死神休憩戦
第14話 黒色は飲み込む。白色は喰われる
ゆっくりと瞼が上がる。真っ白い天井が見える。
大きくゆっくり息をする。空気が喉をしっかりと通った。
次に拍動を感じる。ゆっくりではあるが確実に心臓は動いている
それより、ここはいったい・・・
「目が覚めましたか?」
右手側から聞き慣れた声がする。
首だけを動かして声のほうに目を向ける。
真っ白い壁の前に、死神がいつも通りの笑顔で椅子に座っている。
「荷物もなくなってたから誘拐でもされたのかと思いましたよ」
その小さな笑みは、今までのどれよりも乾ききっている。
「あの、私どうなってたんですか?」
ゆっくりと体を持ち上げる。体は動くし、声も出る。
ただ、悪寒だけは強くなったような気がする。
「ご自身でも分かっていると思いますが、急に全身に異常が起きて倒れました。意識を失った直後にワタシと後輩さんが駆けつけてここに運んだ。大まかな流れはざっとこんな感じ」
そうか、何とか見つけてもらえたのか。
それは、感謝してもしきれないな。
「っさて。ここからが本題です。まだまだ話すつもりはありませんでしたが、『症状』が出てしまっては、話さざるを得ません。」
死神は立ち上がって私の寝ていたベットの正面に回る。
病院のベットのように柵が付いているが、ここは病院ではないことは明らかだ。
死神と私以外誰もおらず、先の見えない真っ白な空間がどこまでも続いている。
柵に両手をついて、死神は話し始める。
「あなたを襲った異常は悪寒の次の前兆です。ここからは本当に時間との戦いです。もう寿命を奪うこともできません。死ぬまでのカウントダウンが始まりました。それを先に伝えておきます。それを踏まえて、今後のことについてを、詳しく話しましょう」
死神はブレない。何が起こって、何が起こらなくとも。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
この真っ白な空間は死神便利術最大の創造物です。
頭を『覗く』のも『迎え終わった』時に次の方の情報がすぐ入ってくるのもすぐに傷が治るのも全て便利術として「創った」ものです。
死神も神様の端くれ。人間とは一線を画く「創造力」が備わっています。
この空間もその一つです。
この空間で活動できるのは『迎えられている』本人とその死神だけ。
あとのモノは入り込もうとすればハジかれ、誤って入ったモノは追い出されるようになっています。
なので、後輩さんには運んでもらう間だけ、空間を別にして運んでもらいました
今は外で道草食ってもらってます。
そして、この空間が必要になるということは、言葉の通り死が目の前まで来ている状態の時です。
異常が起きた時、あなたのことを誰も助けようとはしなかったでしょう。
ですが間違ってはいけないのは、決して人々があなたに恨みを持っているからでも、見捨てたわけでもありません。
彼ら彼女らには、もう見えていなかったのです。
後輩さんから聞いてもらった通り、あなたが死ぬと、あなたに関するあらゆる痕跡が抹消されなかったことになります。
それは死ぬ瞬間もそうです。
死ぬ瞬間も、この世の誰からもあなたは認知されません。
それが死神に迎えられた人の末路です。
出来ることなら、このことは話したくなかった。
あなたは今でも、不遇には耐えられても、不条理には耐えられなかった。
弟さんが、悲惨な惨劇に巻き込まれたときから、あなたは自分を恨み続けた。
助けられなかった自分を憎み、後悔し続けた。
そして、自分の殻に閉じこもるようになった。
そうなってしまえば「やるべきこと」を終わらせられない可能性がある。
それだけはあってはいけない。
でも、望み通りには立ち行かなくなってしまった。
だから私は賭けました。あなたの命を奪った弟さんのためなら、あなたは立ち止まらないでくれると。
・・・・・・・・・・・・・・・・
背を向けた死神の表情は分からない。声の音も変わらない。
しかし色はどこまでも無くなっていく。
白くなんてない。
見えないはずの向こう側が、偽りなく映り込む。
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