第六話 海に温泉で気が気でない ②

「うわぁ、広い部屋っ! これ全部あたし達で使えるの?」

 僕達が宿泊しゅくはくする部屋を見た優奈がキャッキャと騒ぐ。

「ああ、広い部屋に加えて貸切露天まであるぞ。最高だろ?」

 奈緒が自慢げに話す。

「で……見た感じ二人がベッドで寝て、二人がたたみで寝る感じになるけど……どうする?」

 理沙先輩が言う。

「僕は残った所で良いですけど……」

「あたしは奈緒と隣が良いな……。夜、一緒に話がしたいし。奈緒はどっちが良い?」

「決まっているだろ、ベッドだ」

 奈緒は答えた。

「じゃあ決まりね! あたしと奈緒がベッドで寝て、優奈さんと颯太君が畳って事で」

「えーっ、ベッドが良いなぁ」

「颯太……お前、残った所で良いと言ったよな?」

「な、奈緒っ……でも、畳は寝心地ねごこちが悪いし……」

「じゃあ、あたしと颯太君が一緒のベッドに寝て、奈緒と理沙ちゃんが一緒に寝れば解決じゃない? どうよこの案!」

 はあっ? 何だこの馬鹿姉貴。

 僕と一緒のベッドで寝るのは奈緒だ、奈緒と一緒のベッドで寝るのは僕だ。冗談でも言って良い事と悪い事があるだろ!!

「ふざけんな!」

「うわっ、その気迫……何があったの?」

「何でもねぇよ!!」

「……もうじゃんけんで決めた方が良いね。最後まで残った人から選んでいくのでどうかな?」

 理沙先輩が提案した。

「そうですね、そうしましょう」

「じゃあ……最初はグー、じゃんけん……」

 四人でじゃんけんをして、順にどこで寝るか決めていった。結果は……。

「これで決まり! 文句無しだよ!」

 結局、僕は最初に負けて残り物を引くことに。僕と奈緒が畳、理沙先輩と優奈がベッドになった。奈緒と隣同士……一瞬ドキッとしたけど、よく考えたらいつもの事だった。今更驚くまでも無いよな……。

 優奈と理沙先輩はベッドで寝転がり、僕と奈緒はソファに座った。

「それじゃあ最初に俺と理沙が入って良いか?」

 奈緒が言う。

「良いよ。次はあたしと颯太君ね!」

「やめて」

 本当に何なんだよこの馬鹿姉貴。

「あたしの乳首を見るチャンスなのに……」

「黙れ」

「もうっ……。じゃ、奈緒と理沙ちゃんの二人、早く入ってよ」

「ああ、分かった。カーテンを閉めさせて貰うぞ」

「カーテン?」

「中から丸見えだからな、露天風呂」

「あっ、そっか。入ってきなよ」

 奈緒と理沙先輩は、まずはカーテンを閉め、その後脱衣所へと行き、露天風呂に入った。

 このカーテンの向こうに裸の奈緒がいるんだ、こんな近くに……。この背徳感はいとくかん……ドキドキして堪らない……最低だ、僕。朝からずっと、奈緒でエロい妄想ばっか。これじゃあ風見達と何ら変わらないよ。悲しいかな、僕も所詮は男なんだな。奈緒よ、この最低な弟を許せ!


「あたしらは何をしようか。ねぇ、颯太君っ……」

 奈緒と理沙先輩が温泉に入り、僕と優奈の二人になった所で優奈が話を始めた。

「勉強するって話だったんじゃ……」

「じゃああたしと一緒に勉強する?」

「何の?」

「保健体育の実技!」

「………………」

「颯太君! 無視しないでよ、もうっ!」

「じゃあ何をしたいの?」

「うーん……。じゃあ、お話でもしない?」

「お話? 良いよ、何の話をする?」

「颯太は……奈緒の事をどう思っているの?」

「奈緒の事? 好きだよ」

「好きなの?」

 …………うわああああああああっ!!!! やらかしたああああああっっっっっ!!!!

 うっかりこんな重大な秘密を、いとも容易たやすく! ヤバい、どう誤魔化せば良いんだ、うわっ、うわああっっ!!

「あっ、好きって言ってもそう言う意味じゃなくてぇ、お姉ちゃんだもの。頼れるお姉ちゃん……」

「正直に言いなよ。本当は好きなんでしょ? 奈緒の事、恋愛対象として」

 ギクッ!!

 そうだよ、好きだよ! 出会って一目で恋い焦がれた相手、今でもそれは変わっていないよ!!

