第18話 随分と悲観的なんだね
# 18
— ノートの切れ端 —
「随分と悲観的なんだね」
「悲観的なのはあなたの方よ」
月明かりの窓の下、一枚の毛布に包まれて僕らはヒソヒソと話をしていた。
「想像力がないか、あるいはあり過ぎるんだ。何にせよ極端なのさ。僕の場合は」
彼女が起き上がる。毛布がはだけ、白い乳房が露わになる。檸檬の香りのする髪の毛がふわりと揺れ、ペンキの窓枠に彼女は収められる。月夜の一枚の絵として。
「ねえ、ライカ犬の話を知ってる?」
「スプートニク二号だね」
「そう。まだ見ぬ何かを探して宇宙へ飛び立った犬」
「初めて宇宙に行った生物だ」
「犬は死ぬ。我々には助ける術がない」
「僕らも死ぬよ」
「でも片道切符だった」
「僕らも片道切符だ」
「宇宙船の中で鎖に繋がれていた」
「僕らも繋がれているさ。気付かないだけで」
「ケージに閉じ込められて、外の世界を掻き消された」
「僕らだってそうだ。渦に飲まれたら外の世界なんて消えてしまう」
「……そうね。でも、どんな気持ちだったのかしら? 見送る方は」
「さあね。でもライカ犬は銅像になった」
彼女は僕の腕を掴んでこう言った。「あなたはわたしのことが好き?」
「好きだよ。愛している」
それからすぐ、彼女は僕の元からいなくなった。ギターと歌を携えて。僕は彼女のいない夜空を見上げながらこう思うことにした。「きっと、遅かれ早かれこうなったんだ」って。だけど、目を閉じるとあの歌が聞こえる。拙いアルペジオの旋律とともに。宇宙船はまだ僕の周りを飛び続けているのだ。時折、近付いては遠ざかってを繰り返しながら。この空のどこかを。
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