第9話 時は金なり。 では命の価値は如何ほどか

翌日午前9時。ホテルをチェックアウトして、死神と揃ってエントランスを出る。


空はどんよりと曇り。朝食を食べながら見たニュースでは雨は降らないが、気温はあまり上がらないらしい。


夏真っ盛りだが、半袖では肌寒かったので死神の選んだ服から1枚ピンクの薄いカーディガンを借りた。



というか、仮に着れたとして、見た目が男の死神がなぜピンクをチョイスしたのかは疑問だが私が着る分には何の問題もない。一応女だし。





「随分印象代わりますね~。馬子にも衣裳ってやつですか?」



雀と戯れていた死神は、相変わらぬにやけ顔でそう言った。



「一言余計ですが、誉め言葉として受け取っておきます」


「捻くれてるな~。冗談ですよ冗談。イッツ!ア!ジョーク!」




外国人に被れても大して面白くはない。心がこもっていないから。


表面だけいじっても中身が伴わなければ意味はない。人間性といっしょだ。




・・・・・死神性ってあるのかな。




「では、本日も発表します。記念すべき2つ目のやるべきことは~・・・ドルるるるるるるっ…」



ドラムロールは相変らず下手くそだ。それこそ死神便利術とやらで解決すればいいのに。



「ダンッ! ドキドキッ!お墓参りでーーーす!! 」



はぁ・・・・?



「死神が死んだ人に挨拶に行くんですか」


「そゆことですね。そう聞くとなんだかシュールで面白いですね」



鼻で笑ってはいるが本心で楽しそうではない。



もう昨日とは感じが違う。



昨日は少なからず心を感じた。私の嫌った感情が私の命を繋ぎ止めた。



その暖かさは死神のものだったはずなのだが。


「早速行きましょう。今日は昨日よりもたくさん移動しますから」


今日も今日とて元気いっぱいの死神は、見ていてこっちが疲れるほど無垢で無邪気

だ。


心が無いと言ったが、ないからこそ無邪気なのかもしれない。


汚れるものが最初からない。だから綺麗でいられる。


死神とは不思議な存在だと改めて痛感する。


死神と出会う人生。小説より奇なりというがこれは奇すぎる。


それは、昨日までの私なら嫌っていた生き方だ。


でも今は、少しだけ嫌いじゃない。


死神にわずかな希望を見出す。


安定しない情緒も、嫌悪で生きてきた20数年も。


少しくらいはよかったのかも。


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