閑話 1
別にどこかに行きたかった訳ではないの。ただ、少しだけお外に出たかっただけ。生まれてからずっと、お父様にもお母さまにも、里の皆にも外には出てはいけないって言われてきた。
私はまだ『マナ』を上手く使いこなせないから、結界が張られている里の外に出たらダメなんですって。
外に出なくても、里の皆と遊んだりお喋りしたり楽しいよ?あ、でも何処に行くにも護衛?っていって、ハーガス達が付いて来るの。しかも7人も!
もう!意味わかんない!
私が小さいからって、どうにかならないのかしら。
お父様は「今は我慢しなさい」って言うし。
あ、お父様はこの里の長なんだって!偉いんだって!えっへん!
いつも知らない人と難しそうなお話をしてる。
お父様は昔、世界?を旅した事があるって言っていた。私もいつか世界?を旅して色んなモノを見たいなぁ。世界ってなんだろう。里の外の森の事かなぁ?
あの日は里の外の森に妖精さんが来ていて、お話できないかな。ってうっかり結界を超えてしまったの。その時は別に何もなかったのだけど、私に気付かず妖精さんが転移する魔法を使ったの。もう帰るところだったみたい。
私は中途半端に魔法の範囲に入っていたから、妖精さんとは別の場所に転移してしまったみたい。勿論私だけ。ハーガス達は居なかったわ。
初めて里以外の景色を見たわ。
森とは違って、お空が綺麗に見える。遮るものは何もない。見渡す限りの草原。夢中で走ったわ。自分が『金狐』の姿になっている事も忘れて。
里の中に居る時は、意識しなくても獣人の姿になれるけど、外に出たら上手く獣人になれなかったの。でも、今はだれも見ていないし良いよね?
途中でおっきい木が在ったの。そこに不思議な匂いのする人間が寝てたんだけど…。
獣人とは違う人間。尻尾も無いし、どっちかと言うとエルフさんみたいね。
何か気持ち良さそうに眠っていたわ。変な恰好。
近づいて顔をみたの。そうしたら、楽しい夢でも見ているのかしら、ふふ、微笑んでいたの。それを見ていたら、つい?悪戯しようと思っちゃって。
お顔をね、舐めたのよ。たくさん!
そうしたら、その人間は苦しそうに目を覚ましたの。もう!可笑しかったわ!
でも、私の今の姿は『金狐』だから、やっぱりビックリするよね?って思ったのだけど。
里ではね、この姿になると皆遠ざかって行って、見てはいけないモノを見るような目で私の事を見るの。
だから、一瞬身構えちゃったの。でもね、その人間は、私の事を怖がらずに……その、なんていうの?撫でてくれたの。撫でてくれたのよ?!
だからね、凄く嬉しかったの。
時々キツネさんって言ってたけど、キツネさんって何かしら。
そう、それでね、撫でられている内に安心?っていうのかな。心地良くなって来ちゃって、
でね、起きた時にビックリしたんだけど、ハーガス達が私のマナを感知してここまで来ていたの!凄いよね!
後から聞いたんだけど、里からそんなに遠い場所じゃなかったから感知できたんだって。
それからハーガスが、彼に沢山人間が住んでいる場所を教えてあげたんだけど、歩き続けて2日も掛かるのに歩いて行かせようとするから、連れて行ってあげてってお願いしたの。だって、あんまりじゃない?
その後は、彼を運んで人間が住んでる所まで行ったの。
サヨナラするときにね、彼に良いことがあります様に!って、おまじないを掛けたの。他の人間が彼を迎えに来たから、私たちは里に帰って来ちゃったけど…。
元気かなぁ。また、会えたらいいなぁ。なんて。もう外に出れないから無理かもね。
名前くらい、聞いておけば良かったな。
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