大谷焼の風呂

増田朋美

大谷焼の風呂

大谷焼の風呂

その日、鯖江百合子は、久しぶりに徳島を離れて、まるで自分の知らない町にやってきた。その町は、徳島に比べると、人が多くて、電車も一時間に何本も走っていて、大きなショッピングモールもあって、非常に近代化されてしまった町であった。はあ、こんなにすごい街が、同じ日本にあるのかあ、と思われるほど、この町は、全然違っていた。そこの百貨店で行われる、徳島物産展に出品するため、彼女はこの町にやってきたのだ。

しかし、彼女は、どうしてもこの街には、なじめないなという気がしてしまった。確かに、百貨店のある大きな町であるが、どうも、近代化しすぎていて、電車から見える景色は、大きくて四角くて、背だけ大きな建物ばかり。そんなモノより、徳島の、田んぼが広がって、ところどころに、ぽつんポツンと民家がたっているような、そんな風景が見たい。百合子は、そんなことを思ってしまったのであった。

多分きっと、この街では、徳島で有名な女優なんていっても通用しないんだろうな。まあ、私は、いわゆるご当地アイドルみたいなものだから、こうして、物産展にも同行するようになったのだが、なんだかこういう街には、ちょっと、なじめないなあと思ってしまう。やっぱりあたしは、田舎娘ね。そんな気がしてしまった。

そんなことを考えながら、彼女は、徳島物産展の一角に立っていた。彼女の周りには、陶器の睡蓮鉢とか、小さな徳利や、ラーメンのどんぶりなどが置かれている。近くには、大谷焼と書かれた旗も置かれていた。いわゆる、徳島名物と言われる大谷焼を紹介するコーナーに彼女はいた。だが、

徳島物産展に、客は入ってきてくれることは来てくれるんだけど、この陶器の紹介コーナーではなくて、徳島ラーメンとか、そっちのほうに行ってしまう。ラーメンのどんぶりとか、徳利なんかに、興味を持ってくれるお客さん何ているかな、と思われるほど人は少なかった。

結局彼女は、その日一日、物産展の一角にいるしかなかったが、大谷焼のコーナーにあら割れる客は一人もいなかった。閉店間際の百貨店で、とりあえず明日の日程を確認しながら、百合子は、あの時のことを思い出す。ああ、そういえば、あの時、杉ちゃんという人が現れて、大谷焼のラーメンどんぶりを買っていったんだっけな。確か、何とかという人に、ラーメンを食べさせるんだと、杉ちゃんという人は、やっきになっていたっけ。そんな客は、もう二度と、現れることはないのかな、と、彼女はふっと思い出したのであった。

「明日は、なんとしてでも、この大谷焼を売り込まなきゃ。そうでなければ徳島の土地が泣くわよ。」

と、一人でつぶやいたけど、聞いてくれる相手もいない。ほかの徳島ラーメン担当者とかは、好調な売れ行きで、にこやかにしているのだから、百合子はとても寂しかった。

せめて、大きな甕は売れなくてもいいから、ラーメンの器くらいは、一つか二つ売れてほしい。あたしは、徳島を代表してきているようなものだもの。ラーメンを買うのと一緒に、器も買ってくれないかな、なんて思っていたのだが、こんなに売れないとは思わなかった。

翌日、また売れない物産展会場に、百合子はやってきた。今日こそ、一つでいいから、何か大谷焼を売り込もう!と、彼女は、決断した。客が、自分の名前を知っていても、知らなくても、彼女は、一つだけ大谷焼を売って見せる。そればかり考えていた。もちろん、大谷焼の代名詞でもある、大甕もちゃんと置いてある。こんなのを販売して何になるんですか?と突っ込みを入れられそうだけど、この大きな甕が、大谷焼の代名詞であるはずだから。

彼女が、そんなことを考えながら、大甕を眺めていると、一人の男性が、足を引きずりながらやってきた。なんとなく、どこかの俳優にでも似た面持ちがある、ちょっと繊細そうな顔をした人物だった。

