096. 第四審:ハラハラ魅力
「ど、どういう事だ! 水着審査はどうした!?」
思わず立ち上がるロムルス。知力、魔力、武力審査までは良かった。千妃としての資質を測るものとして相応しく、内容も自分が指示した通り。違ったのはレヴィアの逆シードくらいなもの。
だが、最後の最後。最も重要であり、最も楽しみにしていたものが変わっていた。何故だ。一体何が起こっている。
「后たる者が軽々しく肌を見せていい訳がないでしょう。それも衆目の前で。申し訳ありませんが変えさせていただきました」
「なっ! ル、ルシアァァァァ……!」
その疑問に答えたルシアに、ロムルスはこの日一番の憎しみを送る。本選の内容に変化が無い事をちょっぴり不思議に思っていたが、まさか一番大事なところを変えてくるとは。
水着審査。その為に自分は超特急で帰って来たというのに。手を出すのを控えていたというのに。可愛くもキワドイ水着を厳選していたというのに。それらの努力が全て無に帰してしまった。
『なお、審査には王族の方々も参加して頂きます。王族にふさわしいかは王族が一番理解しているでしょうから。それではマルス国王に、ロムルス王子。それと后の方々。お願いいたします!』
観客たちの視線がロムルスへと集まる。激怒していたロムルスであったが、それに気づいた彼は何とか怒りを収めた。内心は荒れ狂っているものの、流石に民衆の前でさらしてはいけないという事は分かる。ルシアに対し「覚えてろよ……!」という捨て台詞を吐いた後、観客席へと手を振って笑顔でアピール。
一方、性格審査という言葉を聞いた仲間三人はというと。
「ま、まずいわ。性格審査なんて一番やばい内容じゃない……!」
「うむ。あの性格でどれだけやらかしてきたことか。あーあ、これは負けたな」
めちゃくちゃ焦るリズに、負けを確信するネイ、「そんなに性格悪いかな?」と不思議な顔の純花。三者三様の様子であった。
で、当の本人。予想外の内容にレヴィアは目が点になっていた。そうなっている間も時間は進み、闘技場の門からぞくぞくと女が出てくる。
『王族というものは楽しい事ばかりではありません。時に理不尽とも思える言葉にさらされる事も多々あります。まずは候補の方々がそれに耐えられるか見てみましょう』
五十名ほどの千妃候補。武舞台に立つ彼女らの元に試験官の女が向かう。一人につき一人のようだが、何故かレヴィアには三人来た。
性格の悪い奥様、といった容姿の者たち。彼女らは底意地の悪い顔になりつつ言う。
「あーら、何てみすぼらしい恰好。一体どんなみじめな暮らしをしていたのかしら?」
「本当。王家にふさわしくないのにも程があるわ。センスも全く無いし」
「やっぱり生まれが生まれだとこうなるのかしら? 庶民も大変ねぇ」
ビキッ、と青筋を浮かべるレヴィア。
みすぼらしい、みじめ、センスが無い。どれも自分にはまっっったく当てはまらない言葉だ。むしろ相手の方がみすぼらしくみじめでセンスが無い。顔面的にも恰好的にも。そんな事を反射的に言おうとするレヴィア。
「レヴィア! 駄目っ! 抑えて!」
が、リズの言葉にピタッと止まる。そうだ。自分は何としてでも勝たなければならない。純花の為に控えめな演技を続けなければ。
そう思いなおして我慢するも――
「フフン。言葉も出ないようね。まあ図星だし仕方ないのかしら?」
「こんなんじゃ壁の花にもならないわねぇ。せいぜいお花摘みの花と言ったところよ」
「あらヤダ、奥様ってば。少々品が無くてよ。品が無いのはこの子だけでお腹いっぱい」
ビキビキッ! とさらに青筋が増えるレヴィア。
壁の花、お花摘みの花、品が無い。どう考えてもパーティーの主役だろうが。それにこの上品そのものな立ち振る舞い。目の前のブサイク共にはそれが理解できないようだ。花どころか雑草、いや、コケよりもレベルが低い彼女らには。
――性格審査。これこそがルシアによる必勝の策だった。
出会って初日の出来事から、レヴィアにこらえ性が無い事をルシアは察していた。正体を現したのはわざと……と一時は考えていたものの、その後の調査により、それが彼女の素である事が分かる。ついでに馬鹿にしてきた者にすぐ反撃するという事も判明。
如何に演技が上手かろうが短気すぎる。故にルシアは性格審査という名の悪口大会を計画したのだ。間違いなく素を出し、千妃としては相応しくないと判断される。ロムルスは従順な子が好みであり、民は国が荒れるような后を望まないからだ。
この日の為に用意された、社交界でも特に意地の悪い者たち。マウント好きの彼女らは嬉々としてレヴィアへと嫌味を言い、如何に自身たちの方が優れているかを主張する。悪口の嵐を浴びせ続ける。
因みに奥様方はレヴィアの素がどうたらは知らない。いつもと同じことをしているだけだったりする。
そしてそれは抜群に効果的だった。悪口を一身に受けるレヴィアはいつブチ切れてもおかしくない。しかしギリギリで我慢している模様。頭の中では相手が泣くほどに言い返したり、鼻フックでブサイクさを強調してやったりして感情を抑えている。その我慢っぷりは体に現れており、全身がぷるぷると震え出していた。
「おお、レヴィアのやつ、頑張るじゃないか」
「そうなの?」
「ああ。ヤツは煽るのは上手いが、煽り耐性はゼロだからな。普段なら一言目で張り倒していただろう」
観客席のネイが感心したように言う。それを聞いた純花は「あの程度で怒るんだ……」と再び呆れた様子を見せる。学園内で浮いていた純花にとって、悪口など日常茶飯事。耳から耳へとスルーするものでしかなかったのだ。
一方、別の場所では……。
「何これ。さっきまではそこそこ面白かったけど、これの何が面白いの?」
黒いローブの人物。彼女は非常につまらなそうに悪口大会を眺めていた。
「嫌ねぇ、人間って。こんなので面白がるんだから。やっぱり滅ぶべきだわ」
実際はドン引きしている人間が殆どなのだが、中には楽しむ者たちもいる。気に食わない人物がやり込められている姿を楽しんでいるのだ。人類悪的なモノが垣間見える姿である。
「いや、人間以外も似たようなものか。何にせよ不快だわ。そろそろ始めましょうか。
ね、リズぅ?」
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