第七話 姉とのデート(?)が気が気でない ②

 到着っ!

 ここが原宿! お洒落しゃれで、賑やかな街だなぁ。服の店、いっぱいあるんだろ? まずはどこへ……

「奈緒っ、どの店に行くの? 全部選んでよ、奈緒の手で」

「そうだな。ではついてこい」

 奈緒は僕のペースなんてお構いなく、先に進んでいく。僕はそれを後から追う。

「この店なんてどうだ?」

 奈緒はモード系ファッションの店に来た。

「ここ?」

「俺がよく買っている店だ。メンズファッションも充実している」

「奈緒みたいに、白黒系の感じかな? まとめるとすれば」

「そうだな。さあ、入るぞ」

 僕は奈緒に連れられる形で店の中に入る。メンズアイテムのコーナー、レディースに比べれば少し狭いがそれでも充実した品揃え。目を引くお洒落なアイテムが勢揃い。どんな感じに染め上げてくれるのかな……。

「これとか……」

 奈緒は僕にカーディガンを見せた。

「カーディガン? 夏に?」

「夏用のカーディガンだ。大丈夫、暑くならない」

「上に羽織はおるのか、面倒臭いな……」

「その一つの面倒臭さで印象がガラリと変わる。それに似合う服とズボンも持ってきてやるから待ってろ」

「うん!」

 こうして奈緒が持ってきたのは白い半袖シャツ、黒いズボンだった。

「随分とシンプルな……」

「シンプルに決めるんだ。さあ、試着しちゃくしてみろ」

 僕は奈緒の選んだ服を持って試着室に入り、その服に着替える。

 鏡を見ると……おおっ!! これは……これは良い! 白と黒のコントラストが落ち着きのある魅力みりょくを放つ! 気に入った、気に入ったぞ!

 僕はカーテンを開く。目の前に奈緒……あれ、そっくりだ。僕が着ているファッションに。

「な、奈緒……もしかして僕のこれ……」

「俺が今着ているのと同じブランドの、同じタイプの服だ。メンズとレディースで少し違いはあるだろうが、基本的には一緒だ」

「えっ……つまり、これって……」

「ペアルックだな」

 …………えええええええええええええ??

 ぼ、僕と……奈緒が……ペアルックだって?? ま、まるで……まるで恋人じゃないか……えっ? ええええええええっ??

「そっ、その……カップルに間違われない?」

「別に間違われた所で何だ? ジジイにすら間違われただろ? 他人にどう思われようが気にしなければ良い。嫌か?」

「僕達がカップル……カップル……カップル……」

「俺の話、聞いているか?」

「……ねえ、これ着て帰りたいな。頼めるかな?」

「頼めば? 俺も以前着て帰った事があった」

「よしっ……。すみません、これ、着て帰りたいのですが……」

 僕は店員に着て帰れるように頼んだ。店員はそれを了承してくれたので、僕はそのままペアルックで一緒に街を歩く事になった。やったぜ!


「おっそろい、おっそろい♪」

「やけに上機嫌じょうきげんだな、颯太」

「だって、奈緒とお揃いなんだもん」

「そんなに喜ぶ事か?」

「めっちゃ嬉しい! ありがとう!!」

「それは良かった。他にも服、欲しいか?」

「うん! 全部任せるから、もっともっと選んで!」

「じゃあ今度はこの店で……」

 そうしてまた別の店に入る。

 今度の服は若干じゃっかん灰色寄りの黒と白のハウスチェック柄。中々かわい……いや、格好良いな? 試着してみると……

「おおっ、こりゃ良いなぁ……。奈緒のセンス、光ってるぅ!!」

「俺のセンスが光っているのでは無く、お前のセンスが壊滅かいめつ的なだけでは……」

「うるせぇなぁ。でも、ありがとね。良い服を選んでくれて。他にどんな服があるかな?」

「他か? もっと見たいか?」

「うん。もっともっと色々回ろうよ!」

「ああ、選んでやるから来い!」

 僕は奈緒と二人で、沢山の店を回り、沢山の服を買った。基本的に色は白と黒という方向性で、どんな模様が僕の雰囲気ふんいきに合っているか、別の服との組み合わせはどうか、等。僕の為に奈緒が見て、厳選げんせんしてくれた。

 そうしている内に、もうあっという間に昼の二時。昼飯の存在を忘れていた。遅めの昼飯を、セルフうどんで食べる。

「奈緒、いっぱい買っちゃったね……」

「気に入ったか?」

「うん! 奈緒みたいに白黒系でお洒落に、格好良く……」

「俺は可愛く選んでやったつもりだが」

「でも、僕の中では格好いいから……だから良かった!」

「そうか。では一つ……俺からお前に選んで欲しいものがある」

「なあに?」

「……ついてこい」


 昼飯を食べ終わったら、僕は奈緒に連れられてある店へ。って、ここ…………

「ラ……ランジェリーショップ……えっ? 何? どういう考えなの? 僕にここに入れって言うの? 入れる訳無いよ! こんな場所!」

「いいから入れ!」

 奈緒は強引に僕を店の中に入れた。

 四方八方しほうはっぽう女性用下着に囲まれて、視覚が……ヤバい、めっちゃヤバい。正気を保てない、こんな場所に入ったら。

「僕に……僕に何をして欲しいの?」

「決まっているだろ? お前に俺の下着を選んで欲しい」

「はっ……? はああああああああああああああああっっっっっ????」

「リアクションが大袈裟すぎるぞ、お前。俺に似合う下着を選んで欲しい、ただそれだけの話だ」

 試着は不可能、だから想像で補うしかない。要するに、下着姿の奈緒を僕に想像しろって? 出来るか……出来るかよ!!