「わあ、すごい大きな甕ですねえ。うちの旅館の風呂桶にでもなりそうだ。」

と、その人は言った。確かに、そこにあった大きな甕は、人が二人か三人くらいでも、入りそうなくらいの大きさだった。

「正確には、お風呂じゃありませんよ。これはね、藍染めの染料を入れるための甕なんですよ。」

と、百合子はその人に言ったが、どうせ、藍染めをやる人も、少なくなっているし、おまけにこんな大きな甕を使いたがる職人も減ってしまっているのが現状だということを思い出した。ある人は、昔の防火水槽かと聞いてきたことがあったが、そっちのほうがよほど理にかなっていると言えそうだった。

「でも、藍染めをやる人は、本当に少ないですし、新しい使い方をしたほうがいいんじゃないですか。それとも、土の材質が、お風呂には向かないですかね?」

と、彼はそういうのであるが、別にお風呂に向かないということはない。だって藍染めの藍液を入れておくんだから、水が漏れる心配はない。

「そんなことありません。水が漏れることもないですし、立派なお風呂として使えます。」

百合子は、急いでそういうと、

「じゃあ、この大甕、一つ譲っていただけないでしょうか。うちの旅館にお風呂として使いたいんですよ。」

と、彼は言った。

「そんな使い方って、あるんでしょうか。」

と、百合子は、ちょっと首を傾げた。

「そうですけど、大甕も、新しい使い方をしてあげないと、なんだかいるだけでかわいそうな気がしてしまうんですけどね。」

彼はそういうことを言う。

「一体あなた、どこで何をしている方なんですか?こんなものを風呂桶の代わりにするなんて、何か変な趣味を持っている方なんでしょうか?」

と、百合子はおもわず言ってしまう。

「ええ、僕は、旅館をやってます。ここからはちょっと遠いんですけど、奥大井の接阻峡温泉というところで。」

と、彼は答えた。

「それで、ここの大甕をうちの風呂桶として使いたいんです。ほら、よく温泉旅館なんかにありますよね。陶器風呂。それをうちでも取り入れたいと思って。」

「そんな使い方されちゃ。もともと、大谷焼の甕は、藍染めの染料を入れるものです。人が入るものじゃありません。」

彼は、百合子がそういうと、そうですかと言って黙ってしまった。

どうしてなんだろう。今日は一つは売り込むと気合を入れていた私なのに、今、大甕を買っていきたいという人があらわれて、こんなにたじろいでいる。なんであたしは、こんなに自分が頼りないんだろうか、よくわからなかった。

徳島の魅力を伝えたいだけなのにな。なんだか、大甕を本来の目的ではなく、人を入れて風呂にしたいなんて使い方をされるのは、非常に侮辱しているというか、そんな気がしてしまうのだ。

なぜかわからないけれど、そういうことを、そう考えてしまう。なぜか、そうなってしまうようなのだ。とりあえず、その人は、とりあえず今日は帰るかと言っていたけれど、大甕を本当に欲しいなという顔をして見つめていた。結局、今日もほかに大谷焼のコーナーに現れた客は一人もおらず、現れてくれたのは、あの男性だけであった。百合子は、もっといいものを買ってくれる人が現れてくれないかなあと思いながら、一人で大谷焼の売り場にいた。

そうこうしているうちに、百貨店の閉店時刻になった。彼女は、また百貨店の店長に、明日もよろしくお願いしますと挨拶をして、とりあえず泊っているホテルに戻った。百貨店の店長は、ほかのものが、順調に売れているので、彼女の販売している大谷焼には、あまり関心の無いようであった。とりあえず、形式的に、あいさつをしたけれど、まあ、とりあえず徳島物産展が終わるまで、頑張って下さい、としか、言われないで、なんだか、こういうところで物産展をしても、意味がないんだなあと思いながら、彼女はホテルに戻る。

