第四章. 英雄王子と花嫁狩り
052. 罪過・オブ・ロリコン
「違うんですのよリズ。アリスのヤツに洗脳されてそうなっちゃった訳で、わたくしは世間様に顔向けできないような変態ではなく、元々は普通の好みを……」
乗合馬車の中、言い訳を続けるレヴィア。
パートリーを発って数日。
「だから妙な言い訳してんじゃないわよ。もしかしてアレじゃないでしょうね。私の見た目がこんなんだから近づいてきて……」
「あっ。当時のわたくし的にリズはやや成長しすぎなのでご安心を」
その言葉を聞き、すすす……と座ったまま遠ざかるリズ。レヴィアはしまったという顔をし、「いえっ、そうではなくて! あくまで洗脳状態の……」とあたふたとしながらも言い訳を続行。
「そ、そもそも年齢的に問題はありませんのよ? そりゃあ年は離れてましたが、今のアイツはアラサー越え。ネイよりも年上でしてよ」
「へえ。なら結婚したのは?」
「十八歳! 全然問題ありませんわ!」
「付き合ったのは?」
「…………」
すっと目を外すレヴィア。日本と異なり、十六歳くらいなら早婚で済むこの世界。なのに無言で返すという事は……そういう事なのだろう。彼女の反応に「やっぱりロリコンじゃない……」とさらに距離を置こうとするリズ。
「何なんだあの二人は。この前から一体何を話してるんだ?」
「さあ……」
一方、ネイと純花は不思議そうな顔をしていた。レヴィアの正体を知らない彼女らからすればさっぱりな話題だった。
ふと、ネイが何かを思い出したように言う。
「あ、そうだ。スミカ、この間のケータイとやらの事で思いついたんだが……」
「何?」
「それ、そのうち使えなくなるんだろう? ならば母の絵を画家に描いてもらうのはどうだろうと思ってな。そうすれば使えなくなっても見れる」
「あっ、それいいかも」
ネイのアイデアに同意しつつも喜ぶ純花。画家に見せる際にバッテリーは消費してしまうが、それ以降はいつでも見れるようになる。純花からすれば喜ばしい事だ。
二人の会話を聞いたレヴィアは「ちょっ……!」と焦った顔で止めようとする。が、途中で迷う様子を見せた。ロリコンの呪いを脱したとはいえ、愛しているか愛してないかといえば前者なのだ。彼女の姿を見たい気持ちはある。とはいえ、他人に晒して欲しくは無い。
「おい、ねーちゃんたち。さっきからうるせーぞ」
「そうだ。狭い馬車なんだからもっと声を押さえてくれ」
そうやってきゃぴきゃぴしていると、他の乗客からクレーム。もっともな言い分だった。馬車内は狭いので彼女らの喋り声は割と響いていたのだ。
彼らの言に申し訳なさそうにする一同。が、レヴィアだけが「あー?」とガラ悪く返す。
「黙ってろボケ。俺の名誉がかかってんだよ。そのハゲた頭でも磨いてろ」
「なっ……!」
あんまりな言い分だった。男は怒りで顔を赤くする。それを完全に無視して彼女はリズへの弁明を再開。
「て、てめぇ!」
「あー? やるってんのか? 失せろ。ぶっ飛ばされない内に――痛っ!」
中指を立てたところでガコン! とげんこつをされる。それを放ったリズは「すみません。ウチのレヴィアが。よく言い聞かせますので……」と謝り始めた。
ぺこぺこと頭を下げるリズと、痛そうに頭をさすりながら強制的に頭を下げられているレヴィア。それを見た純花は不思議そうな顔をする。
「……何かレヴィアって男みたいな時あるよね。普段はお嬢様っぽいのに」
「アレが素だ。普段のは演技。騙されるんじゃないぞ」
「そうなんだ。何でそんな事してるの?」
「たぶん婚活の為じゃないか? 金持ちの男捕まえて豪遊するのがアイツの夢らしいからな。素の自分を好きになってもらわねば意味が無いと言うのに、全く……。そもそも男女関係というものは……」
ぶつぶつと持論を吐き始めたネイ。その言葉を聞き流しつつ、純花はレヴィアの方を注視していた。
* * *
国境へとたどり着いた一行はついにセントファウスを出国。南のヴィペール王国へたどり着いた。
