第4話

「貴方は本当に変態なんですね。こんな事されて喜ぶなんて。」


 今、俺は何故かエリスさんに後ろ手に縛られている。気が付いた時にはこの状況だった。異世界に行く前に来た場所みたいだ。白い空と地面。多分、ここに居たら気が狂う自信がある。白く見えているだけで、実際何もない「無」なのだろうと直感的に感じている。


「あのー、エリスさん?これは一体どういった状況なのでしょうか?」


 恐る恐るお伺いを立ててみた。


「私としては、ご希望にお応えしているだけとしか。」


 そう言いながら俺に近づき、まっすぐに目を見つめてきた。


「いやいや、このシチュエーションは流石に無いですよ!って、きいてます?!」


 俺の声など届いて居ないかのように、目と鼻の先までエリスさんのお顔が近づいている。あ、お日様の匂いがする。って、そういうことじゃない!


「駄目ですって!」


 何が駄目なのか自分でも分からないけど、その先に何が待っているのか本当はドキドキしてるけれど、咄嗟にそんな言葉がでた。


 そして、ついにエリスさんの唇が俺の……





 ペロっ

 




 鼻に触れた。正確には唇ではなく、舐められた。


「ちょっ!エリスさはfひえばkjふじこ」


 訳が分からず半ば混乱した俺は、抗議をしようと口を開いたが、鼻だけにとどまらず顔全体を舐め始めた。


 ペロ、ペロ、ベロベロベロ!


 いや、嬉しくないぞ!全然!ってか、息でかきない!


「あぶっ!ちょっ、まっ、いや、ほcしjふぁk」


 あ、駄目だ。息が…





 









「ぶはっ!」


 俺は息を吹き返した。


「?」


 俺の目の前には、エリスさん……

 ではなく、金色の毛に覆われた小さいキツネさんがいらっしゃった。ではなく、現在も俺の顔を一生懸命ペロペロされていらっしゃる。前足で俺の体に寄り掛かりながら器用に舐めていらっしゃる。


「ちょっとストップ!待って待って!」


 急覚醒した意識の中で、キツネさん越しに見える景色が白い世界では無く、あの緑の絨毯の広がった草原であったことで、大木に背中を預けて眠ってしまっていたのだと気づいた。

 

「キュー?」


 俺がしゃべったのが不思議だったのか、飛びのく様に俺から離れた。


「めっちゃベトベトじゃん…。」


 キツネさんが離れてくれたので、スーツの腕の部分で顔を拭く。そんな事で顔に付いた匂いやヨダレが拭える訳もなく、これからはウェットティッシュを必ず持ち歩こうと密かに誓ったのだった。


 その間キツネさんは俺の前で寝そべっておられた。

 いや、警戒心なさすぎやろ。と思ったが、むしろ寝てる間に「ムシャムシャ!バリバリ!グチャベキ!」みたいな状況にならなかっただけ奇跡で、警戒心無いのは俺の方だと悟ったのだった。


 「ハフっ」


 アクビしてる。めっちゃ可愛いんですけど。何この生き物。

 もうこの時点で、俺の警戒心はサヨナラしていた訳だけども。


「撫でたら噛まれるかな…。」


 声に反応したかの様にピクっと耳が動き、ゆっくりと体を起こし俺に近づいてきた。猫みたいに自分の体を俺の足にすりすりしてくる。あざと可愛いってのはこういう事を言うんだろうな。


 恐る恐る手を伸ばし、ゆっくりとキツネさんの毛並みを撫でた。

 キツネさんは俺の手が触れた瞬間、少しだけ警戒したようでピクってしたけど、大丈夫と判断したのか、足元で寝ころんだ。


「綺麗な毛並みだなぁ。それにふわっふわだ。」


 正直感動した。手触りがすごい!超気持ちいい!


「キツネさん、可愛いなぁ。」


 キツネさんは頭も撫でろ。と言わんばかりに俺の手に頭をスリスリしてくる。


「はいはい、頭もね。」


 ご要望通り頭も撫でる。


「ッ----ハフッ」


 いつの間にか俺の胡坐の上に陣取っていたキツネさんは、アクビをしつつお耳をピクピクさせながら目を細め、ウトウトしてた。

 それを見ていた俺も、段々と眠気が襲ってきて目を瞑ってしまっていた。

 警戒心なにそれ、美味しいの?みたいな。

 

 ちょっと前に、電車で寝るなんてどうかしてるぜ日本人!って海外の人がテレビで喋ってたっけ。日本ってそれ位平和らしく、警戒心が薄いらしい。

 別に日本に居る分には良いと思うんだ。


 だけど…









 ここは日本ではありませんでした。忘れてました。

 

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