第6話

 さっきまで地下牢に居たはずだけど、今は家の中を向いた形で座っている。


 自分の家の玄関。


 玄関から短い廊下があり、その先にリビングへと続くドア。まぁ、普段は開け放しなんだけど。


 で、廊下の途中に浴室とトイレがある。


 廊下には簡易的な棚を置いてある。タオルとか着替えとか、置いておきたいじゃない?


 とまぁ、訳が分からないが、ここは異世界でない事だけは確かなようだ。


 あちらの世界には、こんな立派な鉄の扉(玄関のドア)は無いし。



 だが、本当に現実なのだろうか。そう疑ってしまうのも無理はない。


 何故ならば…


 金髪の女性が、リビングに居るのが見えた。


 え?リア充爆発しろ?いやいや、俺一人暮らしだし、そもそも彼女いないし。


 俺はそのままリビングに行こうとして、半歩土足で家に廊下に上がってしまった。


「あ、そうだった。」


 あまりの非日常の光景過ぎて、靴を脱ぐのを忘れていた。


 靴を捨てる様に脱いでリビングに向かう。


「いや、何してんですか。エリスさん。」


「食事を頂いております。」


 その女性は、俺が楽しみにとっておいた「激辛ペオング焼きそば」を頬張っている。貴方、カップ麺とか食べるんですね。


 違う、 そんな事より、


「それ、俺の…。というか、何で此処にいるんですか?どうやって入ったんですか。」


 しかも、あの薄い布じゃなくて、しっかり服着ている。


 残念だなんて思ってないよ?


「着てるの俺の服じゃないですか。何やってんすか…。」


 恐らく、タンスから引っ張り出してきたんだろうけど。無地のTシャツにハーフパンツ。


 あー、あのTシャツ女の子が着るとこんな感じなんだ。


 って、待って。俺の服、しかも自分の体形よりも大きめサイズを女の子が着てるだと??


 やだー、同棲してるみたいじゃん!


「ニヤニヤするのやめて頂けますか?本当に気持ち悪いので。服はお借りしました。」


 辛辣だなぁ、おい。良いじゃないか、想像したって。


「あ、安心して下さい。しっかり洗ってから乾燥させて、除菌したうえで着てますので。」


「人の服を雑菌みたいに扱わないで下さい!で、いつもの服装はどうしたんですか?」


 そうだよ、そもそもエリスさんが俺の服着てなきゃこんな想像はしてない。


「あんなの、こちらで着て居られるわけないじゃないでか。今は仕舞ってあります。」


 あんなのって言ったよ。結構好きですよ?あの布。


「左様でございますか。はぁ、まぁいいや。腹減ってるし俺も何か食べるか。」


 実際何も食べてなかったし、実際どれだけの時間あっちの世界に居たのか分からない。


 でも、安心したというか、気が抜けたと言うか。急に空腹が襲ってきたのは間違いない。


 そして台所に向かおうとして、エリスさん止められた。


「まさかとは思いますが、その獣の臭いをまき散らしながら平然と近寄らないでもらえますか?」


 そう、忘れてた。あれだけ歩いたし汗臭くもなるって。


 それにさっきからなんか獣臭いな、とは思ってたんだよ。


 オオカミっぽい奴にガブリんちょされたと思ったのは、あれは夢じゃない訳ね…。


 良く生きてたな。あ、むしろ「感謝しろ」とか言ってたから、あいつが街まで咥えて連れて行ってくれたのか。


 俄かに信じがたいけど、生きてるのがその証拠か。


 悪い奴じゃないのかな?知らんけど。


「あぁ、すみません。風呂入ってきます。」


 そそくさと廊下に出て、リビングのドアを閉める。脱衣所が無いから、リビングから丸見えなんですよ。ここ。


 でも、一人暮らしだから気にした事もなかったけど、彼女とか出来たら引っ越しとか考えないとな。


 彼女なんて作る予定無いけど、妄想位自由にさせて!


 とりあえずスーツは全部脱いで……え?野郎のシャワーシーンには興味ないって?ごもっとも!



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