 いや……待てよ、露出ろしゅつ面積は水着と同じ……水着なんて一昨日おとといは散々見てきた。何で下着って事でこんなになるの? そう、同じだ、同じなんだ。だから……下着だって……平気だ、平気……。

 やっぱりダメだ! 無理! こんな場所……。歩けども、うつむいて……

「下を向くな! 前を向け! 下を向いていたら何が売っているか分からないだろう?」

「ぐぎぃ!」

 本当に強引なんだから! 僕の顔を無理矢理前に持っていって!

 ったく、何の罰ゲームなんだよ、これ!

「何で僕に選んで欲しいの? 自分で選べば良いじゃん」

「たまには他者から意見を取り入れたくてだな」

「僕のファッションセンスが無い事くらい分かっているでしょうが!! よりによってその僕に!!」

「それはお前自身に関してだ。客観的な視点に立てば違うのではないか?」

「そっ……そうかもね」

「とにかく、俺自身では気付かない客観的な視点から選んで欲しい。客観的な俺の美しさはお前が一番理解していると思うから」

 ギクッ!!

 もう断れねぇよ、美しさを一番理解している、なんて言われちゃあ!!

 よし、選んでやる、選んでやるよ!! とびきり美しい下着を!!!!

 僕は奈緒を輝かせるような下着を想像してみる。

 僕は奈緒の恋人。の前の前戯ぜんぎ。おっぱいをブラウスの上からみしだいた後、ブラウスを脱がせる。そんな時に『ボロン!』と出てきたGカップの巨乳に着いていると嬉しい下着…………

 最低っ! 最低っ! 本っ当に最低っ! 何でこんな事を考えるんだよ、よこしまな事は考えるな、綺麗な心で……奈緒の美しさを引き立てる……いや、多かれ少なかれ、やっぱり邪な考えが混じっちゃうよ!!

 どうすりゃ良いんだ……こりゃぁ……邪な考えも込み、清濁せいだくあわせた考えで……そう、直感で選べば良いんだ!! 直感で思う、奈緒の美しさを引き立たせる下着と言えば……これ! これだぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!

「こ……これとか……」

 ピンクの花ランジェリー、これしか無いっ!!

「ピンク? 俺の柄では無いと思うが」

「だ……だけど、その……黒いカーディガン、白いブラウスの下に潜むピンクと言うのが、その……」

「めっちゃシコいな」

 言うなよ、言うな! 僕が一生懸命抑えてきた感情を!

「自分でも気付かなかったが、考えてみればとんでもないシコリティだな。お前、良い線行ったな! 帰ったらシコるわ」

「心の中にいるんだよなぁ……。自分を見て自分で?」

「そうに決まっているだろ」

「ナ……ナルシストっ!!」

「ナルシストのどこが悪いのか? 自己肯定感が強いという事だぞ?」

「ま、まあ……実際美人だし……。というか下品な事言うのやめてよ。美人が台無し……」

「やめるか。別にお前の為の美人では無いのだから」

「…………。もう帰ろう、帰ろうよ! 目当てのものは買ったのだから!」

「この店の居心地いごこちが悪いのか?」

「そっ、そうだよ! もうっ、分かっている癖に! 早く、早く帰らせて!!」

「全く、しょうがないなぁ」

 奈緒は下着を購入したら、僕を連れて店を出た。

 これでもう原宿ですべき事は終わった。電車に乗り、神田に戻る。

「もうっ、奈緒っ、心臓が止まるかと思ったよ!」

 電車内で言ってやった。

「フフッ、あのしどろもどろな反応、可愛かったぞ」

「可愛いっ? 僕は可愛くなんか無いっ! 僕は格好良いイケメンに……イケメンに……」

「そうやって虚勢きょせいを張る所も可愛いなぁ」

「やめてっ! 僕に可愛いとか言わないで!」

「お前は本当に分かってないな、自分の強みに」

「一生分からなくて結構ですよだ」

 可愛い、じゃなくて格好良い、って言って欲しいのに。奈緒はいつになったら僕の事、格好良いと思ってくれるのだろう。早く気付いて欲しいな、僕の格好良さに。

 そして考え直して欲しいな。『年下の小さくて可愛い男の子』なんかじゃなくて格好良い男子を好きになれるように!! 好みの『年下の小さくて可愛い男の子』を見付けて、れてしまう、その前に!!

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