第一章 西方守護伯付き魔女の就任 第一話
フリコリー大陸中に点在する小国は数知れない。三大大国と呼ばれるグエッサル、タペス、ショウジュセール以外は、目立つ特色がないと
文化はもちろん、言語すら
三大大国と同じほど知名度が高く、どんなに教養のない人間でも知っているといわれているのに、三大大国の名に数えられない異質の国。
国名を、ウイザリテという。
ウイザリテは、大陸で
建国以来、ただの一度も領土を明け
「……………………はぁ……」
少年は自らの
「………………
未来ある青少年が、青空を見上げながら絶望しているのには理由があった。
ミル・ヴァリテ、を名乗れといわれている。本名は、ミルレオ・リーテ・ウイザリテ。ウイザリテ国の王女であり、
入ってくる前は晴天だったはずなのに、部屋の中はどこか薄暗い。
ここは西方守護
書類が乱雑に積み上げられた
男でも魔女と呼ぶのはどうなんだろうなと
その議論は毎年評議会に
「それで……ミルと言ったか。やけに
青年独特の張りがあって低い声にびくりと
どこか雪景色を思わせるミルレオの様子は、ひたすらに悲痛が
ウイザリテは、守護地の名前の通り、防衛の
目の前の男は、若くして
「半人前でございます! 大変申し訳ございません!」
脅えきって必死に頭を下げる小さな身体に、彼は同情が
「いや、すまん。お前も
書状を
「ガウェイン!」
視線の怖さを
「いや、すまん。もういい加減上老院とは決着をつけねばなと思っていたところだ。お前はすぐに帰してやるから安心しろ」
「やめてください! わた、いや、ぼ、僕、帰されたらお母様に殺されます!」
「は?」
「僕が
真っ青な顔で震えるミルレオに、二人はぽかんと顔を見合わせた。トーマスが膝を折って身体を起こしてくれる。しかしミルレオはガウェインの足を放さない。
「落ち着くんだ。きっとお母上も、
「実際呪われているのです!」
「は?」
二人の声が重なった。
「ちなみに、どんな?」
「その……申し上げることは……いへはいほうひなっへほりまひゅへ」
急に
「
「で、でも、会ってみたら意外と気が合う人かもしれませんよ?」
あまりに憐れになったのか、会って間もないトーマスが我が事のように必死に
「でも、あの方、目が二つあって鼻が一つで耳が二つで口が一つで!」
「そうじゃなかった方が困るぞ」
ガウェインが
「
「うっ!」
「指は一本一本がヤワイモのようで、座った
しんっと静まり返った部屋に
「……十六にもなって半人前な僕がいけないのですね。だからお母様もお怒りで、そうだ身投げしよう」
「いい、天気だ」
非常に
大国グエッサルと
かつて大陸中の国から
大国ではあるものの異民族の国を吸収して大きくなったグエッサルは、いつでも不安定で、
大陸には、ウイザリテ以外の地に魔女はいない。今や魔女とはお
国境はいつ
二十年前、大陸は
女王はその時、神だった。
グエッサルを押し戻した後、レオリカは三年間意識不明となる。それでも国は
ミルレオは、幼い
そのうち、
いつだって、
王の独裁は、こんな場面で使っていい権限ではない。使う場所が限られているからこそ、価値を持つ切り札なのだ。そんなことはミルレオも承知だ。レオリカの立場を
公の場に現れなくなり、城内でさえ居住区域から出てこなくなった王女の
そんな状態の娘を、きっと母は案じたのだろう。後がない
いっそ魔女でなんかなくなりたい。力を継がなかった幼い
「うう……むくつけきとはこういうことを言うのね……ガイア、リア、姉様はまた一つ勉強しました……あら? むくつくきだったかしら……むくむく?」
王宮では決して使わなかった単語を思い出していると、背中から
「なに考え込んでんだ?」
「ひぃ!」
引き攣った悲鳴を上げたミルレオを、上半身
初めてこの地を
そうして過ごした十日間、
ミルレオは、盛大に余った
深い黒の隊服はウイザリテ軍の統一色である。上着の長い
本来魔女は軍服の着用が義務付けられていないけれど、同じ組織に所属する者として仲間意識を高める為に着用している者も多い。ミルの場合は、目立つ=的になるの図式で、皆に隊服を強要された形だ。魔女といえど、小動物と呼ばれた少年が的になるのは気が引けたらしい。
ミルレオには更に二つ、装飾品が追加される。一つは魔女である
揃った一式を身に
「な、何でもないでぅ……」
ちゃんと言い切れなかった。どうして彼らの身体からは風呂上がりでもないのに湯気が出ているのか。どうしてすぐに
彼らはガウェイン直属の親衛隊で、班長はここで白い歯を見せて笑っているジョンだ。誰より身体を
「そうだ、ミル。隊長閣下はどうした? おまえがここで暇そうにしてるのも
「……うぅ、この独特の厳しい
暑いと言いながら
「お母様ぁ……!」
あんまりだ。私に才能がないからって
「ほそっ! おまえそれでも男か!」
いいえ女ですとは口が
「いかん……いかんいかんぞ! 班長! これはやはりいかんですぞ!」
「自分も同感であります班長
「我らは同士ミルの
あちこちで腹筋していた集団がいつの間にか集まってきていた。ガウェインの直属だけあっていつも一糸乱れぬ
ジョンはむくむくな蒸気を上げたまま、感動したように
「同士諸君! 諸君らの気持ちはよっく分かった! 作戦は今夜決行だ! 行くぜ
野太い
「ひぃ!」
「ついに
「いざ
足をばたつかせても
「初陣!? まさか
スケーリトンにきて十日あまり。トーマスに習いながらガウェインの雑務の手伝いを行う以外は、男ばかりの軍隊生活で気絶して、悲鳴をあげて、
その
意気込むミルレオには、ジョン達が
「お前達、何をしている!?」
門の外から現れたのは、黒馬に乗ったガウェインとトーマスが率いる十人ほどの集団だ。外回りの仕事を終えて
トーマスは、弟のように
「あ、あの、隊長! 僕、
「……何の話だ?」
少々
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