123. 決行前夜
そしてその夜。
迷宮図書館の地下一階。レヴィアたちにあてがわれた部屋の中。
部屋中に大量の本棚が並んでいる為、休む部屋としては落ち着かないが、元々は書庫なので仕方ない。比較的広い部分の床に座り、話し合うネイ除く五人。ネイは科が違うため、別部屋なのだ。
「うーん……。やはり見つからずというのは難しそうですねぇ」
一通り話し終えた後、美久が難しい顔で呟いた。
情報収集の結果、ゼンレンの人員配置については大体分かった。人づての情報だけでなく、直接確認したものも含まれるので精度は高いと思われる。その結果、秘密裏にエイベルを助けるのは非常にハードルが高い事が判明。
まず、エイベルがとらわれているのは迷宮図書館の地下――それも相当深い場所だ。当然、そこまでには厳重な警備がなされている。遮蔽物のない迷宮の通路を通り、警備の者に見つからずに進むというのは間違いなく不可能だろう。他に機械仕掛けのエレベータもあるにはあるらしいが、結局は降りた先で迷宮を進む必要があり、警備の者との接触は免れない。
「やっぱり倒す? ここまで来たんならちょっとくらい騒ぎになってもいいんじゃないかな」
「最悪それもありですが、エイベル教授を助け出す前は出来るだけ避けたいですわね。先日も言いましたが、人質にされては困りますもの」
「ベストなのはエイベル教授を救出、その後すぐにルゾルダを確保、最後に魔法師団に鎮圧してもらうって手順でしょうね。リスク管理的に」
純花、レヴィア、美久がそれぞれの意見を言う。「ならどうする?」「わたくしが色仕掛けしてみましょうか。やりたくありませんけど」「その化粧のままじゃ無理なんじゃ」などと話は進むが、どうもしっくりくる方法が思い浮かばない。
「待って。……せや、この場所なら……」
「お嬢様、何かありました?」
顎に手をやり、考えを巡らせているロリ京子。何かをなぞるように空中で手を動かした後、「いけそうやな」と呟く。
「近衛、何か思いついたの?」
「ええ。迷宮図書館の未踏破区域。そこを通ればエイベル教授のとこまでたどり着けるかも……」
賢者から教わったマップに描かれていなかった空白部分。つまり魔法学園で管理しきれていない未踏破の場所。大回りになるにせよ、エイベルのところまでのルートがあるかもしれないと京子は言う。「おお、流石はお嬢様!」とここぞとばかりに美久が持ち上げた。
「成程。でも大丈夫かしら? 未踏破ってことは、遺跡の魔物とかがいるんじゃない? 本当につながっているかも分からないし……」
「せやな。けど、うちと木原さんがいれば何とかなるやろ」
リズが懸念を挙げると、京子は余裕そうな表情で言う。
その自信満々な態度に、レヴィアは疑問を抱く。純花の武力をアテにしているのは分かるが、迷宮はどうするのだろう、と。迷宮は迷うからこそ迷宮と呼ばれるのだ。簡単に目的地までたどり着けるとは思えない。
同じ疑問を抱いたらいしリズが再度問いかけると、「そういうレアスキルを持っとるんよ」との答え。
(成程、レアスキルか。そういえば複数のレアスキルを持ってるんだっけ。純花以外)
一つは言語理解として、一つは自分を拘束したもの、もう一つは自らをロリと化したもの、そしてさらに別のものを持っている。最低でも四つあるという訳だ。「どんなレアスキルなの?」いう純花の問いに、「まんま道案内する力やね」と彼女は答える。随分と都合がよすぎる感じはするが、まあ問題が解決できるなら文句はない。
「うーん、木原純花にはルゾルダの方に行ってほしかったんですけどねぇ。なら残り四人でルゾルダを確保しましょうか」
「いえ、そういう事ならわたくしも純花の方に行くべきでしょう」
美久がチーム分けの話をすると、レヴィアは自分も迷宮へ行くべきと主張した。当然、京子の顔が嫌そうになり、彼女の感情を察したらしい美久がちょっと困り顔になる。
「あのー、ピンクの人。お嬢様とは別れた方がいい気が。ほら、また喧嘩になるでしょうし……」
「と言われても、わたくしが一番遺跡に詳しいですし。これまで様々な遺跡に潜ってきてるので。道案内はキョウコができるとしても、罠とかの仕掛けに対処できまして?」
潜った遺跡の数でいえば、第一線で活躍する研究者にも負けない。そういう経験をレヴィアは持っていた。
過去、何とかして日本へ帰る為に動いた自分。東帝国のめぼしい遺跡は殆ど回ったのだ。残念ながら成果は全く得られず、途中であきらめて権力者への道を目指したものの、その経験や知識はしっかり残っている。
レヴィアの言葉に、「お嬢様、どうしましょう」と問いかける美久。京子はいまいましそうにしつつも反対はしないようだ。反射的にマウントを取ろうとするレヴィアだが、ふと昼間の出来事を思い出す。
(そういえば優しくするんだった)
リズの言葉。それを思い出したレヴィアは京子に向けてにこりと微笑む。「安心しなさい。わたくしがいれば安心ですわ」という気持ちを込めて。
「気色悪ぅ」
が、返ってきたのは心無い言葉。
ガタッと立ち上がるレヴィア。その喧嘩買ったとばかりに。が、両サイドにいたリズと美久に腕をつかまれ、強制的に座らされる。
「離せリズ。あのガキに世間の厳しさを教えてやる義務が俺にはあるのだ」
「気持ちは分かるけど、大人になりなさい。何歳年下だと思ってるの」
「お嬢様もですよぉ。喧嘩しない宣言はどこ行ったんですかぁ。自分から喧嘩売ってどうするんです」
そんな二人をなだめるリズと美久だが、にらみ合いはおさまらない。一方が妥協しても、もう一方が喧嘩を売るこの状態。和解するにはそれこそ奇跡のような出来事が必要だろう。
という訳で、ものすごく相性が悪すぎる二人。しかしエイベル救出のメンバーとしては必須のメンバーでもある。片方は途中までのマップを把握し、もう片方は遺跡について最も詳しい。どちらも外すわけにはいかない。
「こうなったら純花。アンタだけが頼りよ」
「え? 私?」
「ええ。アンタはどっちからも好かれてる訳だし、可能性があるとすればアンタしかない。上手く仲裁するのよ」
リズが純花へと目を向けて言う。彼女の言葉に「出来るかな……」と不安がる純花。
「で、残りの私とミクはルゾルダの方か。戦力的には厳しいだろうけど、何とかしてみせるわ」
「幸い戦士科にはネイさんがいますからね。ネイさんを訪ねればルゾルダのところへ近づくのは容易でしょう。それまでは普段通り行動して、救出成功の合図と共に動く感じで行きましょうか」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます