131. vsルゾルダ

 そうして仲間同士ぶつかろうとする一方、別の場所では。

 

「…………」

「うっ」


 一歩進むごとに、一歩下がるゼンレンたち。

 

 ゼンレンたちの前には鬼がいた。京子が召喚した禅鬼という鬼。体長二メートル半はある巨体がぎろりと彼らを睨む。

 

 だが、彼らが恐れているのはソレではない。未知の存在とはいえ、たった一体。学びの一環として魔物と戦った事のある者もいる。そこまで恐れるものではないのだ。

 

 つまり、彼らが真に恐れているのは……。

 

「う、うう……!」

「げえぇ……!」

 

 黄金色の目を持つ黒髪の女。彼女は突っ込んでいった同志たちに容赦なく腹パンを決めた。相当な威力を持っていたらしく、辺りはゲロの海である。


「どうしたの? もう来ないの?」


 謎の圧力を持ち、周囲に恐怖を振りまく女……もとい純花。彼女に対し、ゼンレンたちは完全に腰が引けていた。敵にしてはならない――そういう生物的恐怖を感じたのだ。

 

「み、皆! ビビるな! 相手はただの女……ッ!?」

 

 メンバーを鼓舞しようとする階級の高そうなオッサン顔の男。しかし次の瞬間、男は動けなくなっていた。京子持つ符が発動したのだ。


「やっかいそうなのは大人しくてもらおか。木原さん、こうなったらしゃーない。せめて一番上と二番目を捕まえましょ」

「分かった」


 ワンサイドゲーム。早くもそうした展開になる純花たちの戦場。

 

 全てはゼンレンの油断が原因と言っていい。レヴィアと京子のコンビネーションにかかったのもそうだが、一番まずいのはエイベルをこの場に連れてきた事である。彼が解放された以上、純花たちが遠慮する必要は全くないのだ。

 

 奇しくも成功した救出作戦。目的の最低限は満たしたというところだろうか。ルゾルダの確保が不可能になったので失敗寄りではあるが。

 

 まあ、失敗してしまったものは仕方ない。次善の策――ヴォルフとフレッドというトップ勢を確保する事を京子が提案。先日、「連合長がいなくても止まらない」という事をフレッドが言っていたが、流石に二人ともいなくなれば勢いはそがれるだろうという考えだった。


 純花は戦いながらもヴォルフとフレッドを探す。すると……。

 

「ハァーッハッハッハ! 流石は勇者! 一筋縄ではいかないようだ!」


 聞こえてきたヴォルフのバカでかい声。見れば、彼は入口と反対側の壁の前で腕を組んでいた。

 

 瞬間、躍動する地面。純花は少しだけふらつくが、ぐっとこらえた。同時に機械音のようなものが周囲から聞こえ始める。どうやら部屋ごと動いている模様。少しだけ圧力のようなものを感じたので、上昇しているのかもしれない。

 

「やはり貴様は俺自ら始末せねばならぬようだ! この間は不覚を取ったが、あの時のようにはいかんぞ!」


 ガコン! と何かが固定されたような音を最後に、機械音が止まる。次いでヴォルフの後ろの壁が左右に開き、そこから見えたのは地上の景色と……

 

『連合長! 大丈夫ですか!?』

『勇者め! 副連合長のおっしゃったとおり、待機していて正解でしたな!』

 

 二体のルゾルダ。万が一の為に待機させていたようだ。

 

 ヴォルフはその片方……頭部に一本角があり、盾を持った機体に乗り込む。金色でカラーリングされたド派手な機体であった。

 

 一方、レヴィアの方にいたフレッドも駆け出し、その隣の機体に搭乗。こちらは黒とシックな色の機体で、両手で大きなライフルを持っている。

 

「またルゾルダか。こりないなぁ」

『フッ。強襲型ルゾルダMk-3改め、ヴォルフスペシャル! ただのルゾルダと同じだと思うなよ!』

 

 スピーカーで増幅されたドでかい声。同時に頭部のツインアイがカッと光り、ルゾルダが動き出す。

 

『ハァッ!』


 背中のバックパック上部にある棒を手につかみ、抜刀するルゾルダ。ヴォンという音と共に赤色のビームサーベルが発生。しばし感触を確かめるようにサーベルを振り回すと、バーニアをふかして純花の方へ突っ込んでくる。

 

 それを見た周囲の生徒たちが巻き込まれてはたまらんとばかりに逃げ出す。純花とてマトモに当たったら流石にヤバそうだ。サーベルが振り下ろされると同時に、横にステップして避ける。

 

「あっつ……!」

 

 流石はビーム。放たれる熱も相当であり、当たっていなくても熱さを感じる。やはり避けて正解であった。続けざまに放たれる振り払いも、純花は軽くジャンプして回避。

 