ホテルは、何とも言えない、一般の人から見たら、高級なシティホテルであった。まあ、若い女性が一人で泊まるには、ちょっと高級なほうが、安全面では優れていると言えそうだった。とりあえず、ホテル内のカフェで、お夕飯を食べて、あとは部屋の中に戻る。

部屋の中で、彼女は、お風呂にすぐ入ることにした。テレビなんか見ても、どうせ見るものもない。徳島でやっている番組と、こっちでやっている番組は、あまりにも違いすぎるし、共通してやっていいる番組は、大体面白くないことは、彼女も知っていた。

とりあえず、ホテルの引き出しから、浴衣を取り出して、急いで着替えた。しっかり洗濯がしてあって、洗剤のよい香りがする浴衣である。ホテルであるから、浴室というものはない。トイレの隣にある小さなユニットバスである。百合子は、トイレで浴衣を脱いで、ユニットバスの中に入った。彼女は、子供のころから風呂が好きだった。ユニットバスというものは嫌いだった。とりあえず、風呂桶におゆを入れて、肩までゆっくり浸かるのが好きだ。幸い個室だし、誰かに迷惑をかけるわけではないから、ユニットバスに、大量のお湯を入れて、しっかり浸かった。

でも、その風呂は、狭くて、窮屈で、何も面白くなかった。どうせなら、体を思いっきり伸ばして、いい気もちで入りたい。それなら、こんな風呂より、あの大谷焼の大甕に漬かったほうが、よほどよいのではないか。そんなことを彼女は考えた。こんな窮屈でへこむような風呂でなく、体を伸ばして、思いっきり浸かれるほうがよほどいい。

ホテルの風呂は、ユニットバスだから、体を洗う場所がない。なので、一度お湯を全部抜いて、体を洗って、風呂を出た。体をふいて浴衣姿に戻り、ベッドにドカッと横になる。これまで自分の大谷焼のコーナーに、客が来たことは一度しかないが、その男性のことは、はっきりと覚えている。どこかの芸能人みたいな、シャンとした顔だちで、ちょっと足を引きずってはいたけれど、そんなこと関係ないか。そういえば、彼は旅館を経営しているといった。確か、奥大井の接阻峡温泉。百合子は、ちょっと暇つぶしにと思って、スマートフォンを出して、接阻峡温泉と入れてみた。すると、奥大井の本当に山の中にある、小さな温泉街であることが分かった。なんとこんな不便なところに住んでいるんだろうと思う。徳島の鳴門線でさえ、一時間に一本は電車が走っているのに、この地域では、一日五本しか、電車が走っていないのだ。こんなところによく人が住めるのか、というほどの山の中だ。そんなところで、人が生きていけるというのがまずすごいと思った。

そういうところにある、温泉街を誰が利用するのだろうと思った。こんな山の奥の温泉街、よほどの年寄りか、よほど現世でいやな目にあって、静養するためにきている人か、そういう人しか、来ないだろうな、と思われるほど、山奥の温泉街だった。

そんな山奥の人が、大谷焼の風呂桶を買いたいと言ってきたのか。それはもしかしたら、単に旅館の改装というわけでもなさそうな気がしてしまった。

彼女が、いつの間にか気が付くと、朝だった。あーあ、もう朝になっちゃったか、と思われるほど、夜は短かった。とりあえずホテルのカフェで朝食をとり、急いで物産展の行われている百貨店に向かう。

また、店長や、物産展の責任者と話をして、彼女はいつもの大谷焼のコーナーに行った。物産展の責任者も、ほかのコーナーの人たちも、大谷焼には、あまり関心がなさそうだった。まあ、一緒にくっついた人、くらいにしか考えていないようなのだ。どうせ、人間一人入れそうなほどの甕を作ったって売れるはずはないと、徳島の人たちも、考えているようなのだ。

仕方なく、客が来るのもないまま、物産展は進んでいった。ほかの徳島の名物はどんどん売れていくのに、大谷焼はどうしても売れない。水差しも、花瓶も、睡蓮鉢も、ラーメンの器も何も売れなかった。もし、評論家の方が見ていたら、看板をつけてアピールするとか、そういう風に対策をとってくれるかもしれないのだが、そういう人は一人もおらず、ただ、大谷焼を置いてあるだけのことだったのである。

