135. パワー・オブ・ソング?
「キャー!! レオ様ー!! ディー様ー!!」
「副連合長……じぇねぇ、フレッドさん!! アンタ最高だぁ!!」
「ロジャー!! ライアーン!!」
一週間後。
数千人クラスのコンサートホールを満員にし、盛況のうちにライブを終えたクエイク。
彼らは控室に戻り、ソファーに座っていた。
「皆! 次のライブは明後日だ! 気合入れていこう!」
「今から気合とかバテるっつーの。休憩させろ」
「…………」
「フッ、元気な奴め」
リーダーであるディーを除いて。彼が嬉しそうに叫ぶと、ロジャーが疲労感バリバリな声で突っ込んだ。ライアンも同じ気持ちのようでこくこくと頷き、フレッドがくすりと微笑む。
「だが、こうしてまたお前たちとやれるとはな……。レオ、ありがとう。君のお陰で全てが上手くいった」
続いてしみじみとした様子で言葉を紡ぐフレッド。その感謝に、レヴィア(超絶イケメンロックンローラースタイル)はジュースを飲みながら「まーね」と返答。このくらい何でもない、という軽さだ。そんな彼女の態度にフレッドは再びくすりと笑った。
「全く、一人で先走りやがって。俺たちにも相談しろよ。悪い癖だぞ」
「そうそう。フレッドってそういうとこあるよね」
「……すまん。だが、ディーにはあまり言われたくないな」
ロジャーとディーが文句を言うと、フレッドが茶化すように言った。「何でさ。僕はそういう事しないよ」とふてくされるディー。こういうやり取りが
「ま、レオさんのお陰ってのは同意かね。何しろ賢者たちまで全員ファンにしちまったし。今日も最前列でノリまくってたしな」
正に革命的変化だねぇ……と肩をすくめるロジャー。うんうんと頷くレヴィア除く全員。何故なら、これまでクエイクが活動できなかったのは賢者が禁止していたからだ。
彼ら曰く、「伝統も格式もない、訳の分からぬ音楽など不要」「他の生徒に悪影響が見られる」という理由らしい。確かに彼らの音楽は古代文明にインスパイアされつつも先進的であり、年齢の高い者には特に理解できないものであった。一部学業をおろそかにする熱心なファンもいたので、悪影響と思われても仕方ない側面もある。加えてヴォルフが運動を始めた時期という事もあり、その運動と同一視されていたという理由もあるらしい。賢者らの通達にディーたちは落胆しつつも「いつか分かってくれる」と練習を続けていたのだが、フレッドは違った。
過去、盗賊によって父母が殺されたらしい彼。聞けばその怒りと悲しみを、ディーたちが作ったクエイクに、音楽に救われていたとの事。故に内心猛反発しており、それを解決する為にゼンレンに参加。学びの自由には音楽活動の自由も含まれるとし、クエイクの活動再開を求めるつもりだったとの事だ。もっともそれは「音楽で世界中を笑顔にする」というディーたちの意思と反するものであった為、事が成された後は自らは活動を辞めるつもりだったらしい。
そんな彼の覚悟にディーたちは気づかなかったようだが、ゼンレン潜入前に忘れ物のギターを彼らに届けたレヴィア。彼女はその活動休止云々を聞き、何となく予想したのだ。そしてそれを「使える」と判断し、今回の戦争停止ライブを立案。ディーたちに協力させたという訳であった。もっとも、京子の作戦が上手くいくのであればやるつもりはなかったのであるが。
「レヴィ……レオ。入るよ」
「お邪魔しまーす」
ふと、そこで純花とリズが部屋に入ってきた。関係者以外立ち入り禁止のこの場所であるが、仲間の彼女らは例外的にフリーパスだ。レヴィアは「おお二人とも。どうだった? 今日の俺」と問いかける。
「どうって……恰好良かったよ。今日も」
「うん。すごかった。アンタにこんな才能があったなんて、ねぇ」
ばっちり高評価であった。レヴィアは「フフフ、そうだろそうだろ」と嬉しそうにうんうん頷く。有象無象より身内に褒められた方が嬉しいのだ。まあ有象無象の賞賛もあればたくさん欲しいのだが。
「で、さ。エイベル教授が呼んでるらしいんだ。たぶん調査が終わったんだと思う。疲れてるだろうけど、レヴィアも来てくれないかな」
「おお、やっとか。もちろん行くぜ」
レヴィアはそそくさとヘアスタイルを元に戻し、服を女性ものに早着替え。超絶イケメンロックンローラーのままだと間違いなくファンに囲まれてしまうからだ。いつもの超絶美少女に戻り、「では、ごきげんよう」と挨拶をして部屋を出ていく。後ろから「相変わらずすげぇ変わり身」とロジャーの声が聞こえた。
「けど、見直したわ」
「ん?」
そして建物を出た後。リズが歩きながらもこちらに話しかけてきた。
「まさか歌で戦いを止めるなんて。あの時は意味不明だったけど、目のうろこが落ちた気分」
「うん。すごかった。魔法師団もゼンレンも戦うのをやめちゃって」
リズは明るい表情で言った。心から感動しているようだ。純花も同様の様子である。
「一体いつから考えてたのよ。秘密にするなんて水臭いわよ」
