第11話 夢は欲望の幻 現実は非現実の追い打ち
「へ・・・?」
昨日から何度目かの思考ほぼ停止状態。
以前一度だけ仕事をした女性が死神。
その死神が私のことをお迎えに来たとのこと。
そしてその死神は、初めに私を迎えに来た死神の上に座っている。
座られたもじゃもじゃ頭の死神は変わらず透けたまま。
いったいどうなってる死神の人事部は。
もうすぐ死ぬ人間に死神2人はコストの無駄だよ。もったいないよ。
「え、どういうことですか?」
「えーと、簡潔に言うと先生は残念なことに早々にお亡くなりになります。それで、死んでしまう前に『やるべきこと』が何点かございますので、それを私とともに順々に完了して頂きます」
違う。それじゃない。いやそうなんだろうけど! 死神側からしたら一番い説明しなきゃいけない事なんだろうけど!
現在進行形で死に直面し続けてる私が聞きたいのはそこじゃない。
「大丈夫です!安心して下さい!心配ありません!私自身まだまだ新米ですが研修も優秀生でしたし、既に数名無事に迎えきることが出来ましたから!任せてください!」
前のめりに向かってきた彼女の圧に負け、背中が窓の当たるほど後退する。
だいぶ興奮気味なようだ。
両手をがっちり握られ、目を逸らすなと言わんばかりの至近距離で見つめられる。
恐らく、この死神として仕事が好きだからここまで熱くなっているのだろう。
素晴らしいことだ。好きという気持ちはどんな報酬よりもモチベーションになる。
・・・・・・・・・・・・・
いや、そうじゃなくて!!!!!
「あの、えっと、お気持ちはとてもありがたいのですがその、えーと、もう間に合っているというか、なんというか、」
「間に合ってる?いやいやそんなことありえませんよ。死神はお一人様に一人までと決まっていますから」
透けっぱなしの死神に負けず劣らずの満面の笑みで解説される。
これが飛び込み営業だったら効果覿面だったろう。端正な顔立ちに元気な声に新人の熱意。
本心で心のこもった笑顔を見せつけられては、相手先もご機嫌になって軽―くハンコを押してしまうだろう。
だが、死神という仕事をしている前知識のせいで素敵な笑顔に不安がこみあげてくる。
早い話、もじゃもじゃの笑顔を見慣れすぎて感情がこもることに違和感を感じるようになってしまった。
いいことではないはずだが。慣れというのは恐ろしい。
「あの、とりあえず落ち着いてください。急にそんな一遍に言われても付いていけません。一旦座りましょう」
「ッ!! これは大変失礼しました!用件を一方的に押し付けてしまい!」
顔の赤みが取れないのは興奮が収まった分の羞恥心が入ってきたからだろう。
恥ずかしそうに席に腰を据えて、再び死神同士が重なり合う。
付いていけないと言って諭したが、実際、付いていけないのは死神の存在でも『やるべきこと』でもない。
なぜ私に2人来たかだ。
お一人につき一人がルールじゃないのか。やっぱりどうなってんだ死神人事部。
「じゃあ、まず最初に『やるべきこと』について簡単に説明しますね!」
あ、だめだ。この子もう止まらない。分かりやすくするために手作りの冊子取り出してるし。
しかも絵柄の多いやつ。視覚的に見やすくて直観的に理解できるやつ。
「では、3ページ目に具体的な流れと注意事項が書かれてるので、まずそこを開いてください」
目にもとまらぬ速さで膝の上に置かれた冊子を何も考えずに開く。
ここまでされたらもう止めるのも無粋だし面倒くさい。(面倒くさがってはいけないはずだが)
おとなしく気が済むまで語ってもらうほうが、モノの流れがスムーズな時もある。
多分、内容はすでに聞いてあるものが殆どだろう。軽く聞き流しながらいればいつの間にか終わってる。
まだまだ自然豊かな外の景色を楽しむことにしよう。
「まず、一番重要な事として。死神を認知した人は基本的に早いうちに亡くなってしまいます。ただ注意すべきなのは、誰かから寿命を奪えば生き永らえれること。そして死んだあと、この世界のありとあらゆる先生の情報が消え去ります。記録、経歴、人の記憶の中、過去に自身が産み出した作品など。端から端まで先生の存在は欠片も無かったことになります」
先の発言を訂正する。どうやら私は、貧乏くじも引かなきゃ済まない性分なようだ。
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