だから、僕らは今日も明日もお互いを知り合わなければならない。『森の魔女、砂の少年を飼う』

【作品情報】

『森の魔女、砂の少年を飼う』 作者 水凪 らせん

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054891298766


【紹介文】

 深淵の森の魔女キイナは、贄の少年トゥエを拾った。そんなものを差し出されても、人を食べる趣味は無いし、仕方がないから

「とりあえずあたしが飼う」

 と宣言する。

 傷だらけのトゥエに森の加護を与えようとするが、トゥエの体にはすでに砂の加護が刻まれていた。

 大陸の支配国イスタが、砂嵐と対抗するため森の神の力を得ようと動き出す。そんな中、キイナはトゥエを連れてイスタに出向き、そこでふたりの騎士に出会うが――


 § § §


『傷心無気力少年』と『天真爛漫ずれてる魔女』

 出会う、食べる、互いを知る。

 そして、求める。


 読了したとき、最初に思い浮かんだのは好かれるコミュ障と嫌われるコミュ障の違いでした。他人様の作品紹介でいきなり何を語り始めているんだコイツは──とさぞお思いでしょうが、まあ落ち着いてどうか続きを聴いて(と云うか読んで)いただきたく。

 好かれるコミュ障と嫌われるコミュ障。何が両者の明暗を分けるかと云いますと、それは感情表現が上手く出来ているか否かなのだそうで。多少口下手であっても自分の感情や考えを素直に伝えることができていれば、「ああ、あの人ってこういうキャラなんだな」と周りから受け入れてもらえる可能性が高まる。

 一方で、感情や考えを真っすぐに伝えられない、自分をわかってもらう術に乏しいと「あの人何考えてるかよくわかんないし、何か怖いよね」って下手すると勝手にネガティブなキャラ付けをされてしまったりする(もっとも情報の送信側に何かと改善が求められがちなこのコミュ障問題、むしろ受信側に問題あるケースの方が多くね──と個人的には思ってしまうのですが、この場においてそれは本題から遠ざかってしまうので。言及は控えさせてもろて)。


 そう、知らないということはときに不安や軋轢、恐怖を生んでしまうのです。


 たとえば──ファティの四つの目が細く形を変えるのも、それが「笑顔」であると知っているキイナからすれば好意的なものとして映るじゃないですか。知らなかったら「ヤダッ、目が多い! 怖い!」ってなっちゃう。

 女性は永遠に女の子であるという未来永劫過去永劫不変の真実を知らなければ、不用意な発言で大事な人を傷付けてしまうかもしれないし、基本ぺったんこな人は真っ赤なベルベットのリボンをつけないという世のしがらみを知らなければ、大事な人を困惑させてしまうかもしれない。

 無論知れば知る度、その都度僕らは前に進めるか。明るい方へと共に向かって歩けるかと訊かれたら、ことはそう単純でもなく。


 ただ、互いを知らずして、相手を取り巻くものを知ろうとせずして深まってゆく絆はないと思うので。


 キイナはトゥエと共に森の外へ出なければ、ガレットの食べ方も自分がとてつもなく不器用であることも知らなかっただろうし、トゥエはキイナがいなければ大切な人の前で今以上に自分を下げるわけにはいかないという矜持を──自尊を取り戻すことはできなかったのではないかと思う。

 さて、作中において「魔女」という言葉は、ときに名誉ある称号であり、ときに良くない名前であり、ときに──自らを奮い立たせる言霊として扱われております。

 あなたの中で、これの意味するところはこうだと決め付けている言葉ってありません? あるいはあの人はこういう人に違いないとよく知りもしないで人格を決めつけてしまっている人っていません? 

 ここで振りかざしたいのは、だから皆お互いを知り合って仲良くしてこうね! 人類皆友だち! とかいう頭フルブルーム理論ではなくて、極端な話お互いを知り合わないことには「コイツとは死んッでも付き合わねぇ!」という人さえ見抜けないわけだからね(笑)


 だから、僕らは今日も明日もお互いを知り合わなければならない。


 いや、なければならないはちょっと云い過ぎかもしれない。ただ、何かとことをスムーズに運ぶ上で大事な考え方の一つであるとは思うので。同時に、お互いを知り合うことを、お互いが住む世界を知り合うことを、絆を深め合うことを急く必要もないと思うので。


 ──今度こそ、言葉で、その答えを。


 やはり少しくらいはせっついてもいいのではないかという気がしてきたのだが、いかがか?

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