百合子は、あーあ、今日も、お客さんは来ないのかあと思って、ため息をついた。それでは、売れないということだけではなく、ちょっと寂しいなという気持ちもある。ほかの名物を売っている人たちは、お客さんと楽しそうに話をしていたりするのに、自分のところには誰も来ない。なんで皆、こんな風に焼き物には興味を持ってくれないのだろう。もってくれたとしても、風呂桶にしたいなんて、本来の使い方とは、違った使い方を要求されたりとか。せめて、陶器の説明文でも書いておくんだった、と百合子は少し後悔した。

「あの、すみません。」

ふいに声がして、百合子ははっとする。

「昨日は、失礼しました。でも、どうしても、あきらめきれなくって。」

昨日の男性である。

「あきらめきらないって、お風呂にするのをですか?」

百合子は彼に言った。

「ええ、どうしても、うちの旅館にも、陶器風呂をつけたいんです。」

と、彼は言った。やっぱり昨日の男性だ。彼は、山奥の接阻峡温泉から、一日五本しかない電車に乗ってここまで来たのだろうか。そう考えると、百合子も、考えが変わった。

「どうしてそんなに、甕をお風呂にしたいんですか?」

とりあえずそう聞いてみる。

「ええ、うちの旅館は、転地療養に来る人が多いので、温泉に浸かってゆっくり休んでほしいという狙いがあるのですが、その中に、陶器風呂を取り入れたいからです。」

と、彼は答えた。

「転地療養?」

聞いたことのない言葉であった。というか、明治くらいの文献に載っているのを見たことのあるくらいだ。

「ええ、体や心の病気があって、その治療のためというか、環境を変えて休むためにうちを利用してくれる人が多いんです。ちょっと、こういう言い方をすると、サナトリウムみたいですが、まだまだ、うちの旅館で療養してくれる人は多くて。」

「そうなのね。そんな古臭いことが、今でも行われているなんてびっくりだわ。」

と、百合子は、ちょっとしたり顔で彼の話に相槌を打った。

「古臭いことというか、接阻峡は山奥の何もないところですからね、そういう人でないと、利用してはくれませんよ。そういうわけで、うちは、お客さんに喜んでもらうような設備を作らなきゃ。そのために、大谷焼の甕を使ったら、お客さんは喜んでくれるでしょうから。」

「そうなのね。そうやって、お客さんのこと考えてくれる旅館のご主人なんて、今はそうはいないわよね。」

確かに、この大甕を風呂桶として使ったら、昨日泊ったホテルの風呂の何十倍も寛げそうであった。

それなら、この甕を風呂として使っていいかなと、百合子は思った。

「わかりました。じゃあ、この甕をもっていって下さい。後で配送しますから、まず、売買契約書にサインをお願いします。」

百合子は、急いで、自分のカバンの中から、売買契約書を取り出した。男性は、近くにあった机に座って、契約書を読んで、その下の欄に自分の名前を書いた。亀山弁蔵、それがこの人の名前らしい。

「支払いは、今現金を持っていないので、一括でいいですか?」

と、弁蔵さんが聞いた。百合子は、はい、かまいませんといった。分割ではなく一括で払うというのだから、よほど、甕が欲しかったのだろう。迷いもしないで、印鑑も押した。

「ああよかった、うちの風呂も、単なるヒノキぶろだけではなくなりましたよ。風呂は、やっぱりいいですね、日本人らしくて、僕は好きです。」

という弁蔵さん。それを聞いて、百合子はちょっと恥ずかしいというか、なんというか、複雑な気持ちが生じた。何だろう、昨日は、あれほど変な買い方をしないでほしいと思っていたのに、今日は弁蔵さんの話しを聞いて、ぜひ、使ってほしいという気持ちに代わっている。

