095. 第三審:ドキドキ武力・下

 その後もレヴィアは順調に勝ち上がる。第二戦、第三戦とほぼ瞬殺で勝利し……第四戦。

 

「うふふー、快進撃もここまでですよぉ。賢……大魔法使いの私に勝てるかしら?」


 魔法使いのガーベラ。彼女がレヴィアの前に立ちふさがった。

 

 戦士と魔法使いが一対一で戦えば、余程の力量差が無い限り戦士の方が勝つ。魔法の構築には時間がかかるからだ。

 

 しかし、目の前の彼女にそれは適用されないかもしれない。魔法の発動を補助する魔導書――魔法の杖のカタチの一つ――を左手に持つ女。ガーベラは手遊びするように手のひらに炎をともしていた。その発動速度にレヴィアは少し驚く。

 

 小規模な魔法とはいえ、この早さ。相当な熟練者なのだろう。もちろん威力、攻撃範囲共に物足りないのは間違いないが、早さと言うものは十分な武器になる。加えて射程にも優れ、あの感じだと連発も可能だろう。如何に威力が低かろうが、紙装甲のレヴィアにとっては一撃が致命傷になりかねない。

 

『それではドッカンバトル……始め!』

 

 開始の合図。同時にいくつもの火球がレヴィアを襲う。

 

 それを避けながらレヴィアは何かを放つ。ガーベラに迫る複数の物体。お得意の投げナイフだった。

 

「くっ! 飛び道具ですかぁ。そんなもの私には――」


 ナイフを避けるガーベラ。が、次の瞬間。パパパパパァン! と破裂音が鳴る。間近で鳴った音にガーベラは「ひゃあああっ!?」と驚き――

 

「ぷぎゃっ!」


 その隙にレヴィアはガーベラへと迫り、一撃。ガーベラは倒れた。

 

 かんしゃく玉。レヴィアはナイフと同時にそんなものを投げていたのだ。

 

『し……勝者、レヴィア・グラン!』

 

 司会者が勝利を宣言。それを受けた観客たちざわざわと……いや、どよどよとどよめく。

 

「……何か卑怯臭くね?」

「確かに……」

「いやいや戦術だよ戦術。分かってねーな」

 

 ちょっぴり低評価であった。

 

 これが『ザ・盗賊!』的な見た目だったら何も思わなかっただろう。しかしレヴィアは控えめな文学少女。文学少女がそれをするのはちょっぴり……いや、ものすごく違和感があった。

 

「ロムルス様。あの戦いを見て何とも思わないのですか?」

「……いや、相手は中々の強者だったからな。小細工せざるを得なかったのだろう。フハハ、流石レヴィアだ」


 そして知能が落ちた者とてちょっぴりおかしいと思ったのだろう。先ほどまで無邪気に喜んでいたロムルスであったが、少し微妙そうな表情をしていた。午前中のクイズはまだ分かりにくかったが、今回はどう頑張っても控えめな女のやる事には見えなかったのだ。しかしすぐに思いなおした様子。



 続いて準決勝。相手は深く兜をかぶっている全身鎧の女だった。


「…………」

 

 顔はよく見えないが、短い金髪の女。無口なのか言葉も発しない。


 こんなヤツいたっけ? いや、どこかで見た事あるような? と思うレヴィア。しかし戦い始めるとその実力は本物である事が分かる。彼女こそがルシアの本命……ではないが、本命をトップにする為に雇った者であった。

 

「くっ……!」


 実直な剣技。どこかで見たことがあるような気がしたが、それどころではない。魔力で底上げしたスピードで翻弄しようとするも、上手くいかない。虚と実を織り交ぜた剣技は全て見抜かれ、本命の攻撃をはじかれてしまう。さらにその力も女とは思えぬほど強く、レヴィアよりはるかに上だ。

 

(強ぇ。ちょっと分が悪いな。……仕方ない)


 レヴィアは一旦距離を取り、背中から書を取り出す。そしてぶつぶつと呪文を唱え始めた。

 

「えっ? リズ、レヴィアって魔法も使えるの?」

「そんなはずは……いえ、そういえば光属性だったのよね。むしろ使えない方がおかしいのかも……」

「むう。ヤツめ、そういう事は隠すなとあれほど……ってアレは!」


 それを見た仲間三人は驚きながらも戦いを見守る。

 

 一方、全身鎧の女は勢いよく距離を詰めた。魔法は発動前に止めるのが定石だからだ。鋭い剣裁きで横なぎに一閃。右手の剣でそれを防ごうとしたレヴィアだが、力の差のあまり剣はじかれて飛んで行ってしまう。

 

