053. ファッションセンス
「助かりましたわ。ありがとう純花」
「いいよ。見てらんなかっただけだし」
大通りを歩きながら礼を言うレヴィア。実際助かった。男を誘惑するなどただでさえ嫌なのに、今回は金すら持ってない相手なのだ。ものすごくやりたくない。将来の
「ところで何で戻って来たの? ネイに誘われてたのでは?」
「途中で断った。あの人、話がウザくて」
「ああ……」
先程、純花が本を読むと聞いた途端、ネイは目を輝かせたのだ。仲間を見つけたとばかりに。
ネイは純花を本屋へと行こう誘い、純花はその誘いに乗ったものの、彼女らが好むジャンルは真逆といっていい。ネイは恋愛バリバリのものを好むが、純花は大体が実用書。それなのに勝手に同士扱いされた上に妄想内にしかない恋愛話を聞かされまくった。結果、純花は途中でウザくなり、適当な理由をつけて帰ってきたのだ。
その話を聞いたレヴィアはネイに呆れつつも純花の趣味の渋さに顔をしかめる。会社の後を継ぐ事を目指しているのかもしれないが、流石に色気がなさ過ぎである。多少は遊びがあってもいいはずだ。
(あれ? そういや純花の趣味って何だ? 昔とは違ってるだろうし)
ふとレヴィアは思う。趣味……いや、趣味どころか好きなものや嫌いなものすら知らない。ハンバーグが好きとか肩車が好きとかはあくまで六歳だった頃の話。十年経っているのだから変わってない方がおかしい。
(……やべぇ。俺、純花の事が全然分かんねぇ)
ここにきてようやく気づく。自分が娘の事を何も知らない事に。
レヴィアは愕然とした表情になる。親なのに何も知らない。趣味、特技、人間関係、将来の夢……。そんな状態で性格改善などできる訳が無い。家庭を顧みないダメ親と何一つ変わらない……
「いかーん!!」
「わっ。な、何?」
いきなりの大声にビックリする純花。そんな彼女をレヴィアはキッと真剣な顔で見つめる。
「純花、遊びに行きますわよ」
「えっ。どうしたのいきなり」
「これから長い付き合いになるかもしれないのです。お互いの事を知っておくに越したことはありませんわ。今日一日くらいはいいでしょう?」
「そりゃまあ、どうせ今日はここに泊まるし……」
それを聞いた瞬間、レヴィアは純花の手をとってずんずん歩き出した。「えっ、ちょ……」と困惑する純花だが、レヴィアの勢いに流されて仕方なく足を進める。手をつないだままなのはアレなので途中で手は放したが。
しばし歩き、二人は繁華街らしき場所に到着。服屋、カフェ、スイーツの店、化粧品屋、雑貨屋等、女子が好きそうな店は大体そろっている。少し人通りが少ない……というより女性が殆どいないのは気になるが、客からすれば混むより混まない方がいいので問題ない。
「さあ純花。どこへ行きたい? 純花の興味があるところはどこ?」
「どこって……どこでもいいよ」
「どこでもいいよが一番困りますわ。ちょっとでも気になるところを教えてくださいまし」
うーん、と思い悩む純花。そんなに悩む事だろうかとレヴィアは首をかしげた。食べものとかファッションとか日本と異なるものは多々あるし、見るだけでも楽しいと思うのだが。
「無いかな」
「無いって……それじゃあのお店はどう? キラキラ丸の内OLっぽいランチができそうですわ」
「丸の……え?」
純花は意味不明という顔をした。一瞬「やべっ」と思うレヴィアだが、意味はあんまり通じていないようだ。女子高生にはあまりなじみのない単語だったらしい。
そんな風に「よく分からない」という意思表示をしつつも「高そうだし、お金がもったいないからいいよ」と言う純花。「おお、堅実だ」とレヴィアは感心した。母親の躾けのお陰だろうか。すごい良妻だったので納得は出来る。見た目以外は完璧だった。
「ならあの雑貨屋は? 純花の世界には無いものがたくさんあると思いますわ」
「買っても邪魔になりそうだし、いいや」
「それじゃスイーツの店は?」
「甘いものってあんまり好きじゃないんだよね」
