126. 鬼さんこちら

 それからもいくつかの魔物に遭遇するが、どれも敵ではなかった。魔物、生物兵器、機械と様々なタイプの敵が妨害してきたが、その全てを純花は一蹴。久々の純花無双であった。

 

「はーっ。流石木原さんやね」


 地面に座り、感心のため息をつく京子。

 

 迷宮に潜り、かなりの時間が経った。外はもう夜だろう。京子によるともう少しで目的地らしいのだが、このまま突入するには疲労が大きい。よって一晩休息を取る事にしたのだ。

 

 比較的小さめの小部屋に入り、焚火を囲む三人。明日への英気を養うために温かい食べ物を作ったのと、汗ふき用の蒸しタオルを作る為に起こしたのだ。一日だけなので水ぶきでいいかと純花は思ったが、「臭い女子とかあるまじき事ですわ」というレヴィアの言で作ることになった。

 

「魔物がちっとも相手にならへん。こちらに来てもらって正解やったな。木原さんがいなければ最初のトコで無理だったやろね」


 京子は笑顔で純花を誉め続けている。実際、純花がいなければ突破できなかったのは事実である。ただ、あまりにも褒めるので純花は少し照れてしまい、ぽりぽりと頬をかく。

 

「それに比べて……」


 京子はちらりとレヴィアの方を見た。「コイツ役立たねぇな」という意思がありありであった。魔物は純花が、道案内は京子が、しかしレヴィアは何もしていない。ここまでに罠の存在は皆無だったのだ。恐らくこの遺跡の防衛機構は魔物及び迷路という感じなのだろう。

 

「あら、わたくしが動いたらそれはそれで問題ではなくて? みえみえな罠にハマりそうな方もいますし」


 かちんと来たらしいレヴィアが反射的に言い返す。険悪な雰囲気になる二人。再び喧嘩が始まってしまいそうだ。それを感じた純花は「ふ、二人とも、喧嘩はやめなよ」とおろおろしつつも止めようとするが……。


「嫌やねぇ。想像だけで人を評価するお人って。将来困った人にならへんやろか?」

「あらあら、現在進行形で困った人が何か言ってますわ。ブーメランってご存じ?」

「勿論。どこかの誰かさんの事を言うんやろ?」


 二人が止まる気配は全くない。

 

 なお、今回はレヴィアの分が悪い模様。言いがかり的な悪口を言うのがせいぜい。役立たず状態なのは事実な為だろう。


 しかし数秒後、彼女はピーンと来た顔をし……

 

「ふっ、勘違いさせてしまったようですわね。わたくしが言っているのはアナタのお家の事だったんですけど」

「家……?」

「純花。あまりこの子に気を許してはいけませんわよ。アナタを利用しようとしているのが見え見えですから」

「!?」


 瞬間、目を見開く京子。何故それを!? という感じで驚いていた。

 

「図星みたいですわね。うふふ、喧嘩売る相手を間違えるからこうなるのです」


 とても嬉しそうに嘲笑あざわらうレヴィア。一体何の事だろうか。京子の家が自分を利用? 意味が分からず、純花は首をかしげる。


「利用? ……よく分からないけど、私を利用してもいい事ない気が。帰る為だったらむしろ協力するし」


 何故なら京子はお金持ち。自分が役に立てることなどないはず。腕力には自信があるといえばあるが、お金持ちなら護衛くらい雇えるだろう。そもそも学園においては京子と話したことすらないのだ。レヴィアの勘違いではなかろうか?

 

 そう思う純花だが、レヴィアはちっちっと指を振る。

 

「違う違う。この子はですね……」

「待ち。……何で分かったん? うちらの事なんて何一つ話してへんのに」


 ぎろりとレヴィアを睨む京子。本当にそうだったらしい。純花は「えっ」と少しだけ驚く。


「それはもう、アナタと美久の様子を見てれば一目瞭然ですわ」


 一方、レヴィアはフフンと得意げな顔をした。すると、京子はまじまじと彼女を見た後、ハァとため息を吐き……。

 

「……成程。そういえば美久が色々とこぼしとったな。全く……」


 観念した、という感じで肩を落とす。どうやら美久が何かこぼしていたようだ。そういえば、初日の京子は美久の話を何度か強引に止めていた。レヴィアはあの時に何かを掴んでいたのだろうか?

 

 純花はいぶかしげな顔になり、問いかける。


「どういう事? 帰る為に頑張ってたんじゃないの? 近衛も」

「勿論。けど木原さん。その帰る場所が無くなってしまう……なんて考えたことある?」







「は?」

 

 意味が分からない。純花は思わず呆けてしまった。レヴィアも「何言ってるんだコイツは」という顔をしている。

 

 そうしてしばし固まっていると、京子は指を空中で動かし……

 

禅鬼ぜんき、おいで」


 五芒星。そんなカタチをした魔法陣のようなものが浮かび上がる。

 

 人間大くらいの大きさのソレ。さらにそこからにゅっと腕が現れた。いや、腕だけじゃない。足、体、頭。その姿は正に――

 

「鬼?」


 赤い髪に、赤いカラダ。二本の角。身長は二メートルを優に超えている。筋肉粒々のたくましい体を持つその存在は、正に鬼という言葉がぴったりであった。

 

「鬼なんて作れるんだ。すごいね。これも近衛のレアスキル?」

「ちゃう。これは元々使えてた術なんよ。この世界に来る前から」

「……えっ?」


 日本にいたころから魔法が使えた? けれどあちらにそんなものはないはず……。

 

 純花が再び驚いていると、京子は真剣な表情で言う。

 

「こっちで言う魔力。実はな木原さん。うちらの世界でも同じ力は存在するんよ」

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