第12話 熱いものは冷めやすい。さて真か
頭痛が痛い。悪寒が寒い。乗る前に買った既に空っぽのお茶の空き缶。
そして死に際に死神。
が、ダブルブッキング。
片方は常に心のこもってない笑顔の飄々もじゃもじゃの死神
もう片方は心がこもりすぎてる笑顔の溌剌ストレートの死神
笑顔と死神という共通点以外のすべてが相反する2つが、重なり合う。
物理的に。
いまだに起きる気配のないまま、もじゃもじゃのほうは眠り続けている。
重なっているせいで見えづらいが、寝返りをうっているようで頭の向きが何度か入れ替わってる。
対してストレートのほうはもう一人の死神の存在なんて微塵も感じない様子で説明を続けている。
死神の上に座って仕事をする。度胸のある人を肝が据わっているというがこれは座りすぎだ。
精神的に。
「・・・これでとりあえず説明しなきゃいけないことは一頻り終わりましたが、聞いておきたいことがあれば聞いてください!」
冊子を閉じた死神はこちらを真っすぐ見つめる。
混じりけのない真っすぐな視線が容赦なく襲ってくる。
眩しすぎて痛い。明るい人とは昔からそりが合わなかったが、死神もその範疇のようだ。
「あ、いや、特にはないです。ありがとうございます。」
見つめられると起こる弊害は緊張による動揺だ。
言葉選びを惑いに惑い、言いたいことを全く言えない。
視線から逃げて、一目散に状況の終息にかかる。
視線というのは危ない。レーザービームだって誰か歌ってたし。
「それでは、死ぬまでの間まだまだ新米ですがよろしくお願いしまスッッ⁉」
目の前で死神の体が跳ね上がる。下半身が胸より高く飛び上がり、前のめりになっている。
予期せぬ出来事に私も死神も何の反応もできず、そのままおでこを壁にこすりながら床に激突。
死神は声以外にも環境音も周りのも聞こえないようで、情けない短い悲鳴を出した私にだけ、向こうの席から冷ややかな睨みが贈られた。
一連の発端は腰を上げると、首を鳴らして投げた死神に笑いかける。
「まったく~。勝手に人の仕事取らないで下さいよ~。こっちだって真面目に頑張ってんですから」
大きく伸びをして、死神は続ける。
「仕事熱心で多くの人を迎えたいそのポリシーは素晴らしいですが、他人のもの横取りしてまでは許されませんよ。私たち人じゃないですけど」
寝起きなのにすらすら言葉が出る死神が、今度は大きなあくびをして、また腰を下ろす。
飛ばされた死神はおでこを宛がいながら立ち上がると、正面切ってもじゃもじゃに挑みかかる。
「先輩は毎度毎度のらりくらりしすぎです!ほんのちょっと頑張ればもっとたくさんの人をお迎えできるのに!にやにやしないでください!」
「誰も彼もがお迎えに来てほしい人ではありませんよ。一人で静かに亡くなりたい人もいれば、死ぬことに芸術を見出す人もいます。他にも死ぬことが救いだったり勇気だったりする人もいるんです。それにちゃんと最低限はこなしてますよ。無理にする必要はありません」
「そんなことをしてたら『やるべきこと』いつまでたっても消化しきれません!もうちょっと頑張ってください!」
「若いからできるんですよ。ワタシみたいなおじさんにはもう無理です」
「適当言わないでください。死神に体力制限はありません!もっときびきび動けるはずです!」
どこで割って入ろうか狙っていたが、どうやら全然止まる気配がない。
どんどんヒートアップしてきている。
売り言葉に買い言葉だ。もじゃもじゃは先輩らしく冷静に宥めてはいるが、情熱にせかされて溌剌はブレーキがかかりそうにない。
また長くなるぞこれ。今度は電車の中で。
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