「ディーたちに会ってすぐですわ。秘密にしたのは、あまりにも突拍子のない考えだから。事前に聞いてれば反対したでしょう?」
「まあ……」
武力ではなく、歌で争いを止める。こんな発想を誰が出来るというのか。いや、思いついたとしても実行に移す者などいないだろう。冷静に考えれば不可能そのもの、狂気めいた考えとも言えよう。だからこそレヴィアは仲間たちに黙って準備――ディーたちに提供した曲を練習させたり、手紙及び新曲の楽譜をフレッドへと送らせたり――をしていたという訳である。
「でも、本当にすごいよ。戦いを止めて、全部上手いところに落ち着いて。あんなに頑固だった賢者まで」
「そうそう。迷宮図書館の解放こそされなかったけど、別の図書館を作るって話に落ち着いたし。そこに迷宮図書館の一部の本を移して、誰でも学べるようにするって話よね。流石に全部の本ではないらしいけど」
「ルゾルダ関係とかは明らかにまずいもんね。落としどころとしてはよかったんじゃないかな」
ゼンレンの目的である学問の自由。ヴォルフによって増幅されていた願いだが、生徒たちの本音でもあったのだ。どうやら賢者たちは学費を極端に研究分野に割り振っていたらしく、迷宮図書館に出入りが許されるほどに優秀な生徒を除き、十分な学びが得られない状態だったとの事だ。
かといって自己学習する為の資料も少ない。それほど優秀でなくとも学びを志す者からすれば、まさしく養分のような扱いだったそうだ。加えて新たな分野を学びたい者。それも許されなかった。国益または利益の大きい魔法や遺物関連以外は無駄。賢者はそう断じていた。
しかし今回。彼らが最も無駄と思っていたものの一つ――音楽に賢者たちはハマッてしまう。今日も最前列でオタ芸を披露していたくらいだ。しかしフレッドはゼンレンの首謀者の一人。ゼンレンを処罰すればクエイク解散の危機となってしまう。故に彼らは手のひらを返し、「彼らの言う事も一理ある」ともっともらしい事を言い、自由な学びの促進を約束したのであった。新たな図書館の建設はその一部という訳である。
レヴィアを褒めまくるリズと純花。彼女らの言葉にレヴィアは気分をよくし、「フフフ、まあな」「全部俺のお陰」と調子に乗る。やりたくないけどやった甲斐はあった。もっと俺を誉めろ。
「フフッ。全く、自意識過剰なんだから。けど、今回のは誇るべき事よね。あの政治やら何やらで頭の固かった賢者たちと、完全に暴走してたゼンレンたちが分かり合う……。戦いじゃ絶対できない事だわ。歌って本当に素晴らしいのね」
ほう、と感心のため息を吐くリズ。彼女に対し、レヴィアは――
「フハハ。お馬鹿さんめ。んな訳ねーだろ」
調子に乗りつつも否定した。「えっ?」と疑問の声を上げるリズ。
「歌なんかで戦いが止まる訳ねーじゃん。全部俺のお陰」
「えっ? えっ?」
「演出だよ演出。いきなり歌い出すだろ? 絶対こっち見るだろ? で、そこでは史上最高の美男子が命張って歌ってる訳だ。惚れない訳が無ぇ」
全ては自分と言う美を映えさせるための演出。歌は添え物に過ぎない。レヴィアはそう断言した。
「確かに。普通は同じ事やっても『何やってるんだろう?』ってなるだけだよね。レヴィアじゃなきゃ無理だったと思う」
彼女の意見に純花も同意。
実際、あの行いでレヴィアに一目惚れした人間はやばいくらい多い。笑顔を向けられただけで気絶する者がいたくらいなのだから。地球において「五感から受ける影響は視覚八割、聴覚一割」という学説がある事を考えればレヴィアの言うこともあながち間違いではなかろう。それにしても傲慢すぎる自信だが。
二人の冷静そのものな意見。「えっ? えっ?」と困惑し続けるリズ。が、最終的に「アンタってそんな奴よね……」とため息を吐いた。
「ところでさ」
「ん?」
「レヴィアの歌、何かどっかで聞いたことあるような気がするんだよね。あれって自分で考えたの?」
純花の問い。レヴィアはぎくりとした。
「も、もちろん。作詞作曲全部オリジナルですわ。ディーが作ったのもありますけど」
その答えに、「そうなんだ。すごいな」と納得する純花。どうやらそこまで聞き覚えはなかったようだ。
まあ、レヴィアとしてもよくは知らないのだが。テキトーに聞いたことのある歌を、念のため分からないよう改変をいれたものなのだから。恐らくはテレビとかコンビニで聞いたものだと思われる。少し時代遅れな曲調だったので純花の年代は知らないと思ったのだが。
因みに何故よく知らないかというと、レヴィアは歌に全くと言っていいほど興味が無いからである。
――どんな歌手だろうがアイドルだろうが、所詮は自分よりはるか格下の存在。
そう考える彼女にとって、歌に対し憧れる要素が全くなかったのだ。なので知ってるのはテレビや町で流れてる歌とか、友人に覚えさせられたとかそういうのだけ。とはいえ、一番演出としてふさわしそうなものを選ぶくらいはしたが。
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