第8話 世界を変える責任

――さいごに――


 この文章を書くきっかけになった岡村氏のラジオは、相方を追加して、番組名を変えてリニューアル、という形になったらしい。結局、大きくは変わっていないんじゃないか、という印象だ。

 ご本人の頭の中を覗くことはできないので、実際のところ、彼の考えにどんな変化があったのかはわからないが、それは今後の様子を見ていくしかないだろう。


 彼の発言で、以前にも違和感を感じたことがあった。

「テレビを俺たちに取り戻さなきゃ!」という趣旨の発言だ。

 昔は許されていたことが、今は口うるさい視聴者がネットでやいのやいのと言ってくるのがおかしい、という流れからこぼれ出た発言だが、これがそもそも間違っている。

「昔は、これをやっていたから」で何でも正しいということになるなら、体罰も、口べらしも、人身売買もありなのか? 吉原に女性が売られても「男は喜ぶ」で済ますのか?


 悪しき風習は、「変えるのが当然」だ。


 ちょっと話は変わるのだが。


 昭和時代のテレビドラマには、ストーリー上はまったく必然性のない女性の上半身ヌードが多々映し出されていた。

 その裏側を、ジャズ歌手阿川泰子氏の本を読んで知った。

 当時は、芸能界に「おっぱい女優」なる言葉が存在し、まだ売れてない新人女優が、ちらっとでもテレビに映るために、脱ぐためだけの存在として現場に呼ばれていたのだそうだ。


 真面目に演技の勉強をし、劇団で稽古を続けてきた女性にとっては、この上ない屈辱だろう。


 その当時、女優として活動されていた阿川氏は、その理不尽な制度に抗議し「なら、君は女優ではなくてジャズ歌手の道を選んでみては」と言われて、その後のジャズシンガーとしての成功に至ったのだそうだ。


 今はコンプライアンスが進んで、そういう番組を見ることはあまりなくなった。きっと、阿川氏のほかにも多くの人が声を上げてくれたのだと思う。

 男性のなかにはつまらなくなったと感じる人もいるかもしれない。

 しかし女性としてはそういう習慣がなくなったのは良いことだと思う。多くの女性が同じ思いだろう。そういう番組作りを止めようと声をあげてくれた誰かに、私は感謝したい。


 今回のANNの件も、個人攻撃されて岡村さんがかわいそうという声はあったが、やはり変えなければいけないものは、変えなければいけないのだ。

 各世代がそのことを自覚し、少しでも良くなった世界を未来につないでいかねばならない。

 そのことにより、今とは違う未来が作られるのだから。

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セックスワークとフェミニズム 黒井真(くろいまこと) @kakuyomist

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