第9話

「と言う訳で、お分かり頂けましたか?」


「いや、全く。何が何だか」


 誰かに何かを説明しているみたいだったけど、お俺には何も聞こえなかった。そう、何も聞いてない。

 例えそれが、エリスさんが俺に対して、全く何の興味も持っていない証明だったとしてもだ!


「高橋さん。妄想中の所、申し訳ないのですが。お話を戻しますね」


「あ、はい。すみません」


 俺のせいでは無い気がするんだけども?


「コホン。さて、高橋さんが異世界に召喚された理由はともかくとして、私としては異世界にもう一度赴いた方が宜しいのでは無いかと考えております。と言うのも、決してこちらで一緒に過ごしたくないとかでは無く、あちらの世界で高橋さんを召喚した者が居る以上、何かしらの理由がある筈なのです」


「何か最もらしい事を言っていますが、それって早く異世界に行けって事ですか?」


 帰って来れたんだから、別に無理して迄異世界に行く事も無いだろう?


「はい。あ、いえ、そう言う事では無いのですが」


 いやいや、今「はい」って言ったよね!


「はぁ…とりあえずは、ゆっくり休ませて貰ってもいいですか?流石に疲れたので」


 何だかんだで疲労困憊だ。お腹も満たされたところで、正直眠い。


「そうですね…。どちらにしろ今日は異世界を渡る事は出来ない様ですし…。丁度床が空いてますので」

「いやここ俺の家でしょ!」


 何で自分がベッド使う事前提なんだ?!と言うか、エリスさん、いつまで此処に居るんだ??


「高橋さん。確かにここは貴方のお家ですね」


「はい、そうですね」


 何だ?急に素直になったぞ。


「ですが私は知っております。お前のモノは俺のモノ。俺のモノは俺のモノ…と」


「ジャイアニズムっ、そんなの知って無くて良いわ!それじゃあエリスさんのモノになっちゃいますね!この家も!」


「え…?え…?」


「いやなにその反応っ、間違ってますからね?!」


 自分の知識ではこれが正しいのに。みたいな反応。どこで覚えたんだよ…全く。


「駄目でしたか」


「演技だったんかい!」


 そんなお茶目なエリスさんも見れて嬉しいな。なんてならないからな!


「冗談はさて置き」


 始めたのはそっちでしょうーがっ。


「確かにお疲れの様ですし、今日はベッドでお休みください」


「今日はって…明日も寝るって」


「それでは私は何処で眠れば良いのでしょうか」


「あー、一緒に「嫌です」……はい、そうですよね」


 即答で拒否されました。





☆☆☆☆☆




 少し眠って起きると、今は夜中の2時か…。まだ眠れるし、明日休みだから起きてても良い。とても贅沢な時間帯だ。


「あれ、エリスさんが居ない」


 ベッドの横に居ないのだとしたら、トイレか風呂か…っと。


 あ、でもシャワーの音とかしないし、電気も点いてないぞ?


 気になってしまったからには動くよね。


 風呂場を勢い良く開け、中を確認する。


「そうだよね。流石に居ないよね」


 そうなると…トイレか…。いやしかし、態々確認しなくても良いんじゃないか?


 トントン


 返事は無い。思い切ってドアノブを回すと…居ませんでした。


「あれ…可笑しいな…」


 その時、ガチャという音と共に玄関のドアが開いた。


「あ、起きてたんですね。お早うございます。所で…トイレで何をしているのですか?」


 コンビニの袋を持ったエリスさんがそこには立っていた。


「あ、いえ、これはタイミング的な話で…。エリスさんが居なかったもので、捜してたと言いますか…その」


 ドアを閉め、施錠して。靴を脱ぎ、丁寧に揃えてリビングに移動するエリスさん。


「つまり、私が入って居るかもしれないトイレを確認した。と、そういう事ですか?そういった趣味もお持ちなのですか?」


「違います!ホントに誤解ですって!」


 いやいや、ホントにそんな趣味なんて無いですからね?


 え、ホントだよ?


「そうですか…まぁ、そう言う事にしておきましょう」


 我が物顔でベッドに腰かけ、コンビニ袋から戦利品の様に商品を取り出す。


 あれ?お金とか持ってたのかな?


「あの、エリスさん?」


「はい、何でしょうか」


「お金ってどうしたんですか?」


「どうって…そこにお財布がありましたので」


 って俺の財布じゃねーか!


「いやいや、流石に人のお金を勝手に使っちゃ駄目ですって!」


 それは駄目だ。幾らエリスさんでも。


「すみません。次回からは気を付けます」


「分かってもらえたら良いんです。って、お金を工面する方法とかあるんですか?」


 そう、不思議な力で口座の金額増やしたり、金塊を出したり?


「無いですね…。あ、街にはお金持ってる方々が沢山居ますから、お願いすれば脅せばどうにかなりますよね」


「絶対止めてね」


 危ないんだよ、発想がさぁ。


「高橋さん…」


「はい、今度は何ですか?」


「如何わしいお店に行くのは程々にした方が宜しいかと」


「放っておいてください!」


 

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