137. 第六章エピローグ:憐憫
夕暮れ時。
「それじゃ皆さん、ありがとうございました」
とある介護施設の玄関前で、そこの職員が頭を下げた。
「いえいえ、いいんですよ。ウチのおじいちゃんもお世話になってるし」
「私たちもいい経験が出来ました。こちらこそありがとうございました」
礼を受けているのは九名の人間。今回、老人介護のボランティアに参加した者たちであった。奥様三人組の一人、美人系の奥様。そしてアリス。他に大学生ボランティアが七名。
職員に見送られ、帰路に就く一行。駅へと向かう大学生たちとは途中で別れ、アリスは奥様と共に歩く。
「ごめんねぇ。せっかくのお休みなのに。ウチのおじいちゃんがどうしてもアリスちゃんに会いたいって言うもんだから」
その道すがら、隣を歩く彼女が申し訳なさそうに言う。
「金助おじいちゃん、アリスちゃんの事大好きだから。アリスちゃんがいるのといないのじゃ全然違うのよねぇ。あの偏屈なジジイが形無し。ホント助かったわぁ」
「うふふ、喜んでくれたのなら嬉しいです。いつでもお手伝いしますから、また遠慮なく誘って下さいね」
奥様の言葉に、アリスは微笑みながら返した。
他者の喜びの為に尽くすこと。それはアリスにとっての喜びであり、何の苦も感じない。偏屈な老人や生意気な子供相手であってもそれは同じ。そうした気持ちが伝わるのか、大体の人間はアリスに対し好意的だ。
奥様とおしゃべりをしながらも歩き、途中の十字路で彼女と別れる。一人、帰路を歩き続けるアリス。
そんな彼女を、遠くから眺めている者がいた。
「…………」
先ほど別れたはずの大学生の一人。眼鏡をした細見の男。赤い顔になっている彼は路地の陰に隠れ、目をつぶって深く深呼吸をする。そして意を決したように目を開き、アリスの方へと――
「ちょっとアンタ」
アリスの方へ行こうとしたところで呼び止められる。
ビクッとしながら彼が振り向くと、そこには先ほど別れたはずの奥様の姿。さらに眼鏡奥様にサ〇エさんヘアーの奥様まで。三人ともブチ切れたような顔をしている。
「な、何ですか」
「なーにアリスちゃんの事つけてんのよ。ストーカー?」
「ち、違います。俺はただ……」
大学生はビクビクとしながらも言い訳をしようとする。彼に対し、「このロリコンヤロー」「社会のゴミ」と罵倒する奥様方。
そんな風に間接的にアリスの元旦那をディスりつつも、彼女らは「ちょっとツラ貸しなさいよ」「せめて純花ちゃんの代わりに守ってあげなきゃね」「大人の女の良さを教えてやろうじゃないの」と言い、大学生を引っ張ってどこかへ連れて行こうとする。抵抗する大学生だが、相手は子育てやら夫婦喧嘩やらバーゲンセール争奪戦やらで鍛え上げられた猛者中の猛者。ひょろっひょろの大学生が逆らえるはずがない。
一方、そんな風に陰から守られていたアリス。彼女は無事家までたどり着くと、いつもの儀式を始める。新之助の写真をぽーっと小一時間眺めた後、いけないいけないと首を振り、仏壇の前で祈りだす。
そのうち、祈りを終えた彼女は天井を見上げた。しばらくすると、アリスの周囲に光の粒子のようなものが発生。無秩序にアリスの周囲を漂っていたが、数秒後。粒子は何かをささやくように彼女の耳元へと集まった。
「……やっぱりいませんね……」
アリスは瞳を開くと、残念そうにため息を吐く。
「純花、大丈夫かなぁ……」
次いで彼女は心配げな声を出した。
“精霊の声”と呼ばれる能力がある。魔力を用い、付近の状態を事細かに把握する、一部の異能者が持つ能力。
その己の感知範囲にいない。それはつまり地球上……いや、この世界にいないという事になる。このような真似が出来るのは――
「ふう。全く、困った女神様」
アリスは小さくため息を吐き、苦笑した。聞き分けのない子供を見るような目で。
そして――
「可愛そうな女神様。何をしたとしても、アナタの願いは絶対に叶わないというのに。……ね? 新之助様?」
仏壇に目を向け、写真の中の夫へと同意を求めた。
無論、答えは返ってこない。アリス自身も答えを期待した訳ではない。むしろ新之助本人に伝えるつもりはさらさらない事であり、写真に話しかけるのはアリスの癖のようなものだ。
「あら?」
ふと、玄関の方から音が聞こえた。
コンコンとノックの音。こんな時間に誰だろう? そう思いながらアリスは「はーい」と返事をし、小走りで玄関へと向かった。
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以上、色々な謎を残したところで本章及び第一部はおしまいです。
次章からは魔王うんぬんとの戦いや、国家間のアレコレが徐々に起こり始めます。区切り的によって本章でレヴィア・クエスト!」を完結とし、第二部「レヴィア・テンペスト!!」を始めます。
「作者マイページ→レヴィア・テンペスト!!」、もしくは↓からどうぞ。
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