第8話 夜は大人しい。想像は虚に染まる
「本当にご迷惑おかけしました。ごめんなさい」
包帯を巻きながら死神に謝罪する。
無責任に命を捨てようとした私を、文字通り身を挺して守った死神の左手は血だらけになっていた。
「そんな真面目に謝らなくていいんですよ~。死神は殺されても死にませんから」
気に食わなかった笑顔は、今見せつけられると罪悪感でいっぱいになる。
死神の左手は傷はあれど、貫通した穴は既に塞がっていた。
つい数十分前まで、私は死神の胸に顔を預けて盛大に泣いていた。
父が死んだときもこんなに泣きはしなかった。恥ずかしい。
父以外の男性の前で泣いたことないのに。恥ずかしい。
やっと泣き止んだ時には、死神もさすがに疲れ果てていた。笑顔が若干ひきつってる。
長いこと死神をやっていて自殺した人は何人もいたけど、初めて遮ってしまった手前ここまで泣かれるとは思っていなかったそうだ。
ほんとのホントに、彼が死神だとこれを機に信じることにしよう。
「死神は死ぬことはないですけど痛いものは痛いんですよ~」
本当に申し訳ない。
「でも、これで少し思い直してくれてらうれしいです。命は大切なものだって」
はい。その通りにさせていただきます。
包帯の巻き心地を確認すると、死神は大きな欠伸をした
「今日はもう寝ましょう。明日はもっと遠出しますから」
「そうですね。ベットはあなたが使ってください。私は机に突っ伏して寝るので」
「え? 何でですか。一緒に寝たらいいじゃないですか。ベットあるんだし。」
「いや、でも狭いですし。それに刺してしまった罪悪感というかなんというか・・・」
「はいはいそんなこと気にしな~い。いいからとっとと寝ますよっと」
軽く持ち上げられ、そのままノータイムで布団に投げ込まれる。
私はどこかの国の姫なんかでもない。だから一生のうちにこの抱かれ方をするとは思っていなかった。
若干緊張する。
すぐさま電気が消されて、真っ暗な空間に外からほんの少し夜景の光が入り込む。
部屋の奥。壁に沿って私が寝ていて、ドアから真っすぐある通り道に沿って死神が寝ている。
ベットは想像より窮屈ではなかったけど、大人一人と死神で寝るのに窮屈なのに変わりはなかった。
死神の体温を感じる。
自殺を止められたときは気づかなかったけど、死神なのに、体は冷たくないのだなと知った。
血も出てたし、人間と造りは変わらないのかもしれない。
機会があったら聞いてみようかな。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「まだ起きてますか」
背中越しの死神にそう聞かれる。
「えぇ、起きていますよ」
「ならよかったです。私はもう意識が朦朧としてきまして、傷を治すのに体力を使いすぎてしまったみたいです。眠る前に言っておかないと。と思いまして」
「明日のことですか?」
「明日のことです」
少しの間だけ音が消える。そして少しだけ言葉が聞こえる。
「明日も無事に生きてください」
死神の静かな寝息が聞こえる。
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