君がくれた物語 『溶けた栞』
【作品情報】
『溶けた栞』 作者 霜月ヒデリ
https://kakuyomu.jp/works/1177354054918241846
【紹介文】
生きる内に積もっていく記憶。
かすれ、うすれ、いつしか色褪せてしまう『それ』には、どんな想いがありましたか?
主人公である“僕”がなぜ“君”にそこまで特別な感情を抱くようになったのか──その詳細が終始語られることはないので、読者によってはやや物足りなさを感じた方もいるやもしれませんが、私は好きです。
仔細をあえて語らぬことで読み手一人ひとりの『恋』に至った経緯が想像できるでしょうし、なんならその空白を知らず自身の体験談で補完した読み手だっているかもわかりません。
何より実際初恋って今となってはこんなものだよなぁ──というリアリティがあったので。
唐突な自語りで恐縮ですが、『恋』と思しき感情を抱いた頃合いは記憶にあれど、肝心の想いを寄せた対象のことって驚くほど憶えていなかったりするのですよね。フルネームはおろか、懸想したきっかけさえ朧気だったり、とりあえず字は綺麗な娘だったな──くらいの印象しか残っていなかったり(笑)
だから、“僕”が“君”に恋をする契機が明かされぬ運びに、そういう初恋のリアルが込められているのだとしたら巧いなぁ──と。
「恋に恋するお年頃」なんて死語めいたフレーズは、思えばこういう心情を指しているのやもしれません。君が大事だよというよりは、君に抱いたこの感情こそ大事だよみたいな。真に恐れているのは君に忘れられることではなく、君を忘れた挙句「嗚呼、自分の想いはこの程度だったのか」と思い知る瞬間であったりする。
それでも、多くの人の記憶の中に「『恋』と思しき感情を抱いた頃合い」は残るように、「やはり君が始まりだった」ことさえ憶えていれば、案外幸せに歩めるのではないかと思います。
つまるところ、とても綺麗な物語でした。
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