間違い電話

ちゃるみ

間違い電話

その夜、僕は親友で一人暮らしのタカシの家に遊びに行こうと、彼の家に電話をかけた。


プルルルル~ プルルルル~  ガチャッ!


受話器をとる音がした。 

いつものけだるそうなタカシの声がはじまると思ってたら、


「はい、もしもし」


その声は透き通るように綺麗な声だった。 

僕は、緊張で言葉を失ってしまった。

そしてようやく、


「すみません!間違えました!」


そう言って電話を切った。 

今の素敵な声の女性は誰だろう。。

間違い電話? それともタカシの彼女だろうか?

まさか、タカシに彼女なんているはずないし、いたら僕に言うはずだし。

やっぱり間違い電話か。

しかし、素敵な声だったなぁ...


もう少し声を聞いておきたかったなぁと後悔しながらも、

気を取り直して再度タカシの家に電話をかけた。


プルルルル~ プルルルル~  ガチャッ!


「もしもし、タカシ? さっき凄く素敵な声の女性に間違い電話してさぁ」

「もしもし、違ってるようだけど」

「え~っ!!あっ、あっ、ご、ごめんなさい!」

「クスクス。いいわよ」


その電話で僕たちは、間違い電話の原因や、電話をかけようとしたタカシの話しど、気がつけば1時間くらい会話をしていた。

時間を忘れるような楽しさだったが、あっという間の1時間にも感じた。

もっと話をしていたい!もっと彼女の声を聞いていたい!


彼女は本当に素敵な声で上品な話し方をしている。 

声を聞いているだけで癒された気持ちになれる。


彼女の名前はサキということを教えてもらった。 

サキかぁ。

素敵な声に素敵な名前だなぁ。 

その夜、結局僕はタカシの家に行くのを止め、

サキのことで胸が時めいて眠れなかった。


次の日。


どうしても、サキの声が聞きたくて、用もなく電話をした。

サキは嫌がらないだろうか。

やがて、昨日と同じ、僕を癒す素敵な声が聞こえてきた。


「もしもし。あ、昨日のケンジ君?どうしたの?」

「あの、、特に用はないんだけど、声が聞きたくて...迷惑じゃないかな?」

「そんなことないわよ。うれしいわ。電話くれてありがとう!」


その日から僕たちは毎晩、電話をするようになった。


趣味の話や、大好きな映画の話しなど、

彼女の素敵な声を聞いてるだけで僕は幸せだった。


やがて、気がつくと僕は、まだ見ぬサキに恋をしていた。

そして、初めての電話から1週間が過ぎたとき、僕は決心してサキに告白をした。


「サキ、明日の日曜日、会おうよ!」

「急にどうしたのケンジ君?」

「サキに会いたいんだ!」

「でも、わたし...」

「外見なんて気にしないよ!純粋にサキに会いたいんだ!!」

「...なら、いいけど」

「ホント!?ありがとう!!」


とうとうサキに会える!


待ち合わせ当日。

僕たちは公園で待ち合わせをすることにした。

日曜なのに人はほとんどいない。 

サキはどんな顔なんだろう? 髪は長いのかな? 

どんな服を着てるんだろう?

緊張と興奮で胸が爆発しそうだった。。


しかし...

いくら待ってもサキは来ない。 


待ち合わせ場所も、待ち合わせ時間も何度も確認したのに。 

サキが来ない。


そう言えば、僕が会いたいと言っても、

サキはどこか乗り気ではないようだった。

実は彼氏がいるんだろうか。 

それとも僕に関心がないんだろうか。


それにしても、連絡もなしに約束を破るなんて...

サキがそんな女性だったなんて...


でも、所詮こんなものなのかも知れない。

僕が勝手に時めいて思い込んでただけなんだ。

そう自分に言い聞かせ、僕は待ち合わせ場所だった公園を後にしようとした。


ふと、周りを見渡すと、そこには、

おばあさんが、小さな子供とハトにエサをあげていた。

きっと、お孫さんなんだろうなぁ。 

とても微笑ましい光景だった。


サキは来なかったけど、今日はとてもいい天気だし、

気を取り直して今からタカシと遊びに行こう!!


そう思い、僕は元気を出すために、明るく大きな声で、

ハトにエサをやるおばあさんに声をかけた。


「おばあさん! 今日はいい天気ですね!」


すると、おばあさんは振り返り笑顔で、

しかも、どこかで聞いたことのある声でこう答えた。


「ホント。いい天気ね...」





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間違い電話 ちゃるみ @tyarumi7458

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