第一章 西方守護伯付き魔女の就任 第二話
ガウェインが連れていた護衛も
あれは一体なんだったのだろうかと首を傾げたけれど、
「わぁ!」
ミルレオは、夕焼けが消えようとしていても活気
国境地帯は
ちょっと小腹を
けれど、守護伯に対する確かな
「お前は行かないのか?」
「あ、隊長もですか? 僕はこれにしようと思いまして」
ミルレオが
「また
仕草と選んだ品に
「僕、甘いものが好きなのです。温かい内に頂けるのも
ちょっと
「買ってやる」
「え? でも、それでは、た、たかり? になってしまうとジョンさんが。部下が上司に
「……お前がたかられてるとそろそろ気づけな?」
ガウェインは部下の在り方に口を出す主義ではないが、ミルレオはどうしても心配になってしまう。世間知らずで箱入りに見えて仕方がない。純真
「あの、一つお伺いしても
「ん?」
「たかり、とは、
「ん!?」
箱入り
「ほいよ、お
頭の
「ありがとうございます!」
店主と上司両方に礼を言って受け取り、ちょこちょこ小走りで道の
「
「歩きながら食えよ!」
「つか、そのまま座れよ!」
肉と肉と肉を食べて戻ってきた同士達の突っ込みは聞こえない。もぐもぐと
「うまいか?」
同じ菓子を二口で食べ終わったガウェインを
「はい! ……あ、あの、家の者に知られると
「ふ……いいから
結局最後までちぎって食べ、もう一枚のハンカチで口と手を丁寧に拭う。大変満足だ。にこにこと相好を
だとすると
「こんなに
首を
「ミル! おれらのおごりだ! しっかり大人になれ!」
「は、はい! …………はい?」
反射で返事をして、盛大に首を傾げた。
こういう造りの建物は、世間
それらすべてが混ざり合って頭がくらくらしてくる。甘く
「あ、あの、僕は本当に、あの!」
必死に押しのけた手が取られ、寄せられた胸に押しつけられる。
「うふふー、真っ赤になって、か・わ・い・い」
「いいのよぉ、なぁんにもしなくて。あたし達が、全部して、あ・げ・る」
「あたし達と、大人になりましょお?」
男性のあしらい方を教えてくれたお母様は、女性から
『四階の突き当たりだよ! 左だからね!』
「申し訳ありません──!」
目の前のやけに
「ああん! 逃げたぁ!」
「追いかけましょぉ? あれ絶対」
「
怖い会話が後ろから追ってくる。怖い。ひたすら怖い。逃げ出したはいいが、おろおろと辺りを見回し、固まった。
「階段!」
転がるように
「ミルさまぁ?」
「どちらにおいでですのぉ?」
「たのしいこと、し・ま・しょ?」
階下から影が
「左の
混乱も
ノックも忘れて飛び込む。自分の体重で
「やっぱり来たな」
聞き慣れた声に、心臓が勢いよく跳ね出た気がする。
「
「ま、魔法は人の
「魔女の
魔法を私利
「あれは攻撃と見なしていいと思うけどな。ほら、立てるか?」
引っぱられるままに奥へと進む。部屋の隅にひっそりと
不思議に思ったミルレオだったが、すぐにはっとなった。聞いた事がある。こういった娼館は密会などに使われる事があると。守護
「お、お仕事中に申し訳ありませんでした! 僕、すぐに
出来る限り書類を視界に入れないよう気をつけながら。慌てて背を向けようとして、肘を掴まれたままなのに気づく。ガウェインは気にした風もなく、のんびり部屋の中に
「まあ待て。どうせなら手伝っていけ。毎度毎度新人をからかっては楽しんでるんだ、あいつらは。
なんて
ここは、下の部屋に比べるとどちらかというと居室に近い。ソファーやテーブルの応接セットも完備されている。テーブルの上に散らばっている書類を簡単に
「あの?」
「その書類の人物を知ってるか?」
纏めた書類の一番上に書かれていた名前を見る。
「デューク・ウズベク様……フスマスティス家のご
「近い内に城に来るかもしれなくてな。中々気難しいと聞いている。持て成すのも一苦労だ」
「そうですか……確か
口ごもる様子に、事情を察したガウェインは得心したと
「分かった。お前が貴族側の情報に
王宮では貴族の情報を耳にする機会が多い。望む望まざる関係なく、そういう話題しかないのだ。ミルレオは
ミルレオは、
「あの、
あまり自分から話しかけてこなかったので、ちょっと
「別に構わんが、
苦笑した顔は何歳か幼く見えた。ガウェインは
「申し訳ござ……ありませ……すみま……ご、ごめんなさい?」
「お前は本当に育ちがいいな。
同情を
「いいえ、僕はちっともつらくなんてありませ……いえ、
「……それは、すまん。注意しても直らないんだ、あれは」
「でも、他は本当につらくなんてないんです。楽しいことばかりです。本当に
すっと下げられた背と頭。それは見事な一礼だった。
再び頭に手を乗せ、勢いよく
「ここは西の激戦区でな。昔はどこを見ても死体が転がっていたことからついた
つらつらと流れる言葉は、もしかして
「申し訳ご……ごめんなさい。きっとお母様のようになれますよという励まし以外が
「だから畏まった言い方はよしてくれ。で、聞きたかったのはそれか?」
「申し……ご、ごめんなさい、
「理由は
色々大変なようだ。しかし、ミルレオは尊敬をこめた瞳でガウェインを見た。
「ガウェイン様は、本当に
「ん?」
今の話をしてまさか自分を
「他に
ガウェインは一瞬ぽかんと口を開けて、次いで
「あー、笑った! お前、
予想外の名前が出てきた。きょとんとしたミルレオの反応にガウェインはまた
「あいつは人を見る目があるんだ。あいつがどうにもしっくりこない奴は、何かしら問題を起こす。そんなあいつが一目で気に入ったからな、
ガウェインは、副官であり
今でも、部下として友人として従兄弟として、彼の代わりはいない。
「まあ、こう言ったら俺が自画自賛しているようで少々居心地悪いがな」
少し照れくさそうに笑うガウェインを見ながら、ミルレオは、二人の関係に素直に
「お二人は、とても
大きく
「そうだ。ミル、呪いを解く取っ
どうにもむず
「……お母様は、
「ま、まあ、気持ちは分からんでもない、が、子どもだった時分よりはマシじゃないか?」
小さくて細い手をぎゅっと
「………………隊長に励まして頂いたので
「お、おう」
音をたてずに立ち上がる様さえ品があるように見える。反対に表情は役者でもしないような
「何してるんだ?」
「防音です……」
用意が終わったのか、金紫が閉じられる。同時に銀青が
「北に銀雨、東に
円形の術式がミルの足元に大きく展開した。
ガウェインは、吸い込まれるように光で
『この未熟者がぁ!』
「ひいいいいいいいいいい!」
「うわああああああああああああああ!?」
「……あれが、母親、か?」
「ごめんなさいごめんなさい申し訳ございませんお母様ぁ!」
ぶるぶる震える少年が
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