色々とレヴィアが勧めるも、純花は全く興味を示さない。一体どうなっているのだろうか。スイーツは好みだからいいとして、その他に対しての反応がドライすぎる。「何か食べたいものはある?」と聞いても「安くてそれなりに美味しいところ」という色気の無い答え。女子らしさが殆ど無い。何なら素の自分の方が女子っぽいのでは? と思うくらいに。
ふと、気づく。
「純花、その服どこで買いましたの?」
「うん? セントリュオで貰ったものだけど」
飾り気が一切無く、カーキや緑といった汚れても目立たない系の色をした服。ザ・実用本位と言っていい服装だった。丈夫な素材であるし、戦いや旅を目的とするなら良さそうな恰好だ。
色々と舞い上がっていた今までは気づかなかった。しかしこれは問題だ。何故なら……
「ぶっちゃけものすごくダッサイですわよ。何ですかその色気も洒落気も全くない服装は」
ダボッとした野暮な服。純花の魅力を全く活かせていない。Tシャツとジーパンの方がまだマシなチョイスかもしれない。折角のすらっとしたスタイルが勿体なさすぎる。
「そう? 丈夫で動きやすいし、気に入ってるんだけど」
「!? そ、そんなネイみたいな考えをしてはいけませんわ! 全力で楽しめとは言いませんが、多少はオシャレして……」
「面倒だし、いいよ。お金勿体ないし、見た目とかどうでもいいし」
キィヤァァァ! と頭の側面に両手を当てて悲鳴を上げるレヴィア。これはいかん。堅実なのはいいが堅実すぎる。このままでは娘が普段着ジャージのイモ女に成ってしまいかねない。
いきなりの叫び声にビックリする純花。彼女に対し、レヴィアはキリッと真剣そのものな顔を向けた。
「仕立屋。仕立屋さんに行きましょう。女冒険者向けの。丈夫かつオシャレなものもありますわ」
「えええ? そういうのって高そうじゃない?」
「わたくしが払いますとも。ええ払いますとも。見ての通り小金持ちですし」
いや、いいよ。と遠慮する純花だが、レヴィアは強制的に彼女を引っ張る。ちょっとつんのめりながらも再び流される純花であった。
* * *
「うん。こんなものでしょう」
レヴィアは満足そうに頷く。
革の胸当て。その下には青いクロスに赤いスカート。洒落た感じの女冒険者という感じに純花は変身していた。何ならもう少し派手にしたかったが、本人の好みではないらしいのでこうなった。
「お似合いですよお客様。どうでしょう。武器も持ってらっしゃらなければウチの知り合いの……」
「結構ですわ。純花に剣なんて振らせたら替えが何本必要になるか」
店員の提案を即断ったレヴィア。本人が剣を使いこなせないというのもあるが、間違いなく折るからだ。その力ゆえに。無意味な上に不経済極まりない。
純花は素材を気にしているようで、さっきから体を動かしたり服を引っ張ったりとしている。「可愛いけど破れたりしないのかな」などと言いながら。なお、気に食わなかったとしてももう遅い。「やっぱりさっきのがいい」なんてことにならないよう、ダサイ服はコッソリ捨てておいた。ちょうど燃えるゴミの回収業者が来たので、今頃は焼却されているはずだ。
幸い純花が何かを言う事はなく、特に問題は無いようだった。しかし、ふとレヴィアを見た彼女は首をかしげる。
「ねえ、レヴィアはいいの? あんまり冒険者って感じじゃないけど」
「わたくしは不要ですわ。このままで結構」
「そんなひらひらした服で大丈夫なの? 防御力なさそうだし、動きにくそうだし」
「“お洒落は我慢”と言うでしょう? こういう恰好がわたくしの美を映えさせるので仕方ありませんの」
それでいいんだ……と呆れた様子になる純花。冒険者どころか一般市民でもしない恰好だった。なお、本日のレヴィアの恰好は黒のゴスロリである。
「さ、服装も整いましたし、次はどこ行きましょうか。カフェで一休みなどいかが?」
「量の割に高いイメージあるし、あんまり行きたくないな。食べるなら安くてガッツリしたやつがいい。牛丼とか」
「ダメ」
にっこりと笑顔で拒否するレヴィアであった。
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