第3話
気が付くと、草原らしき場所に横たわっていた。
「見事に緑色の絨毯って感じだな。」
これ何?牧草っていうのかな。良く分からないけど、長さ1~2cmの草が一面に広がっている。
昔々の日本も、こんな風景があったんだろうな。なんて危機感ゼロの俺は、とりあえずどちらともなく歩く事にした。
目的地がある訳ではし、実際まだ夢の中ではないかと考えてさえいる。そう、現実の俺は、電車の中で……。止めよう。
気を取り直して、まずは人を探すことにした。
「いきなり刺されるとかは…流石に無いよな。」
流石にそんなハードモードな世界では無いことを祈りつつ、視界に入った大木に向かって進むことにした。
その途中で見た事もない鳥が飛んでいるのを見かけた。まだ遠い感じもしたし、鳥が来たところで「カラス」とか「鳩」ぐらいにしか考えていなかった。
だけど、その鳥が段々近づくにつれ、俺は焦った。いや、死を予感したという方が正しいのかもしれない。
明らかに想像していたサイズの鳥ではなかった。
「クキャーーー!!ファーッキュ!!」
え、何その鳴き声!とか突っ込みを入れつつ、走った。それはもう、走った。
だって、こっち狙ってるよね、あれ。
「デカイデカイ!無理だって!!マジで!!」
泣き言を言える分まだ余裕があった?ないよ!そんなもん!
「ベリーハード過ぎるって!」
革靴で走るの、ホント難しい。いや、転びましたよ。思いっきり。
「痛ってぇ…。でも、ギリ助かった?」
丁度、鳥が足で俺の頭を掴もうとした時にこけたらしく、鳥は勢いを落とさないように空へと飛んで行った。
そのスキに、大木の下までたどり着いた俺は、木に寄り掛かり座り込んだ。
「はぁ。はぁ…。まじ、なんだよ。これ…。夢にしては、疲れ方がリアルすぎる…。」
「くそ…、はぁ…。ノーアイテムでこれは虐めだって。まじで。」
そう、出勤時の格好のままなので、黒いスーツに革靴。内ポケットにスマホが入っている。電車の中で抱えていたリュックは持っていなかった。
スマホの画面を見ても、電波は届いていない様だ。充電器はリュックの中だけど、そもそも電気がこの世界に無いのなら、必要がない。
「電源はどうすっかな。万が一電波が入った時の為に暫くつけておくか。」
電源は落とさずに、内ポケットにしまった。
「あ、それは一度回収しますねー。」
寄り掛かっていた大木から声が聞こえた。慌てて立ち上がり、大木の方を向くと、白い霧状のものが染み出てきた。
それは徐々に人の形を形成していき、女性の上半身となっていた。
「って、エリスさん!?何してるんですか!」
そう、それは異世界に俺を送り込んだエリスさんだった。しかも、顕現された上半身は、ノーガードだった。そう、裸でした。すみません。有難うございます。
「高橋さん。貴方の想像力の影響がこれほどだったとは思いませんでした。ほんとに。……変態。」
「誤解ですし、絶対俺悪くないでしょ!」
「でも、喜んでますよね。今。」
「あ、はい。それはそうですね。ごめんなさい。有難うございます。元気出ました」
「下ネタですか?最低ですね。それよりもずいぶん余裕ですね。死にそうだったのでは?」
どうやら先程の鳥襲撃は見ていたらしい。
「いや、助けてくれてもいいじゃないですか!ってまず、そのあられもない姿をどうにかして下さい!」
「どうにかしたいのですが、この世界に干渉するのは本来タブーなので。これ以上のエネルギーは使えないので、仕方なくこの姿で干渉させていただきました。あ、スマホの事を忘れてたので回収に来たんですよ。」
「え、じゃあ、その恰好おれのせいでは無いってことですよね?」
エリスさんは微笑んだまま、右手を差し出した。
あ、これ絶対認めないやつだ。笑顔怖いって。
「なんですか?その手。」
「スマホを。」
若干被せ気味に言ってきたよ。これ、やっぱり罰ゲームの類なんじゃないかと思ってきたよ。電波◎年みたいだよ。
観念して、内ポケットからスマホを取り出し、エリスさんに手渡す。
「はい。確かに受け取りました。では、頑張ってくださいね。」
スマホ受けとったエリスさんは、一度俺の額に左手を熱でも測るようにかざし、少し微笑むと大木の中に吸い込まれていった。
「たまにドキッとさせるの、本当に心臓に悪い。」
俺はエリスさんの姿の余韻に浸りながら、また背中を大木に預け座り込むのだった。
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