セントファウスとヴィペールは友好国。入国審査もそれほど厳しくない。関所を通る際、決まりきった質問をされたあと入国税を取られるだけだ。犯罪者として手配されているなど余程の理由が無い限りは問題なく通れる。それはレヴィアたちも同様であった。
国境を越えたすぐ近くの町に到着。何故か衛兵に「気をつけろよ」と言われたが、その理由は教えてくれない。彼らの気まずそうな顔が多少気になったものの、レヴィアはそれどころではなかった。未だロリコン扱いされたままなのだから。
「はぁ……」
チェックインした宿に併設された食堂。そこの椅子に座り、一人ため息を吐くレヴィア。恋に悩んでいる乙女のような姿であるが、実際はロリコン扱いに悩む子持ちのパパだ。因みにリズは足早に出かけていき、純花とネイは一緒にどこかへ出かけて行った。
(確かに前世でもロリコン扱いされたけどよ……。友達にはせいぜい爆笑されたくらいなのに。何なら勝ち組扱いするヤツもいたし。『お願いだから娘には近づかないでね』と言うヤツもいたけど)
レヴィアの中でリズは友達である。ただし前世では超少数だった女の友達である。故に多分こうなるだろーなと思って隠してはいた。しかしここまで拒絶されるとは思わなかった。過去に何かあったのかと思うレベルだ。
(何でこうなった……。純花とネイが和解して万々歳。なのに今度は俺がハブられる始末。三人は仲良くなってるのに)
これが中身男と女の違いなのか? いや、もしかしたら家族という事が関係しているのか? 年頃になった子供は『パパうざ~い』となるのが普通なのか?
そんな父親あるあるの切ない事象を考え、レヴィアは再びため息を吐いた。自分の行動に疑問を持つ事無く。
「よぉ姉ちゃん。相席いいかい?」
ふと、横から声。そちらを向くと、ニヤニヤとしている四人の男たちがいた。その服装から兵士である事が察せられる。
空いてる席などそこら中にある。つまり目的は別。機嫌の悪いレヴィアはイラッとし、面倒そうな目つきで彼らを見た。
「兵士の方々が昼間っからナンパ? それも職務をサボって」
「いやいや。これも職務のウチなんだよ。今この国では色々あってね。お話がしたいなーと」
そう言って厚かましく横に座ってくる。色々あるとか言っているが、恐らくはナンパの為の誤魔化しだろう。レヴィアはスッと立ち上がって去ろうとした。が、「おいおい、待ってくれよ」と別の兵士が行く手を阻む。
……どうやらレヴィア神拳の出番が来たらしい。レヴィア神拳とは人体に存在する急所を突く事で敵を「げぼばっ!」とさせる、数秒前に考えた拳法である。具体的には男の急所を蹴り上げるだけである。元男でありつつも他人の痛みに鈍感な彼女だからこそ可能な技といえよう。
(待てよ? コイツら兵士だよな? 流石にやるのはマズイか?)
入国してソッコーでトラブルなどリズからまた怒られそうだ。そう考えた彼女は闘志を引っ込めた。蹴り上げるのは誘惑して路地裏に引っ張り込んでからだ。人目のない場所なら偽装はたやすい。面倒な上に気色悪いので気が進まないが。
レヴィアはその作戦を決行すべくしぶしぶ色仕掛けを仕掛けようとし……
「何? アンタたち」
仕掛けようとしたところで今度は聞き覚えのある声。純花であった。こちらと兵士たちを交互に見て怪訝な顔をしている。
「おっ。へへっ、こっちの子も中々の美人さんじゃねーか。なあ、少し俺たちと――」
――瞬間、空気が変わる。
何をした訳でもない。ただ純花が圧力を込めた視線を兵士に送っただけだ。それだけで兵士はガタガタと震え始め、顔を青くしていた。
「ナンパ? レヴィア、まさか誘いに乗るなんてしないよね?」
「まさか。そんな価値を下げるような真似はしません」
レヴィアの答えを聞いた純花はその視線を他の兵士にも向ける。前の彼同様、真っ青になる兵士たち。生を諦めざるを得ない根源的恐怖に駆られたのだ。
「ほら、行くよ」
「え、ええ」
レヴィアは純花を追い、そそくさと外へと向かった。「メンチ切るだけでビビらせるとか、まさか不良……?」なんて思いつつ。
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