第8話 ティールームでの会話
ホールや教室、中庭や食堂などを回って、食堂近くのティールームに五人は腰を落ち着けた。
このティールームは学年ごとに分かれていて、上級生に気を使う必要がない。
何人か先に利用している人もいたが、ローズ達に積極的に関わって来る者はいなかった。
まだお互いに知らない同士だ。
互いの立ち位置がわからない内は下手に関わらないように、警戒しているのかもしれない。
「驚いたな。もしかしてこの学園、王城よりも広いんじゃないか?」
「確かに広いですけど、王城ほどということはないのではないでしょうか?」
入れない場所もあったが、実際、学園はかなり広かった。
とは言え、ピアニーの言うように王城より広いということはさすがにないはずだ。
何しろ王城は階層が重ねられていて、立体的な広さもあるのである。
「私は王城にはまだ入ったことないんだけど、そんなに広いの?」
アイネがピアニーとローズの会話に興味深そうに口を挟んだ。
相手の身分に対する最初の遠慮が消えると、アイネはほとんど身分差を気にしないではっきりとものを言うようになった。
さすがは辺境伯家の姫と言ったところだろう。
「敷地も広いのですけど、問題は建物同士の繋がりと高さですね。隣り合った建物同士が通路で繋がっていて、それが二階から三階に繋がっていたりするのです。お城の主人である王家の方々も、全部は把握していないとさえ言われていますわ」
ローズの説明に、アイネと、ミュスカも驚きを見せた。
「少なくとも僕は全然駄目だね。特に謁見の間やホールがある本館は立ち入り禁止の場所も多い。僕らは普段は後宮で暮らしているから、めったにあっちには行かないんだ」
「へえー」
「まぁ」
意外な王族の生活に、アイネとミュスカは関心を持ったようである。
「そうなんだよな。この学園やたら広いんだ。そのせいで探索が大変という評判だった」
ただ一人、イツキは、王城よりも学園の広さのほうに気持ちが向いていた。
もちろん、ゲームと比較しているのだ。
「三年間あるんだし、その間にゆっくりと見て回ればいいさ」
ピアニーは現実的だ。
王族ならではの、のんびりした気質もあって、焦ることは滅多にない。
「いや、それじゃあ遅いんですよ。なんとしても二年間で楽園の扉を探さないと」
「……イツキ、あなたはまたそんなことを言って」
ローズは困ったように眉をひそめる。
まだ知り合ったばかりの相手がいる場所で、転生だの、悪役令嬢だの言われてしまうのは、さすがにまずい。
「あ、さっきの話ね。ローズだって気にしてたじゃない。なに? なにか理由があったりするの?」
ローズは、先程うっかり部屋で楽園の扉の話を出してしまったことを後悔した。
またイツキがおかしなことを言い出さないかと気が気ではない。
「お嬢様をお助けするためにも、ゲームが始まる前に楽園の扉を開放してしまうのですよ。そうすれば問題は全て解決です!」
いいアイディアだろうとでも言うように、イツキは自身満々の笑顔で言った。
ローズは頭を抱えたくなった。
「ああ、イツキが昔から言っていた話だね。なんでも世界の謎がこの学園に眠っているという話」
「ロマンチックですね」
ピアニーはグリーンガーデンの姉妹程ではないが、長年の経験からイツキのおかしな妄想話には慣れている。
軽く受け入れて面白そうにうなずいた。
ミュスカはそういう伝説などが好きなようで、夢見る顔で、ほうとため息をついている。
ローズが心配する必要はなく、イツキの話は普通に受け入れられているようだ。
「はっ、楽園の伝説とか信じている赤ん坊がいるとはな。知性ある者の学園にふさわしくないんじゃないか?」
だが、意外な方向からバッシングが起こった。
見ると、発言した少年は、ほかに二人の少年と一人の少女を連れている。
すでに集団を形成している、というところがローズたち一行と似ていた。
ほかの者達は、だいたい一人か、多くても二人連れである。
そのせいで、ローズ達を意識していたのかもしれない。
ただ、その少年を見て、ローズは思わず顔をしかめてしまった。
彼の制服は豪華にフリルをあしらってあって、もはや元の原型をとどめていなかったのだ。
ある意味下品とも言えるほどの改造具合だった。
(でも、似合っては、いますね)
その少年は体格も顔も派手で、他者を圧倒する強い存在感があったのだ。
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