「でも、奥大井で旅館をやっていて、しかも、転地療養のためにやっているなんて、亀山さんは、もともとは、医療関係とかそういうことをされていたんですか?あ、もし、答えられなかったら、答えなくてもいいですが。」

百合子は、弁蔵さんの出したクレジットカードを返しながら、そういうことを聞いてみた。

「いやあ、医療関係とかそういうことではありません。ただ、かわいそうな人たちはいっぱいいると思ったので。」

と、弁蔵さんは言った。そんなことを、出しゃばりもせずに言うことができるなんて、百合子は弁蔵さんのことがうらやましいというか、弁蔵さんのことが好きになった。できることなら、弁蔵さんが経営している旅館に行ってみたいな、そんな気がしてきた。

「そうなのね。なんだか、それだけがすべてというわけじゃなさそうだけど。そういうことやる人って、芸能人と一緒で、何か特別なことがないとできないような気がするわ。」

百合子は、そういってみた。

「まあ特別なことがあったわけではありませんよ。ただ、大事なお客さんたちがいて、お客さんたちが喜ぶように奉仕したいだけのことで。」

「そうかあ。あたしなんて、そういう気持ちになったことは一度もなかったわ。徳島というと、この大甕以外ぱっとするものがなくて。」

と、百合子は、ちょっとため息をつく。

「今は、徳島のローカル番組で、演技とか、レポーターとか、そういうことをやっているけど、この大谷焼のことは、徳島に住んでいたくせに何も知らなかったのよ。」

百合子は、自分のことを少し話してみることにした。

「あたし、子供のころから注目されていないと満足できない性格で。みんな私のほうを見てって、よく訴えてたの。もしかしたら、単なる寂しがりやだったのかもしれないけど。それで私は、オーディションに応募して、こういう仕事に就いたのよね。」

「そうなんですか。僕も、足が悪かったから、人と接することはあまり多くなかったかな。だから、やっぱり寂しがり屋で、旅館の仕事をしているのかもしれないです。」

弁蔵さんは、百合子と似たようなことを言った。確かに接客業というのは、人がいることに喜びを感じることが多いのである。

「でも、足が悪いので、旅館の経営は弟や妹がやってましたけどね。その二人がある事情で家から離れてしまったので、今は自分が旅館の経営をやっているだけなのかもしれないけど。」

「そうなのね。でも、それは、きっと、本当に旅館をやりたい人に、神様が順番を譲ってくれたのよ。そういうことだと思って、明るく感じたらいいでしょう。」

弁蔵さんの発言に、百合子はすぐにそういった。弁蔵さんは、そうかなと首を傾げた。

「そんな大したことないんですけどね。」

「大した事あるわ。ないんだったら、大谷焼をお風呂にしようとは思わないはずよ。」

百合子は、そういうことを言った。

「それだけ、旅館のことを真剣に考えているから、そういことが言えるのよ。」

弁蔵さんは、そうか、そう思えばいいのかという顔をした。

「あたしみたいな、ただの何もならない芸能人よりは、よほどいいわよ。あたしなんて、そのことで何も知らない、物産展に来ちゃったんだし。ただ、容姿だけが取り柄のようなものよね。」

「お互いのことを、非難しっぱなしではなく、それよりも、お互いのことをほめあえたらいいですよね。」

百合子がそういうと、弁蔵さんがそういうことを言った。

「レポーターでも、旅館をやってても、皆、誰かのためにやっているじゃないですか。それが一番大事だと思うんですが、どうでしょう?」

「そうですね。あたしが、人に何かしてあげることって果たしてあるのかしら。ただの、容姿が取り柄の芸能人だわよ。あたしは。」

百合子は、そのむなしくなる原因を、弁蔵さんに言った。

「そうかもしれませんが、人に何かしてあげられることはあるんですから、それを大事にしてください。」

「わかりました。」

百合子は、にこやかに笑って、次の話題に取り掛かることにした。

「じゃあ、大甕風呂の設置工事とかどうするのか、教えていただけないかしら?」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

大谷焼の風呂 増田朋美 @masubuchi4996

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る