★み、水も言も巡れと言う夢幻話 第四話
◆◆◆◆◆◆◆
栖伊からありがたく袍を借りたのち、泉が見える場所で火を熾していると、亜雷は「すぐに戻る」と説明になっていない説明を残して木々の奥へと消えた。
どうせなら
八重と栖伊は
地面から飛び出ている根の上で
その様子につられて八重も頭上を見る。時折通り
(これから、どうしようかなあ)
木漏れ日に
それならすでに美冶部、花耆部の両方に、八重たちの行列が朧者に
今後のことを考えるだけで
一息ついたことで、いままで意識の外にあった
皮肉な話だと八重は思う。他人の負担にならないよう、輪の中からはじき出されないよう、
じゃあいままでの努力や
──努力しているから、我慢しているから私に振り向いて。「ここにいていい」ではなくて「いてほしい」という一言がほしい。その求めすぎる重い心が無意識に強く
(なにもかも
なんだか自分の存在がすごく見苦しく感じる。そう気づいたことが、なによりつらい。
(あーだめだ。ネガティブになっているときに考えすぎると、ろくなことにならない)
八重がこめかみを押したとき、栖伊がこちらを向いて、思いがけず
「なあ、八重の着ていた衣は、
できればこのまま
「もしかして兄様に
「贄的て」
なにを真顔で問うのかと思いきや……と、八重は栖伊の発想の
「違う。……でも、なぜか亜雷は私に恩義……真っ先に殺されかけたけれども、たぶん恩義……? らしきものを感じたみたいで、
あなたの兄様の暴走をとめてほしいという思いで八重がぼそぼそと申し立てると、栖伊は少し考える
「兄様の考えは兄様にしかわからない。だがおれもおまえには恩義を感じている。兄様がおまえに従うのなら、おれもやはり
その
「それで、花嫁衣装のひとつを着用していたのはなぜだ?
八重は
「一応は、嫁ぐ予定があったんだけど……私だけじゃなくて
「集団
心配そうに問う栖伊に、八重は慌てて否定した。
「違う違う。同性婚のしすぎで、嫁ぐ側の部に問題が出たんだよ。奇現が増加したんだって。うちの部も環性の
「ふーん……? 同性婚の
栖伊が疑わしげに
「本当に相手の部から圧力をかけられたわけじゃないよ。……そういえば、平原の多い国では
「私や女性たちは、
わずかなプライドが邪魔をして、置き去りにされた事実をはっきりと口に出せない。
だが、八重の表情と
「それは災難だった。だがそのことで八重が心を痛める必要はないよ。花嫁を守れぬ
彼は本当に亜雷の弟なのか。
「いや、私は……亜雷が言った通り無性だよ。私の部は
八重は
「だから八重が
八重の
先に彼らを
(私は、私を見捨てた彼らを本音では批判してほしくて、わざと反対の言葉を口にしたのか)
自分は物わかりのいい顔、
でもそこで、期待した反応を得られなかったため、がっかりしたのだ。
そんな
「だが、八重が自分の価値はこの程度だと決め付けているのなら、まわりもいずれ流されて、そう思うようになる。八重は、それでいいのか」
栖伊が厳しくも、
「……よ、よくない……!」
八重は、つっかえながら答えた。
「なら八重だって、他の女性のように優先されていい。そうだろう?」
現実的に八重は美冶部の
八重がずっとほしかったのは、こういう肯定ではなかったか。
「……栖伊も、役立たずじゃないよ。すぐに正気をなくしたとしても……、いい」
八重は感謝を伝える代わりに、栖伊から目を
「そうかな。……八重はわかりやすくて、
「はあっ!? 愛おしいって……!」
ぎょっとすると、なにか変なことを言ったかというように栖伊は目を丸くする。
(あぁわかった、神様目線かあ!)
八重は、
「──なあ、兄様ならどうする?」
ふと栖伊が顔を
はっとしてそちらに視線を投げれば、両手に灰色の毛の
「なにがだよ?」
眉をひそめる亜雷に、栖伊が笑いかける。亜雷の上にも
「妻を置き去りにして
「死に
それ以外にあるのか、と
栖伊は声を上げて笑った。
「兄様は過激だな」
「……栖伊なら、なんて言う?」
小声で尋ねると、栖伊は
「おれは、争い事は
この二人が
どちらも同じくらい過激だ。そう引きつつも、先ほどまでの苦しい気持ちはいつの間にか八重の胸から消えていた。
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