第5話 地獄への道には、善意が敷き詰められている
(架空)娘は言った。
「私、数日前に交通事故で亡くなったドイツの公娼、シュヴァルツァーさんを、天国から召喚するから」
「(架空)娘よ、お前にはそんな能力があったのか?」
「おかーさん、私、異能者なの知らなかった?」
そんなやりとりの間に、シュヴァルツァーさんが、あの世からボワワ~ンと登場。
「さて、では話はワタシが引き継ぎます。
ワタシは、ご紹介いただいた通り、ドイツで公娼をしていました。
ドイツには、エロスセンターやサウナクラブという場所があり、ワタシ同様、多くの公娼たちがビジネスをしています。
アメリカ映画に出てくる娼婦たちと同じようなシステムで、基本的に客と1対1で交渉し、取引が成立すればビジネスをします。
つまり、場所は管理されていますが、あくまでワタシ達は個人事業主としてビジネスをしています。
フェミニズムの主張に、『私たちの体は、私たち自身のものである』という主張がありますが、まさに私たちは自分たちの意思で自分たちの体を使って、ビジネスをしています。
他人が私の体を縛る権利はないわけです。
つまり、私自身が納得しているなら、それを否定する理由はないわけですね。
しかし、一般にその辺りの理解が浸透していないと思います。
ここで、一つ、コンテンツを紹介しましょう。
デンマーク製の政治ドラマ『コペンハーゲン』シーズン3の第25話 『汝、姦淫することなかれ』です。
北欧は伝統的にフリーセックスの国ですが、ドラマ中で、それまで合法化されていた売春を禁止しようという動きが加速します。それで、現役の売春婦の女性が公聴会に呼ばれるんですね。それで、委員会の女性たちが、
「あなたは過去に性犯罪の被害にあったことがあるのでは?」
「だから、何等かのトラウマを抱いているのでは?」
「あるいは、その事実を受け止めきれず『大したことないもの』とするためにこの仕事を選んだのでは?」
「もし、より高等な教育を受けていたら、違った選択をしたのでは?」
延々と拷問のような質問を彼女に投げつけます。
公聴会を終えた彼女は、
「私はプロとして誇りを持って仕事をしている! こんな屈辱を受けたことはない! まるで……まるでレイプされたような気分だわ!」
と叫ぶんですね。
非常によくできたストーリーだと思います。
彼女にとっては、自分の納得いく職業として選び、働き続けていたのに、他人から人格までも全否定するような言葉を投げつけられて非常に不愉快な思いをするわけです。
つまり、売春について頭から悪であると決めてかかり、可哀そうな人、止めさせなければ、という行動をとることが、本人を手ひどく侮辱することになっている、ということを風刺的に描いているわけです。
ちなみにこのドラマには各エピソードごとにオープニングクレジットが付いていて、この回には
「地獄への道には、善意が敷き詰められている (古い諺)」
というクレジットがついています。いかにもヨーロッパ的な皮肉な言葉ですね。
さて、この女性の自由意思に基づく行動についてですが、これは、ジョン・スチュアート・ミルが自由論の中で展開した愚行権から考えてみるとわかりやすいでしょう。
『自由論』によれば愚行権は次の論拠において正当化される。
個人の幸福への関心を最大に持つのは本人である。
社会が彼に示す関心は微々たるものである、
彼の愚行についての彼の判断と目的への外部からの介入は、一般的推定を根拠とするだろうが、誤る可能性が高い
よって彼自身のみ関わる事柄こそが、個性の本来の活動領域であって、この領域では他人の注意や警告を無視して犯すおそれのある誤りより、他人が彼にとっての幸福と見なすものを強要することを許す実害のほうが大きい。
出典:Wikipedia
もし、健康リスクがあるとしても、キャリアデザインができないとしても、売春で得られる幸福(金銭)が本人にとって幸福である感じられるのならば、他人がそれを止める権利はないわけです。
わかりますか?
よく、男性にとって射精が必要だから、性犯罪の抑止のために必要だから、という男性中心論で語る方がいますが、これがそもそも間違っているのです。
もちろん、男性の欲望があるから、
性犯罪の抑止なら、科学的去勢をすればいいのです。
この場合、仕事をするのは女性なので、女性がどう考えるか、女性が自分の自由意思において自分の体を使ってどう稼ぐか、ということが問題になってくるわけですから、そちらを中心に社会システムを考えるべきなのです。
独立した大人の女性が、客と対等に値段交渉し、ビジネスと割り切ってやること、そう考えると納得できませんか?」
シュヴァルツァーさんの論理的な説得に、おかーさん、ぐぅの音も出なくなります。
Wiki以外の参考にさせていただいたサイト
https://www.keiwa-c.ac.jp/wp-content/uploads/2019/08/vt026-1.pdf
https://phil.flet.keio.ac.jp/person/sakamoto/mirror/travel1.html
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