 だがはっきりと言える訳無いだろ? なあ、どうすりゃ良いんだ。

「変な疑惑を立てないでよ! そんな感情……ある訳……」

「私には分かっているよ? 奈緒には聞こえないんだから、言って良いんだよ。好きなんでしょ?」

「……そういう優奈は奈緒の事をどう思うの?」

「自己中で暴力的で、高慢で傲慢で……本当に嫌な妹。昔からずっとあたしの事を見下してきたんだから」

 ボロクソだな、概ね同意するけれども。

「でも、優奈が奈緒に勝てる要素って……」

「あるよ。おっぱい! おっぱい! おっぱい! あたしの方がデカいもんね! だってHカップだもん!」

「それ以外には……」

「人の価値はおっぱいで決まるの!」

「どういう基準だよ」

「人類普遍の法則、サピエンス全史にも書いてあるの!」

「デタラメ言うな馬鹿姉貴」

「あーっ、あたしの事馬鹿って言った。いーけないんだいけないんだ、カバに百回謝ってくるんだぞ」

 付き合ってられねーわこの姉。

 僕は無視して、イヤホンをスマホに接続し、大音量で音楽を聴く。優奈の声を遮るように…………

[意外っ! 颯太君も洋楽ようがく聴くんだね]

 LINEで喋ってくるな!

 仕方が無いから僕はイヤホンを外した。

「颯太君は洋楽だと何が好き? あたしはオアシスかな。よーまいわんだーうぉ~♪」

 うわっ、音痴おんち

 この姉にはツッコミが追いつきません。とても奈緒の姉とは思えないなぁ……。

「ふぅ……。最高だったぞ、露天風呂。次、入るか?」

 こうして優奈と話している内に、奈緒と理沙先輩が露天風呂を出た。二人は浴衣ゆかたを着ていた。

「ねえ奈緒、折角だからあたしらの浴衣姿、颯太君に撮って貰おうよ」

 理沙先輩が言った。

「そうだな、頼んで良いか?」

 奈緒が言う。

「はーい、じゃあ……はい、チーズ!」

 今度は二人並んでオーソドックスな構図。撮った写真を見せると、二人とも嬉しそうだった。

「じゃあ、今度は僕が露天風呂入るね」

 僕は言う。

「あたしも! あたしも!」

 優奈が余計な事を言った。

「優奈……黙ってろ!」

「ええっ? 裸でなんて言ってないでしょ? 水着があるんだからぁ」

「さっきは裸で入るみたいな言い方だったよね?」

「もっ、もうっ……忘れなよ!」

「じゃあ俺と一緒に入るか?」

 …………はっ?

 はあああああああああっっっっっっっ???? 奈緒が、奈緒が……僕と…えっ? ちょっと待った、理解が……理解が……

「な、奈緒……本気ぃ?」

「冗談に決まっているだろ」

「だ、だよね……アハハ」

 何だよ、このからかい方。今日だけで二度目だぞ……。

「じゃあやっぱりあたしが……」

「姉貴は黙れ」

「……入ってくるよ。カーテン閉めっぱなしにして、のぞかないでね」

「誰が覗くか馬鹿」

 僕は浴衣を持って脱衣所へ行き、服を脱いで露天風呂へ。美しい海を眺めながら湯船に浸かる。


(いつ言えば良いんだろう……)

 奈緒と出会ってから、惚れてから、三年と四ヶ月。好きだ、大好きだ。彼女にしたい。結婚したい。養子同士は結婚出来る、問題ない! だけど……何で言い出せないんだろうな、僕。

 そろそろ想いを打ち明けた方が良い? それとも隠しておくべき? 何度も自問自答しておいて、未だに答えが出せない。でも、これだけは言っておきたい。海よ、僕の声を聞いてくれ!

「好きだー-----------------!!」

「うるせーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

 どこからともなく、野太のぶとい声が聞こえてきた。赤っ恥だ! とんだ迷惑だったな! 大きな声で謝ろう。

「ごめんなさーーーーーーーーーーーーーーーーーい!!」

「それもうるせーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

 もう黙るわ。

 海をゆっくり眺めて、奈緒への想いを募らせる。今度は恋人として、一緒に来たいなぁ。その時は貸切露天風呂で二人っきりで混浴してついでにおせっ……何考えているんだ僕は。

 髪と身体からだを洗ったら、僕は風呂を出て、浴衣に着替えて部屋に戻った。

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