俺と、付き合ってくれますか?
平凡な人生の前半で、まさか2回も告白される様な事があっても良いのだろうか?
高校生活の内に運を使い切ってしまうんじゃないのか?
この場合、飛び跳ねる位嬉しく、そして二つ返事でOKするのだろうか?
……ここまで思考を巡らせておいてなんだが、俺の返事は決まっていた。
ただ、その返事をすぐに返す事ができない……良い返事では無いから。
「……」
「真珠」
黙って傾いた体を立て直す俺を、天藍がジッと見ている。
天藍は今、俺が何を考えて黙っているのか見透かしているはずだ。
その証拠に、意を決した告白で赤くなっていた顔が、目を細めた真剣な表情になっていた。
天藍は、溜息を吐いて言った。
「まだ気にしてるの……琥珀の事」
「……」
言い当てられて、唾を飲み込んだ。
それが図星だと言う返事と見た天藍が、一歩前に出る。
それだけで、俺達の間にあった距離はゼロになる。
「だから私とは付き合えないって? ……もう忘れなよ、あんな姉の事」
「天藍……」
俺より背が少しばかり低い天藍。
傍から見ても整っている可愛い顔が、すぐ下にある。
その顔は、何かを訴えかける様な表情で……。
「自分の事しか考えていない様な奴の事なんか忘れなよ。真珠の事、振り回すだけの奴の事なんか忘れなよ」
「……」
「私は真珠と一緒に幸せになりたい。友達としてだけじゃなくて、恋人として一緒にいたい。だから」
もうあんな思いはしたくないから、恋人ができなくても良いと思っていた。
またあんな事になったら、また同じ様に距離を置くしかないんじゃないかと思ったから。
……でも、天藍は……。
石宝先輩とは出会っていきなり付き合ったけど、天藍とはお互いの事をある程度知る仲だ。
俺にとって、信じられる数少ない人でもある。
天藍の事を好意の対象として見た事は無い。
でもそれは今までの話だ。
付き合ってみたら、変わるかもしれない。
そうだ……逆に言えば、もうあんな事にならない様にできるんじゃないか。
信じられる彼女となら、これまで以上にやっていけるんじゃないのか。
天藍となら、本当の恋人との幸せっていうのが、分かるのかもしれない。
「真珠」
「天藍、俺は」
息を吸い込んで、天藍に向けて思った事を口にする。
いつまでも奥手じゃいられない。
特に今は、天藍にだけじゃなく、俺も頑張らないといけない。
「俺も天藍の事が、好きだ。でもそれは友達としての好きで、付き合いたいとかの感情とは、違う」
「……うん」
「だから、さ。その、これから恋人として一緒にいる時間の中で、天藍への好きって気持ち……変わるかもしれない」
「っ!! それって」
沈んだ表情から一変、段々と先ほどと同じ様に頬に赤みを帯びて行く天藍。
話している俺の顔も、きっと赤くなっているんだろう。
ここまで言ったのなら、後一言……頑張れるはずだ。
「俺と、付き合ってくれますか?」
言えた。
無理だと思っていた、俺からの告白をする事ができた。
もうこれ以上は何もできない。
心臓も張り裂けそうで、声もカラカラだ。
今また風が吹けば、俺は飛ばされてしまうかもしれない。
そんなよれよれの俺を支えてくれる人は……ずっと目の前にいた。
「当たり前でしょ! 私が先に告白したんだからね!」
天藍は目の端に涙を溜めながら、威張る様にそう言った。
お互いに微笑み合って、顔が赤くなっているのをからかい交じりに弄り合っていた。
心の底から嬉しそうに笑う天藍を見て、何か……温かいものが込み上げてくるのを感じた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
陽も落ちてきたという事で、天藍を家まで送る事にした。
天藍は何やら渋っていたが、最後は頷いてくれた。
薄暗くなったきた道を、二人で歩いて行く。
横を歩く天藍は、何やら落ち着かない様子でそわそわしていた。
「天藍? どうかしたの?」
「うぇ!? えっとさ、その何て言うか」
煮え切らない言葉でしどろもどろ。
まるで俺みたいな反応をしている天藍。
立ち止まって理由を尋ねると……。
「あのさ、私達、恋人同士になったんならさ……手とか、繋いでみたいなって、思って」
天藍の意外な言葉に、目をパチクリさせてしまう俺。
いつも明るく振舞っている天藍が恥ずかしそうにしている姿を見て、頬が緩んでしまう。
俺の顔を見た天藍が、顔を赤くさせて詰め寄ってきた。
「な、何よ! 良いでしょ別にそう思ったって!」
「わ、悪い! 別にそういう意味じゃなくて……って、天藍?」
怒られると思い、今度は俺がしどろもどろになってしまう。
そんな俺の手を、天藍が握ってきた。
「なら、こうしても良いでしょ」
「あ、あぁ」
「良し! じゃあ、行こ」
また二人して歩き出す。
今度は、手を繋ぎながら。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
初々しく手を繋ぎながら歩いて、天藍の家に着いた。
家に明かりは点いておらず、誰も居ない様だった。
「両親は相変わらず、仕事で中々帰ってこないんだ」
俺にそう話す天藍の手は、繋がれたまま。
けれどその表情は、寂しさなんて感じさせていなかった。
「寂しく、ない?」
「えっ? う~ん、もう慣れたかな。それに」
「それに?」
「私には、真珠がいるからね!」
恥ずかしげも無くそんな事を言う天藍。
陽が落ちてきていて良かった。
俺の顔、また赤くなっていると思うから。
「えっと、それじゃあ……これで」
「うん! また明日ね、真……珠」
照れくさくなって帰ろうと、天藍に別れの言葉を告げた瞬間、継ぎ接ぎになって話す天藍。
どうしたのか聞こうとした……刹那。
「真珠、君?」
聞き覚えのある声が、俺の後ろから聞こえた。
体が飛び跳ねそうだった。
いきなり声を掛けられたからじゃない……その声に、体が勝手に反応したから。
俺は浮かれていた。
天藍が渋っていた理由が、今になって分かった。
そうだ、天藍を家に送るって事は、そう言う事だ……。
家に誰も居ないって事は、そう言う事だ……。
後ろに、振り返る。
「やっぱり……真珠君だ❤」
俺と目が合うと、微笑みかけてくる一人の女性。
夢で見た女性。
「石宝、先輩」
石宝琥珀という、初めてできた彼女……そして、恐怖を感じて別れた彼女が、そこにいた。
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