ふ、諦め切れぬと諦めた奮闘話 第一話
黒太刀との望まぬ同居生活は、時折やらかしてくれる
奇祭は成功したと
事が動いた。
八重はその日、首長の
「──私も、
長屋に似た木造の集会所にはいま、八重と加達留しかいない。
建物の外から、子どもたちの明るい笑い声が聞こえてくる。半分開かれている丸窓からは
「八重の他には私の
加達留が
見た目は四十代で、彼も
──そして彼には、
「どうしてそんな話に──」
八重は、どう尋ねていいのか迷い、自然と口が重くなった。
加達留が
「長い間冷え切っていた美冶部との交流が目的──というのが表面上の理由だが、我らもあちらも、
「加達留様の穏やかに見せて
八重がじっとりとした目でそう返すと、はははと加達留が目尻に
「私もおまえの利口さが
「私が選ばれた理由があるのですか?」
首を
「美冶部で『
こちらを
奇現とは、
他のケースもあるが、この現象が最も多い。たとえばここに
すると本質が
なぜこんな不気味な現象が発生するようになったのか、八重なりに持論がある。
(すでに名がある状態だったモノが、そう呼ぶ者がいなくなったためにおのれを見失ってしまった、ということじゃないだろうか)
いわば
こちらの世界では奇現を病のひとつとして数えている。
奇現の
見た目が十四、五歳の
なんのことはない、かつての人生で自然豊かな地に暮らしていたし、山菜採りにもよく出掛けていたので他人より多少動植物の名前に
ただし一度名付ける程度では効果がない。適当であってもだめだ。本質を示す文字を当てねば無意味で、なおかつ何度も記し、札を張り付け、周知させねば発病をとめられない。
この作業を行うのは皆のためだけではなく、自分のためでもある。散策中、いきなり
とはいえ、あくまでも
「……正直に言うなら、あちらにとって一番の目玉は私の娘の
重苦しい
「御白様、美しいですものね」
八重は、今年で十八歳になる彼の娘の御白を思い出し、
「あれは世間知らずな娘だが、役には立つ」
加達留は実の娘に対しても冷静な見方をする。八重の目には、それが
長の彼には妻が四人、そして子どもは実子の他に
はっきり言ってしまえば、産めよ増やせよ精神で
「お話はわかりましたが……、いいんですか、私でも」
八重はためらいながら
隣の部への嫁入りが
「
加達留の
こちらの世には「奇現」や「奇物の
「おまえは本当に、成長しても『
そうつぶやく加達留を、八重はそっと
彼の背に生えている極彩色の片翼。それが『綺獣』の
(ここの世界は、かつての日本と似ているようでやっぱり大きく違う)
八重は視線を落とす。
民のほとんどが、加達留のようになんらかの鳥獣の要素を持つ『綺獣』という種族として生誕する。
八重のように完全な『人間』の姿を持つ民は逆に少ない。
しかし人間か綺獣かは、さほど大きな問題ではない。
重要なのは、こちらの世界最大の特徴である『四環』だ。
これは血液型の区分けを連想するとわかりやすい。
性格パターンをおおまかに形成する
四環には、
荒魂の性は
和魂の性は比較的女に多く、
幸魂性の者は神力をよく持ち、希少な型とされる。神通力もだが、特殊能力持ちも多い。
奇魂性の者は、不思議なことに
またこの四環は
最も
奇魂は性質上、
これら四環の性は、生活面にも密接に
およそどこの集落も、同じ環性の者が集まって暮らしている。他の環性ももちろん部の中に存在するが、やはり格段に少ない。
花耆部には和魂性の
八重はというと──どの環性もないのだ。
それを無性と呼ぶ。
「……無性の者を、荒魂性の男たちが喜んで
こちらを見定めるような加達留の
「そうだろうな」
と、加達留はあっさりうなずく。
「
「それがわかっているのに私を
「向こうの民はな、和合の律が大きく
ここで言う同性婚とは、男同士、女同士の意味ではない。この世界では魂の性質、つまり四環の種類をさす。異性の意味もまた同様だ。
「それでこちらに和魂の女を求めてきた」
「和合の律と奇現の発症率は、無関係ではないでしょうか」
「その通りだ。そこに因果が
「……はい」
「それ以上に、和魂の女ほしさに花耆部を襲ってもらっては困る」
加達留が表情を動かさずに
それが本音だろうなと八重は推測する。
「実際、花耆部も美冶部も同性の者が増えすぎた。こちらとしても、奇現の化け物を
「というと……美冶部からも同じ数、荒魂性の男にこちらへ
「そういうことになる」
「民を
……それが一番の本音だな、と八重は
「あぁなるほど……それで、私を」
加達留が
「あちらで適当に数年すごしたら、
「加達留様、もう少し言葉を
「うん? いや、本当におまえを失うのは痛手だ。
違う、そういうことじゃない。
八重は
しかし、向こうの地で奇現の
「八重は話が早くて助かる」
この輿入れ話を断るわけがないよな、と言外に
「ええ、わかりました。でも、もしも最初から手厳しく『無性はいらない、帰れ』と相手に
そのときは責任を問わないでほしい。
「おや。少しはがんばってほしいところだが」
笑う加達留に、話の終わりを
「がんばる必要はないでしょう。奇現の増加をとめられずとも、私を追い返したという事実がこちらを守る
「確かに」
とっくにそこまで考えていたくせに、と八重は内心
「……嘘は
八重が去ったあと、加達留は
「ここではじめてのお父様はずるいぞ、おまえ……」
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