第39話 そっちはどう?
# 39
— ノートの切れ端 —
「そっちはどう?」
「相変わらずだよ」
「君の方は?」
「そうね、ちょっと疲れ気味」
「君の歌を聞いたよ。良い歌だった」
「あなたが書いた詩よ」
「そう……かもしれないね」
「ねえ、思うの。結局何も変わらなかったんじゃないかって。初めから全部こうなるようにできていたのよ。あなたもわたしもまだお腹の中にいた頃から。いや、もしかしたら両親がセックスする前からそうだったのかもしれない」
「そんなことはない。君がギターを弾いて、君が歌ったんだよ」
「失くしたものの方が多いの。今だってそう」
「僕だってそれは変わらないさ」
「あなたは……ねえ、初めからそこにあったものは手にしたものではないのよ。つまり、失うものではないの。手にしたものだけが唯一、失われる価値があるものなのよ」
「それは、例えば?」
「例えば、私のすべて。ねえ、聞いて。何かを手にしてから失うのって、振り出しに戻るってわけじゃないの。もっと酷いことなの」
「うん……」
「ねえ、これからどうすればいいのかしら? もう元には戻れない。いっぺんに失うか、少しづつ失うか。そのどちらかしかないのよ」
「それでも君はスターになったんだ。君が歌ったように」
「そうね。でも悲しいわ。悲しくて仕方がない。眠れないのよ」
「いいかい? 人生の七十八パーセントは悲劇なんだ。あとの二十二パーセントをどうやって笑って生きていくか、それが大切なんだ」
「そんなこと言わないで!」
ガチャンと受話器を叩きつける音。それは花瓶を割るような音に聞こえた。花が、彼女が水を遣ってきた花が、破片とともに流れ落ちていった。
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