134. ROCK’N ROLL

 今風なお洒落リーゼントにキメたピンク色の髪。白いジャケットに白のパンツスタイル。腕には意図のよくわからないエルビス袖ひらひらがついている。

 

 無駄に顔がいい男を知っているせいで目が肥えまくっている純花であるが、その男とはタイプが違う。いきなり現れた謎の美形に、目がぱちくりとしてしまう。いや、ものすごく見覚えがある気が――


「レヴィア?」

「おう」


 というかレヴィアであった。厚化粧を落としている上に、男装までしているので気づかなかったのだ。


 しかも異様に気合が入った格好。レヴィアの魅力をこれ以上なく際立きわだたせている。美形が本気で着飾るとこうなるのか……なんて感心してしまう純花であった。

 

「レヴィ……レオ! ごめん! 遅くなった!」

「マジかよ……マジでやるのかよ……!」

「……!」


 そして魔法師団の間をって現れた馬車。乗っているのはディーたち三人。彼らに対し、レヴィアは「おう! 始めんぞ!」とぶっきらぼうに言う。

 

 馬車が急停止し、三人が素早く降車。後部にかけてあった布が外されると、中には太鼓やシンバルといったドラムのようなものに、ギターのようなものが二本、マイクスタンドが二つ。さらに馬車の両端にはドでかいスピーカーのようなものが置いてある。

 

「ねえ、レヴィア……」

 

 何しようとしてるの? そう問いかけようとした純花。が、問いかける前にレヴィアは馬車の上に飛び乗ってしまい、マイクを持った。


「あのアマの作戦が上手くいってりゃよかったんだけどな。あんまやりたくねーけど、仕方ねぇ。『さあ、行くぜ! テメェ等!! 俺の歌を聴けぇーーー!!!!』」

 

 瞬間、凄まじいサウンドが鳴った。音の発生源はドでかいスピーカー。その大元はディーたち三人の楽器。ギターを弾き、ドラムを叩き、周囲にビートをかき鳴らしている。昨今ではあまり聞くことのない、ロックンロールの激しい曲だった。


 いきなりの行いに困惑する魔法兵団。進み続けるゼンレン。


 彼らをよそにレヴィアは声を出し始めた。


『=====♪ ======!!』

 

 思わず「おおお……」と唸ってしまう純花。プロ級の……いや、下手したらプロを超えるだろう歌声。但し女らしさが微塵も感じられない。音程は高いものの、パワーを感じさせる太い声だ。男装に全く違和感がない。これを歌う為に男装したのだろうか?


『======♪ ======――』

「…………あっ!」


 いけない。思わず見惚れてしまったが、戦いの最中なのだ。あわてて周囲に目をやると……いつの間にかゼンレンたちは止まっていた。さっきまでの自分同様、ぼーっとレヴィアの方を見つめている。

 

「馬鹿な! 何が起こっている! なぜ殺し合わない!」


 空から見物していたヴォルフがありえないという声を出した。煽動という、恐らくは他者の精神に干渉するレアスキル。その影響下にあったはずのゼンレンたちだが、先ほどまでの狂気に満ちた表情が無くなっているのだ。


 そんな彼らにレヴィアがウインクのパフォーマンス。ゼンレンたちの顔が真っ赤に染まった。鼻血を出す者や気絶する者までいる。男も女も関係ない。あまりにも凄まじい魅力であった。

  

 それも仕方ないのかもしれない。マイクを持ち、楽しげに歌うレヴィア。そのさわやかな笑顔に純花までドキッとしてしまうくらいなのだから。

 

『こんな、こんな事が……!』

「すげぇ! すげぇよ! マジで戦いが止まった! 俺たちのサウンドで!」

「――!」


 震えた声を出すフレッド機に、テンションを上げつつベース的な楽器を弾くロジャー。ツーバスなドラム的なものをさらに気合を入れて叩くロジャー。ギター的な楽器を弾きつつ、フレッド機を真剣な目で見つめるディー。

 

「おのれ……! 貴様の、貴様の仕業か! ならば俺自ら葬ってくれる!」


 ヴォルフが空より舞い降り、ルゾルダの一機を強奪。レヴィアたちの方へと急襲。

 

 純花はそれを止めようと身構えるが、同時に後ろからヒヒーンとわななきが聞こえた。振り向けば、レヴィアが馬の背に立ち、頭部を足蹴にというか台座にしながら歌っていた。馬が嫌がりそうなものだが、その瞳はハートマークになっており、むしろ喜んでいる様子。

 

 そのまま片手で手綱を操り、馬車を発進させるレヴィア。立ったまま馬車を操るという神業を見せ、ルゾルダの攻撃をひらりひらりと回避。後方にいるディーたちはバランスを崩しながらも演奏を続ける。歌は止まらない。夢と希望、愛と平和を訴えるその歌は。