 ――が、それは想定済み。レヴィアは自ら剣を離したのだ。脱力していたレヴィアと力を入れていた相手。勢いのあまりふらつかなかったのは流石と言えるが、次の行動はレヴィアの方が早い。素早く踏み込んで顎に掌底を放つ。さらに――

 

「文学アタック!」


 左手に持っていた本を顔に叩きつけた。トドメとばかりに。どこからか「私の本! 大事に扱えよぉ!」という声が聞こえてきた。

 

『そ、そこまで! 勝者、レヴィア・グラン!』

 

 司会者が勝利を宣言。まだ相手は動けるようだが、流石に顔はまずいと判断されたらしく、試合はストップ。救護班が慌てるように女を回収し、顔に布を置いて退出していく。

 

 ちょっとやりすぎたかなーと思い相手を見ると、一瞬見えたのはヅカ系のくどい化粧をしている顔。下手くそな女装をしている男のようにも見える。やはりどこかで見た事がある気もする。

 

「なあ、あれ……」

「お、おお」

「少なくとも本好きがする事じゃないよな……」


 そして一連の出来事を見ていた観客たち。戸惑った様子で口々に疑問を呈している。その戸惑いは王族席でも発生しており……。


「ロムルス様」

「………………い、いや、余裕がなかったのだろう」


 そんなロムルスの様子に全く気づかず、次に迎えた決勝戦でもレヴィアはその実力を如何なく発揮。ルシアの本命だった女をたやすく撃破した。「なっ! ロムルス様が!」と指さしただけで女はアッサリと引っ掛かり、よそ見した隙に討ち取ったのだ。本命に選ばれただけあって素直な女だったようだ。

 

「ロムルス様」

「…………」


 戦えば戦うほど控え目とは程遠い戦い方。知能が落ちたロムルスとてその違和感には気づかざるを得なかった模様。しかしそれを認めたくないようで、必死に目をそらしている。

 

「レヴィア……。演技した意味ないじゃん」


 因みに一連の行動を見ていた純花はちょっぴり呆れていた。確かに彼女の言う通り、これまで演技してきた意味がまるで無い。何なら素のままの方がよかった可能性すらある。控えめ文学少女からの卑怯者はギャップにやられてしまいそうだからだ。無論、悪い意味で。

 

「だ、大丈夫よ。もう残り一種目なんだから。これさえ乗り切れば……」


 そんな風に評価を落としつつあるレヴィアをリズはフォロー。無難なフォローに見えるが、実際は「如何に違和感を感じていようが籍を入れてしまえばこちらのもの」という最悪な事を言っていたりする。本人、純花共に気づいていないが。

 

 さて、トーナメントは終了し、残りは最終審査を残すのみ。


 ここまでのレヴィアの合計点数はプラス百点をして百五十点。二位のガーベラの九十点を追い越し、六十点もの差をつけている。どうやら武力審査はかなり比重の大きいものだったらしい。このまま勝ち逃げる事もできそうだ。ただ、最終戦の配点次第ではまだ分からない。


『さて……皆さま。千妃祭も終わりが近づいてまいりました。これまで知力、魔力、武力と審査してまいりましたが、最後の審査こそ女として、千妃として最も重要なもの。本日の大取おおとりに相応しいものと言えましょう』


 神妙な声色で語る司会者。彼女の言う言葉が正しければ配点は非常に大きそうだ。それを証明するように、ロムルスがガタッと身を乗り出した。


『その能力とは魅力。如何に能力が優れていようが、それが無くては片手落ち。あまりにひどい場合はその場で失格を言い渡されてもおかしくない』


 うんうんと頷くロムルス。完全に同意という感じだった。先ほどまでの微妙そうな表情は微塵もない。

 

 一方、レヴィアはちょっぴり呆れつつも納得する。

 

(魅力か。能力重視とか言ってたくせに、結局は見た目で判断するのかよ。まあ気持ちは分かるけど)


 顔とカラダ。男として真っ先に求めるものである。

 

 「優しい子がいいなぁ」「頭のいい子が好き」「家庭的な子っていいよね」などと言う者もいるだろうが、正確には「(可愛くて)優しい子がいいなぁ」「(可愛くて)頭のいい子が好き」「(可愛くて)家庭的な子っていいよね」なのだ。ほぼ全ての男性が求める共通項といえよう。

 

 そしてそれについて、レヴィアは絶大な自信がある。至高の容姿、黄金比のカラダ。ここにいる千妃候補のみならず、世界中探しても誰一人己を超える者はいない。ブサ専とかデブ専とかロリコンとかでない限り負ける事はない。

 

 レヴィアは思った。勝ったな、と。

 

『それでは発表しましょう! 最終審査の内容! 千妃としてもっとも大事な資質を測るもの! それは――




 性格審査だァァァァ!!』

 

 

 

「「……えっ?」」

 

 


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