育祭に参加していなかったが高校では参加する筈。

 そうなると奈緒と戦う事にもなるのかなぁ……そんな考えが一瞬、頭をぎったけれども別に大丈夫だろう。

 だって男女混合でやる競技きょうぎ、そんなに無いし。そういう競技はとりわけ運動ができない奴が割り当てられる、運動能力とそんなに関係ない玉入れと借り物競走だけ。

 つまり僕には無縁むえん! 奈緒と戦う事なんて有り得ない!! ワーッハッハ、ワーッハッハ!!!!


「それじゃあ颯太さん……あなたは玉入れと借り物競走の二つという事で良いでしょうか?」

 クラス委員長の田口志乃が教壇に立って言う。

 …………自分でかけたハシゴをクラスの連中に外された。

 結局、みーんなから『お前玉入れと借り物な』ってな具合で押し付けられて……。

 そうですよ! どうせ僕は運動音痴おんちのヘナチョコですよ!

「は、はいっ」

 不本意だが受諾じゅだくするしか無い。

 だって本当に運動できないからな、僕。持久走でも断突だんとつ最下位だったし。

「ドンマイ、颯太! 俺は男子リレーの第一ランナーだぜ!」

 なーかーじーーーまーーーーっ!!

 この万年ベンチぃぃぃぃぃぃっ!!

 クソッ、こいつに虚仮こけにされるとは。でも仕方ねぇな運動音痴だもの。

「中島さん、颯太さんを馬鹿にしないでください。どっちも立派な種目です」

 田口志乃さん……あなた、真面目まじめすぎますよ。

 もっと馬鹿にして良いんですよ? 無理ですか、あなたには。

「颯太、一緒に頑張ろうな! 玉入れ!」

 風見が言ってきた。

 そう、玉入れは風見も一緒。

 クソデブとチビガリ! 運動音痴同士! お似合いだな!

「あっ、ああ。頑張ろうなっ!」

 そんな訳で、僕はが出場するのは玉入れと借り物競走だ。

 奈緒は何の競技に出るのかなぁ。まさか玉入れとか借り物競走って事は無いよな?

 てか今日、何で昼休みに図書室に来なかったのだろう。そこが気になる。

 まあ、流石に帰りは一緒だろう。その時に聞こう……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る