119. 幻・月夜見乃越水
物陰に隠れ、制服に着替えたレヴィアたち一行。
そのうちの一人を見た瞬間、京子は理解した。
(あっ、これ無理や)
無理。ああ、これは無理だ。レヴィアはこの事を言っていたのだろう。腹の立つ女ではあるが、確かにこれは机上の空論と言わざるを得ない。
顔をひきつらせた京子の眼前。そこには、今……
「お、おおお……」
感動したように唸る女、ネイ。
緑色のブレザーに、襟元のリボン。チェック柄のスカート。憧れの学園生に彼女は変身したのだ。
「こ、これは……ちょっとヤバイというかマズイというか……」
「え、ええ……」
やばいものを見たという目をする美久。リズも同様である。
「ほら見なさい。発想は悪くありませんでしたが、世の中にはどう頑張っても不可能な事があるんですのよ」
呆れたようにため息を吐くレヴィア(厚化粧ギャルJK変装中)。
魔王の侵攻中という緊急化において決起したという、状況が読めないゼンレン。だが、流石にコスプレJKを見抜けぬほどアホではないだろう。まず間違いなく追い返される。男性向けの需要という意味ならそこそこあるだろうが、ゼンレンが求めるものでは絶対にない。
「ど、どうする? 置いていく? 流石に無理だと思うんだけど」
スカートのすそをつかみ、うふふと嬉しそうにしながらくるくると回っているネイ。その彼女を見たリズ(大人のお友達に人気が出そうなロリJK)がさらに顔を引きつらせて言った。
確かにこれは無理だ。置いていくのが最適解。そう思うのが普通である。そういうのに疎い純花(眼鏡変装中JK)が「無理なんだ。アレ」ととぼけた事をつぶやいた。
「ま、まあそう思われるのが普通でしょうけど。何とかなります、よね? お嬢様」
「や、無理やな。しゃーないし、置いてこ」
京子は頭を切り替えて言った。確かに美久の言う通り何とかならなくはないのだが、長期間潜入する可能性を考慮するなら置いていった方がいい。加えてこのアホな姿。どこかで足を引っ張りそうである。
「フッ、やっぱりね。仕方ありません。わたくしが何とかして差し上げましょう」
そこでレヴィアが口を開く。何やら得意げな様子であった。
「レヴィア、何とかする方法、あるの?」
「ええ純花。ネイについては何とかなりますわ」
「そっか。流石だね」
レヴィアを褒める純花。少しそわそわしているのは気のせいではないだろう。
そしてそのレヴィアは「ふふん」と言った感じでこちらを見てくる。思わずかちーんと来る京子。こちらにマウント取っているのが見え見えである。アレのどこが可愛いのか。正直、純花の神経が分からない。あの方の娘だから感覚が人と少し違うのかもしれない。
京子が頭の中で考察しつつも気持ちを落ち突かせていると、レヴィアは得意げなままこちらへ問いかけてくる。
「それで、平民……じゃない、京子はどうするおつもり? ちょっとやそっとじゃ誤魔化されてくれないと思いますが。他人に対し完全シカトするような人間ですし、間違いなく覚えられてるでしょう」
地味顔の方は大丈夫でしょうけど、なんて事を言うレヴィア。隣にいる美久が「地味顔……まあ、地味なのは自覚してますけどぉ」と口をとがらせる。確かに彼女は目立たない容姿をしているので、純花同様眼鏡でもすればバレないだろう。ついでに髪型でも変えておけばまず間違いなく気づかれない。
対し、京子は目立つ。美人である事もそうだが、着物なんて着ていたから相当目立っていた。加えてその差別的思想。間違いなくゼンレンのうち誰かは覚えている。無論、悪い意味でだ。レヴィアが「何ならわたくしが何とかしてあげましょうか?」なんてニヤついてくる。
「お生憎様。そこのお馬鹿……コホン、ネイさんの事は予想外やったけど、うちの方はきっちり考えてますえ」
京子は懐から符を取り出す。書かれている文字は『幻・月夜見乃越水』。
「あ、この間の。もしかしてそれで何とかするの?」
「つくよみの……何て読むの? その文字」
リズは興味津々な様子で、純花は首をかしげて問いかけてくる。美久が「
京子は符に魔力を込める。極小の魔力。注視していなければ気づかれないくらいの量であった。すると、符は青い炎と共に燃え尽き、そして――
「わっ」
「えっ?」
京子の体が縮んでゆく。その現象に驚く一行。
……数秒後、京子は小学生くらいの年齢になっていた。
「これでゼンレンの連中もうちとは気づかへんやろ。美久、服を」
「はいはい」
だぼだぼになった着物から、小さな制服へ着替える京子。ロリと化した彼女に対し、リズは目を丸くしている。
「すごっ! こんな魔法見たことないわ! ……いえ、レアスキルだったわね。昨日のと同じ系統っぽいけど、どんなレアスキルなの?」
問いかけてくるリズに、「ま、色々できるんよ」と流す京子。「チッ。野球部にしてやろうと思ったのに」と舌打ちするレヴィア。どうやらものすごく不穏な事を考えていたようだ。
「けど、これならネイも何とかなるんじゃ? ちっちゃくなれるんなら」
「使うのは簡単やけどなぁ。色々と準備がいるんよ。作るのは一日一枚が限度やし、効果も一日持つか持たないかくらい。今日までに数枚作っておいたけど、二人分となると不足するかもしれへん」
「そっか……。なら仕方ないわね」
「で、問題のネイさんの方やけど……どうするつもりなん? うちとしてはむしろ置いていくべきと思うんやけど」
こちらの話に気づかず、ファッションに夢中になっているネイ。やるべきことを完全に忘れている。やはり役に立たないどころか足を引っ張りかねない。京子はそう判断したのだ。
しかし、レヴィアはくすりと笑い……
「フッ。何とかとハサミは使いよう。本物の策士というものを見せてあげますわ。ちょっとネイ」
「ウフフフフ……ん? 誰だその小さな子は?」
憧れの制服姿を堪能し、こちらの出来事に微塵も気づいていない
その彼女に呆れつつも、レヴィアは……
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