戦いの詩(うた) 『俺達ルームシェアしている友達と何が違うんですか』

【作品情報】

『俺達ルームシェアしている友達と何が違うんですか』 作者 辰井圭斗

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054892485646


【紹介文】

 大学生深川淳は双極性障害(躁うつ病)とつきあって生きていくことになった。そんな折、深川淳は一つ先輩の浅見省吾と出会う。否応なく襲ってくる躁やうつ、そして希死念慮の中二人の距離は縮まったり縮まらなかったり……。

 スパダリな先輩×病んでる詩人のライトでビターなBLストーリー。


 この作品の第一部を読了したとき、正直に云うとやや困惑したのである。"僕"と省吾が単なる友人以上の関係となる上で、"僕"の双極性障碍が壁として描かれることはあっても、男性同士であることはほぼ壁として描かれることがなかったので。

 もちろん、世の中は広い。元よりそうでなくとも好き合ったら偶々同性でしたという理由から、然したる葛藤もなくやんわり結ばれるケースだって──あり得るやもしれない。ただ、BLにせよGLにせよ、作品である以上は人工の美の域を出ないので。その点を深く掘り下げないのであれば、何故わざわざ読み手を選ぶBLというカテゴリーに収まる必要があったのだろう、"僕"と省吾の物語ではなく、"私"と省吾の物語ではいけなかったのか──などと首を捻っていたのだが。

 作者が、周りに見せてくれている限りの人となりを知って、「あなたの人生の物語」という企画名を見て、ああ、確かにこれは"僕"と省吾の物語でなければダメだったなと。"私"と省吾では些かしんどかったろうなと、腑に落ちた次第である。

 まあ、この構造は狡いと云えば狡い(笑)


 ただ、作者の価値観に触れることで、何を善しとし、何を悪しとし、何を美しいとみなし、何を恐れとみなすのか、そういったものを垣間見ることで、作品に対する見方が変わる──というより、帯びている輪郭さえ変わってしまうというのは、実にweb小説らしいと私は思うのである。


 web小説は、商業小説よりずっと作者との"距離"が近いので。お互いを知ろうと思い至れば、少なくとも商業作家よりかは気安く言葉を交わせるので。そういう意味では、この作品は私の知る限り「もっともweb小説やってるweb小説」なのかもしれない。

 さて、ここからは完全なる蛇足だが──私はこの作者様に向けて感想やレビューの類を書く際、どうにも支える立場を気取ってしまう節があるのだけれど。ここ最近思うのは「これは支えというより、共闘だろう」と。遠巻きに応援する立場であればそれでいい、それがいいと思っていたが、ここ最近のやりとりを思い返すに、もはやこれは作者様と一緒に抗い難い何かしらと戦っているだろうと、勝手ながら──そんなふうに思ってしまっている。

 成程これはどうしようもなく今を生きるあなたの「web小説」で、"僕"と省吾の二人でなければいけなかった物語。だから、続いてゆくこれは戦いのうた。 

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