100. 戦いが終わり……
「イルザ……」
リズは涙声のまま呟く。見えなくなったグリフォンの方を見つめながら。
「妹って……あいつがそうなの?」
「ええ。けど、何でこんな真似を……」
純花の問いかけ。それを肯定しつつもリズは考える。
探し続けていた妹、イルザ。まさかこんなところで見つかるとは。数年間探し続けてようやく見つけた。その事自体は嬉しい。
だが、何故。何故あのような性格になっていたのか。リズの知る彼女は人を傷つけて喜ぶような性格では決してなかった。やはり父母が行ったことのせいでそうなったのだろうか。
「うーむ、リズには妹がいたのか。確かにリズはお姉ちゃんという感じがするが。しかし、何というか性格が……」
「うん、全然似てないね。あと、妹なのにあっちの方が大きいんだ」
「まあ……双子だし。年齢は一緒だから、あの子の方が早く成長したんだと思う」
けわしい声のネイに、お気楽な事を言う純花。お気楽なのは身内意外に興味がないからだろう。加えて距離があったおかげで耳の事にも気づかれていないようだ。
「しかし、レヴィアはいつまであそこにいるんだ。やはり怪我をしているのか? おーい! レヴィア!」
ネイはオーロラビジョンの方へと叫んだ。その声に気づいたらしく、レヴィアは身軽な動きでこちらへ向かってくる。
「あっ……っとと」
しかしその途中。レヴィアは足をもつれさせ、観客席の椅子に寄りかかった。そこでは何とか踏ん張ったものの、闘技場まで下りてきた途端、ペタリと座り込んでしまう。
「レヴィア……!?」
珍しく不調の彼女に、純花が驚くような表情を見せる。リズやネイも同様であり、三人はレヴィアへと駆け寄った。
「レヴィア、大丈夫?」
「あ、ああ……。少し、疲れただけ……」
純花の言葉。それに元気のない様子で答えたレヴィア。先ほど受けた攻撃が後をひいているのだろうか? どうにかして避けたのか、外傷はなさそうだが……。
そのまま十秒ほどうつむいていたレヴィアだが、懐から丸薬のようなモノを取り出し、口の中に放り込んだ。一体何の薬だろうとリズは疑問に思う。健康及び美容に気を遣いまくるレヴィアに持病など無かったはず。
「ね、ねえレヴィア。ホントに大丈夫なの?」
「ええ。少々魔力を使いすぎただけなので。言ったでしょう? めちゃくちゃ疲れるって」
気遣うリズに対し、平気そうな顔で立ち上がったレヴィアは言う。確かにそのような事を言ったのは覚えているし、それ故に魔力を使いたがらないのも知っている。しかし今回はほんの短時間の運用のみ。パートリーの時に比べれば魔力使用量は少ないはずだ。
「それよりリズ。あの女が妹って本当? 確かに顔はリズそっくりでしたけど、あれは……」
「……うん。レヴィアの思ってる通りだと思う。隠しててごめん」
「いえ、それはいいのですが」
あっぶねーと言いつつ額の汗を拭うレヴィア。
近くで見た彼女は間違いなく気づいただろう。イルザの特徴的な耳に。ここではっきりと口に出さないのは周囲に聞かれるのを危ぶんでくれているのだと思われる。
「しかし、どうなるんだろうな。千妃祭は。花嫁選びどころではなくなってしまったが」
ネイが疑問を呈する。もっともな疑問だった。候補者はレヴィアを除いて気絶しているし、観客も逃げてしまった。おまけにロムルス王子は……。
「ルシア! ルシアしっかりしろ!」
「お、王子! 揺らしたらダメです! 余計に具合が悪くなる恐れが……!」
タンカで運ばれていくルシアへと付き添っている。医療関係者に注意されながら。
「ハァー……。マジかよ。こんだけ頑張ったのに」
レヴィアは肩を落とした。こうなった以上、良くて再審査、悪くて中止となるだろう。何にせよさらに時間を要するだろうし、そうなれば純花が帰るのも遅れてしまう。
「いや、まだ失敗と決まった訳じゃねー。こうなれば忍び込んででもロムルスのお宝を盗もう。今なら浮足立ってるだろうし、泥棒のレナを動かせば多少は……」
次いでぶつぶつと何かを考えてるレヴィア。どうやら諦めていないようだ。そのネバーギブアップ精神は素晴らしいが、内容が内容である。リズとネイは止めようとした。
しかしその時。
「失礼。レヴィア様」
「ん?」
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