「ありえない。命の危機だというのに、あの男たちは……」

「何なのだ。何なのだこの感覚は……!」

「胸が、胸が熱い……!」


 さらに魔法師団まで様子が変わりつつあった。賢者含めすべての人間たちが顔を紅潮させ、胸を抑えたりこぶしを握り締めたりしている。

 

『======!! ========――♪』

『くっ! 何なのだ貴様は……!』


 歌い続けるレヴィア。ルゾルダを翻弄しながら。そのたびに聴衆は唸り、感情を高まらせてゆく。敵であるヴォルフでさえ何らかの影響を受けているようだ。明らかに動きの精彩さが失われつつある。

 

 そして――

 

『=========!!!!』

 

 雄たけびシャウトめいた声と共に歌が終わった。

 

 瞬間――

 

「「「「「う、うおおおおーーー!!!!」」」」」

 

 爆発。

 

 都市中が爆発したかと思えるほどに凄まじい歓声が両軍から上がった。もっと見たい、聴きたいとばかりに馬車へと駆け寄っていく。もはや完全に《煽動》は解けているようだ。それどころか争い合っているという事実すら忘れている模様。

 

「ぐ、ぐうう……! くそぉっ! 覚えてろぉっ!」


 ルゾルダを放棄し、飛んで逃げていくヴォルフ。

 

 念のため警戒していた純花だが、もう大丈夫だろうと判断。レヴィアの方を見ると、馬車を停止させた彼女は馬の背から後方の荷車へと移動。すぐさま二曲目が始まっていた。純花は惹かれるようにそちらへ歩き、聴衆へと紛れる。

 

 しかし、肝心の歌が始まらない。同じフレーズの前奏が繰り返される中――

 

「フレッドォーーー!!」


 ディーがフレッド機に向かって叫んだ。すると、少しだけの間を置き……コクピットが開く。

 

「みんな……俺を待って……! くっ! オオオオオッ!!」


 咆哮。それと共に彼は飛び降りた。鍵盤のある楽器を片手に。群衆の間を突き抜け、馬車へとかけ上ったフレッドはその楽器を展開させ、半円状のキーボードへと変える。迷宮図書館に置いていったはずだが、結局は捨てられず、愛機の中にしまい込んでいたようだ。

 

「フレッド!」

「馬鹿な事ばっかしやがって! おせーぞ!」

「……!」

「すまない……! ディー! ロジャー! ライアン! るぞ!」


 フレッドの旋律が交わり、さらに厚みを持ったサウンド。もう一度だけ前奏を繰り返し、再び声が響き始める。

 

 レヴィアとディーのデュエット。超絶美形ロックンローラーのレヴィアと、アイドル風のディー。対極的な歌声にも関わらずそのメロディーは不思議とシンクロ。その熱い歌声に観客たちはさらに熱を上げてゆく――

 






「なぁに? コレぇ」


 一方、駆けつけてきたリズ。途中から来たお陰で冷静さを保っている彼女は、意味が分からないとばかりに首をかしげた。

 

 戦いを覚悟して来てみれば、そこで起こっているのは音楽ステージ。オーディエンスと化しているゼンレン及び魔法師団。殺し合いが起きてないのは何よりだが、本気で意味不明である。

 

「う、うおおおおお!!」


 最前列ではサイリウムのようなものを振っているネイの姿。「レオ様ー!! フレッド様ー!! キャー!!」と黄色い声を上げ続けている。今度は別の何かに洗脳されているようだった。というかサイリウムあんなものどこから持ってきたのだろうか? 隣で同じようになっている賢者からもらったのか?


「ハァハァ……。やっぱりディー×フレッドですよね。尊い……」


 で、隣にいる美久といえば。彼女は気持ち悪い顔でハァハァし始めた。視線の先では笑顔をかわし合いながら演奏しているディーとフレッド。「あーいけません。いけませんそれは」とさらに気持ち悪くなる美久。ついでに「いいねいいね。ヘイヘイヘーイ」とエアギターをしているエイベル。




 ――誰もマトモなヤツがいない。マトモなのは自分だけ。



 

 その事に気づいたリズは思い切り顔をひきつらせた。

 

 ……いや、もう一人いるはず。自分と同じく走ってきた京子。クエイクに興味がなく、レヴィアと喧嘩していた彼女なら変な感じになることはないだろう。

 

 そう期待し、彼女の方を見ると――






─────────────────────


・美貌チート

・魔力チート(?)

・歌チート【new!】


レヴィアちゃん、話が進むごとにスキルが増えるタイプのなろう主人公だった模様。


あ、歌詞を引用するのは禁止&私に作詞センスはないので、頭の中で好きな歌を流してね。

夢と希望、愛と平和を訴える歌詞なんてワイに書ける訳ないやろ(半ギレ

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