第6話 ねえ聞いてる?

# 6

 — ノートの切れ端 —


 「ねえ聞いてる?」

 日曜日の早朝、柔らかいベッドの上でアコースティックギターを縫いぐるみみたいに抱えて君は歌った。それは西海岸の小さな町で暮らす、夢見る女の子の歌。


 ♪

 スターになりたいの。

 誰もが振り返るようなスターに。

 だから今日も歌うのよ。

 お花に水を遣って、暖かいコーヒーを入れて。

 水色の窓の向こうから手を振る笑顔の恋人たち。

 今は冷たい路上のうえ、いつか私はスターになるの。


 彼女の歌はいつも囁くような声で始まる。静かなリズムがコーヒーの水面を揺らし、尖った香りの漂う小さなアパートの一室に響く。語尾の消える音、息を吸い込む音、小さな指がギターの弦の上を滑る音、どれもが彼女の歌の一部として無邪気なまま複雑に絡み合う。その声は秋の通り雨のような色をしていた。それは柔らかくて少し冷たい。薄ピンク色のコスモスの花弁を濡らし、仄かな光を浴びたコンクリートの灰を濡らし、色付いた木々を映す水面を濡らす。乾いた街をぱらぱらと駆け、鮮やかに湿らせる。そして、気が付いたらもうそれはない。雨は東に去っていく。塵や埃や淀みを攫いながら、東に去っていく。溜息を包み込んで、東に去っていく。

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