094. 第三審:ドキドキ武力・上

『さあさあ皆さんお待ちかね! 後半のバトルの始まりです!』


 司会者がテンションを高くして叫んだ。そのテンションが伝わったように観客たちも歓声を送ってくる。

 

『バトル! そう、午後の最初の第三審査はその名の通りバトル! 名付けてドキドキドッカンバトルだー!』


 午後の最初の審査。内容は戦いだった。魔力審査で才能の基礎を見た上で、その実践力を見るとの事だ。

  

 方式はトーナメント戦。当然、レヴィアは逆シード。戦う数がとても多い。魔力審査を考慮した結果と司会者は言っているが、間違いなくルシアの工作が行われている。


 そしてトーナメントの最初の相手は……

 

『いきなり二位と三位のマッチング! これは見ごたえがあるかもしれないぞ! 東門からはレヴィアちゃん、西門からはクィンちゃんだー!』

 

 午前の時とは演出が変わり、地下からではなく闘技場の門から候補者が登場する形だった。勇気を振り絞ったような演技をしつつ武舞台へ向かうと、反対側の門からクィンが歩いて来る。

 

 武舞台で向かい合う二人。クィンがさわやかな微笑みをたたえながら言う。

 

「フッ。貴女も運が無いな。真っ先に私と当たるなんて」

 

 剣に自信があるのか余裕そうな彼女。実際、あの魔力操作を見ればそこそこ強いのは分かる。レヴィアは油断無く相手を見据えた。

 

『それでは始めましょう! トーナメント第一戦……始め!』

 

 司会者の合図。剣を構え、こちらの様子を伺うクィン。ナメているのか「軽くひねってやろう」という雰囲気――

 

「えっ?」


 が、次の瞬間。彼女は困惑する様子を見せた。レヴィアの姿が消え――いつの間にかクィンは地面に転がっていた。そしてその彼女へ剣を突き付けるレヴィア。

 

 何が起こったのか分からない。クィンだけでなく観客もそんな反応をしており、辺りがシーンとしていた。

 

『し……勝者、レヴィア・グラン!』

 

 しかし数秒後。ようやく気を取り戻した司会者が叫ぶ。その言葉に他の者たちも目の前の現象を認識したらしく――

 

「う、うおおおおお!」

「つ、強ぇ! お前あの動き見えたか!?」

「いや、気が付いたらクィンが倒れてた! あの子、ただの文学少女じゃなかったのか!?」


 会場中から歓声。彼らに対し、レヴィアは控えめにぺこぺこと礼をする。

 

「すごい……。やっぱり弱いなんて嘘じゃん」

「ううむ、レヴィアのヤツ本気だな。普段使いたがらない魔力も使っていたようだし。大人しい女っぽく、もっと控えめな戦いをすると思っていた」

「きっと思ったのよ。純花の為にも絶対負けられないって。レヴィア! 頑張れ!」


 仲間三人は三者三様であった。純花は観客同様驚いており、ネイは不思議な顔。唯一事情を知るリズはレヴィアの心中を予想しつつ応援している。

 

 実際、彼女の考えは正しく……。

 

(ここでナメプして落ちるとか洒落になんねーからな。控えめっぽくはないだろうが、全力でいかねば)


 イメージは崩れるかもしれないが、負けるよりマシ。レヴィアはそう判断していた。

 

 本来は正統剣術――レヴィアの習得した流派そのもので戦うつもりだった。しかし、明らかにアレは自分に向いていない。有象無象に負けたりはしないが、万が一がある。故にレヴィアはいつもの戦い方で戦っていた。


 ただ、ロムルスがどう思うかは分からない。レヴィアはちらりと王族席を確認。

 

「な、なんと……! ここまでやるとは。相手も決して弱くはなかったはずだ」

「え、ええ。クィン嬢は態度こそアレですが、能力は本物ですからな」


 目を見開くロムルスとファビウス将軍。魔力同様、クィンは武力もかなりのものという前評判だったのだ。

 

「いや、これは嬉しい誤算だ。やはりレヴィアこそ私の后に相応しい。そう思わないか? ルシア」

「……そうかもしれません。クィン様では相手にならなかったようで」


 さらにロムルスは隣に座るルシアをニヤニヤと煽った。相変わらず無表情のルシアであったが、事実は事実としてしっかり認めた模様。

 

 とはいえ、彼女からすれば誤算ではあった。レヴィアの予想した通り、クィンはルシアの手ごまの一人。実力はあれど性格は小物そのものであり、権力をもってすれば非常に動かしやすい人物。毒を以って毒を制するつもりだったのだ。

 

 なお、性格が小物すぎて千妃にするつもりはさらさらなかったりもする。本命は別の者。あまり目立ってはいないが、地味に好成績を残している者たちの中の一人である。


(……どうやら問題なさそうだな。よし、次からも頑張ろう)


 王族席を確認したレヴィアはほっと溜息をついた。どうやら懸念は懸念足りえなかったようだ。

 

 これならば問題あるまい。戦いに関しては本来の戦い方でやろう。歓声が響く中レヴィアはそう決意し、元来た門へと戻る。ちやほやされて嬉しいので控えめに手を振りながら。彼女のアピールに観客たちはさらに盛り上がる。

 

 そしてその群衆の中には――

 

 

 

「へぇ……。アレがあの子の仲間。かなりやるわね。いい餌になるかも――」

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