 攻め続けるルゾルダ。動きが非常にスムーズだ。遺跡にいたルゾルダとは比べ物にならない。エイベルの言っていた通り、人が乗ってこそ真価を発揮するのかもしれない。

 

「はわわわわ……!」

「レヴィア! 逃げるなァ!」

「れ、連合長! お待ちを! 私たちまで巻き込まれてしまいます!」

 

 そして二人の攻防に巻き込まれそうになっている仲間及びゼンレンたち。広い部屋ではあるが、十数メートルの巨体が暴れられるほど大きくはないのだ。

 

『連合長! ここは一旦……』

『む、そうだな! 勇者よ、続きは外でだ!』


 フレッドが言葉をかけると、ヴォルフ機はバーニアを吹かし、外へと後退。純花としても仲間が巻き込まれるのはまずいので外へと走る。

 

 出た場所は、迷宮図書館から少し離れた場所――ゼンレンの陣地の少し外側であった。以前、激しい戦闘が行われたらしく、周囲の建物は既に倒壊している。

 

『さあ、行くぞ!』


 ヴォルフ機が再び突撃してきた。どう戦うべきかと純花は考え、小回りを活かす事に決める。瞬発力で比べれば、あの巨体と自分では確実に自分の方が上だろうからだ。

 

 純花は走り出し、途中でナナメにステップしてサーベルの振り下ろしをギリギリで回避。さらに空中へ跳び上がり、ヴォルフ機の胴退部を蹴ろうとする。

 

 が、

 

「ぐうっ!?」


 吹き飛ばされる純花。フレッドが弾丸を放ったのだ。下手をすればヴォルフ機に当たっただろうに。抜群のコントロール力である。純花は切り傷だらけになりながら吹っ飛ぶ。遠くから「純花の玉のお肌があっ!」と絶叫が聞こえた。


『フハハハ! こんなあからさまな誘いに乗るとは! フレッド、よくやった!』

『…………』


 大きく笑うヴォルフ。微妙な感じのフレッド。どうやら振り下ろしは誘いで、本命はフレッドの一撃だったらしい。

 

『何っ!?』

 

 が、その程度でやられる純花ではない。吹っ飛ばされた彼女はすぐに立ち上がり、二体のルゾルダを警戒。

 

『ぬうっ、流石は勇者という訳か! なんという耐久力! ならば俺自ら葬ってくれよう! フレッド、合わせろ!』

『了解』


 再び突撃してくるヴォルフ機。身構える純花だが、さらに彼の後ろから銃弾が。純花がステップして回避すると、その一瞬の隙をついてヴォルフ機が切りかかってくる。何とか飛びのいて回避するも、さらにその着地地点にフレッドの銃弾が放たれた。

 

「がっ……!」


 致命的というほどではない。だが痛いは痛い。それに加え、攻撃に妙な力がこもっているのを感じた。恐らくは魔法的なダメージだろう。

 

 痛みをこらえつつも純花は再び立ち上がる。が、彼女の目の前には……

 

『貰ったぁ!』


 ヴォルフのルゾルダが。既に刃を振り下ろす途中であり、回避は間に合わない。そう判断した純花は腕をクロスさせて防御。

 

「ああああっ!」


 焼けるような痛みに、焦げた臭い。何とか耐えられたが、純花の腕はやけどしたようになっていた。

 

『これすら耐えるのか! だが、ダメージはあるようだな! 成程、物理的な力よりも属性的な力の方が効くと見た!』

 

 驚愕の声を出すヴォルフ。ただ、効いていることは理解したらしく、再びサーベルを振り下ろしてくる。

 

『ぐおっ!』

 

 が、そこでものすごい衝撃がヴォルフ機を襲い、転倒。頭部に何かが当たったようで、べっこりとへこんでいる。

 

「テメー!! 流石にシャレになんねーぞ!! 慰謝料どころじゃすまさねーからな!!」


 先ほど出てきた建物の前でめちゃくちゃ怒っているレヴィア。どうやら彼女が何かを投げたらしい。純花を傷つけられた事が相当おかんむりのようだ。


『くっ! やっかいなのがそっちにもいたか! 同志ネイ! 何をしている!』

「も、申し訳ない! ですが……」


 気が引けるような様子を見せるネイ。洗脳状態とはいえ、人情家な彼女だ。流石に仲間が大怪我するとなると思うところがあるようだ。そして男子生徒は相変わらずセクハラを恐れており、女子生徒は相手にならない。

 

『連合長! ……何ッ!?』

「うちを忘れてもらっては困りますえ? これでもレアスキル持ちや」


 そしてヴォルフ機をフォローしようとしたフレッド機。彼の機体は動けなくなっていた。隙と見た京子が符を放ったのだ。


『ぬううっ! 流石は勇者と言うべきか……!』


 やっかいそうに唸るヴォルフ。遺跡のルゾルダとは比べ物にならない動きをするヴォルフ機だが、一体相手なら何とかなるだろう。純花は内心で京子に感謝するが……

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