商売の話
「えええ!!?そんな、悪いですよ!それに大商人としての面目が立ちません!!」
「馬っ鹿アンタ、何処にそんなお金があるのよ!!!」
右からカーアンの、左からガレオットさんの叫び声が響き渡る。板挟みだ。
アリスもアーサーもリリアーヌもわたし達の争いに入れず突っ立っている。
「まぁまぁ待て待て、わたしの話を聞いてくれ!
まずガレオットさん!」
「ひゃい!」
「貴方、今までわたしを沢山助けてくれたじゃないですか!それこそ今ここでお礼をしなきゃわたしの顔が立ちません!」
「うっ!」
ガレオットさん撃沈。そりゃ帰ればお金持ちだろうけどその帰るまでが貧乏人じゃないか。
多分現状無一文だよね?良いからお礼をさせてくれー!
「次にカーアン!」
「何よ!」
「さっきまで話題にしてたシュバル・バヤールの事をお忘れか!?」
「……あ」
わたしに立ち向かって来たんだからそれなりに強い魔獣だろう。
それならあまり市場には出回らない、即ち高値が付くはず!
「シュバル・バヤールですか。アレの肉は美味でして、美食家の中でも人気なんですよ」
「分かる分かる。美味しかった」
「……『美味しかった』?もしかして全部食べちゃいました?」
「え、う、うん……」
何かまずい事でもあったかな。焼くだけだと食あたりになるとか。
ガレオットさんは非常に申し訳なさそうにおずおずと話を進めた。
「……あの、シュバル・バヤールの価値があるのは肉の部位だけでして、皮とか骨はあまり値が付きません……」
「「……」」
途端にお先真っ暗になってしまった。誰だガレオットさんを送るとか大口叩いた奴は。わたしだよ!
「……どうしましょ……」
「気は進まないけれど、狩とか……?」
「狩といえば、最近、虫人国ではドラゴンが大量発生しているそうですよ。駆除すると政府が報償金を出してくれるそうです」
「ドラゴン?(この世界に)いるの?」
「はい、(虫人国にも)いますよ。ただしあまり人前に姿を現しませんが」
へー、ドラゴンがいるなんて初耳。やっぱり異世界!ヒューッ!
監獄島近くで追いかけて来たあの空飛ぶ蛇みたいなのもドラゴンなのかな?
「ただ、虫人国にはドラゴン信仰がある為、あまり気の進まない虫人が多いとか」
「ドラゴンを信仰するの?聖人は?」
「勿論聖人も信仰してます。どちらかと言えば民間伝承、御伽噺ですかね。
国を守るドラゴンだとかで、首都に近づけば近づく程信仰が厚くなります」
ふーん、子人国には精霊信仰があったけれど虫人国はドラゴン信仰か。
パリスに行ったら本とか無いか探してみよっと。
それはそれとして、ガレオットさんの恩に報いたい、けれど殺生もあまりしたくない……。
うーん、出せ出せアイディア、金を作る方法……。魔法?駄目。採掘?違う。錬金術?不可能。もっとシンプルな所……あ。
「ガレオットさん商人だよね?」
「はい」
「売れる物がある。交渉をしよう」
「おや」
そう言ってわたしは袋から大量の炭……じゃない、
重たいし嵩張るし使い所は無いしで邪魔だと思っていたけれどまさかこんな所で役に立つ日が来ようとは。
「これは……炭、ですか?ふむ……」
そう言ってガレオットさんは一つヒョイと持ち上げて
【……】
エフンエフン!やがて鑑定し終えたそれをわたしに返しながら面白そうに解説し出した。
「これ、炭に魔力が込もってますね。もうただの炭じゃなくて魔道具に片足突っ込んでますよ。
魔石ならともかく物に魔力を込めるだなんて難しい芸当を炭にやるだなんて……面白いですね」
しれっと炭認定されているのは置いておいて、思った以上に凄い物らしい。
物に魔力を込めるのってそんなに難しい事なの?
でも確かに魔力を入れようとすると凄い反発するんだよね。魔女の魔力量だからゴリ押しでもいけるけれど、普通の人には難しいかも。
それが魔力を込めた服の技術が廃れた理由の一つかもね。
「効果は超火力、綺麗な紫色の炎、長持ち、それから最悪の場合は食べられる()事ですかね……」
「え、それ食べられるんですか!?」
「一応……」
食べられる(美味しいとは言っていない)。
本当は炭じゃなくてスコーンだからね、食べられるとも。食べられるとも……うん。
「一個使ってみても?」
「良いですよ。ここだと目立つので場所を移しましょうか」
ガレオットさんを連れてわたし達は港から砂浜に移動する。
ここならあまり人もいないしもし火事になっても砂や水で直ぐに消せる。
「結局、この人も旅仲間になるのだわ?」
「そうなるだろうね。リリアーヌもパリスに行きたいんでしょ?この人……ガレオットさんもそこに行きたいんだって」
「あら!同じなのだわ!」
道中、リリアーヌが尋ねて来たからそう答えた。
リリアーヌはウキウキである。旅仲間が増えるのが嬉しいのかな?
「それじゃあ点けますね。あ、よいしょ」
ボウッ!!
「うわっ!?」
枯れ枝を集めた上に
直ぐに火の手が上がりガレオットさんの鼻先をかすめる。
驚いたガレオットさんは尻餅をついた。ま、急に中華料理並みの火の高さになったら驚くよね。
一瞬ガレオットさんの目が大きく開いたんだけれど、雫型の茶色の瞳で瞳孔の部分が赤色だった。
「す……凄い火力ですね……」
「それに綺麗なの」
「珍しい色だからきっと貴族にも人気になるのだわ」
「え、えぇ、そうですね!これは売れます!」
金が得られると分かった瞬間ガレオットさんが途端に元気になった。流石商売人。
更に火力の証明の為、海で掬った水を適当な耐熱性の容器に入れて火にくべる。
「うわーっ、目に見えて塩が出来上がって行きますね」
「耐熱性の筈なのに容器が溶けて来てるわよ……。もうこれは使えないわね」
海の塩って苦いから料理には向かないんだよね。
それはともかく、もう実演は十分かな。わたしは海水を掬って炭枯怨の上に振りかける。
じゅわっ!……メラメラメラ……
「あ、あれ?」
「消えないのだわ」
「おかしいわね」
一瞬火は弱まったものの直ぐに海水をかける前までと同じようにメラメラと燃え出した。
不思議に思ったカーアンが溶けかけた耐熱性の容器で燃え盛る炭枯怨に蓋をする。
けれども炭枯怨は『何するものぞ』とばかりに容器にぽっかりと穴を開けてしまった。
「向こうが見えるの〜」
「危ないよ」
「砂……砂はどうかしら?」
アリスが再び容器に水をかけて回収する。キャッキャと空いた穴を覗き込んで嬉しそうにしている。
次いでカーアンが砂をこれでもかと炭枯怨の上にかける。すると溶けてガラスになった。
「えぇ……(ドン引き)」
「消せないのでは安全面に不安があるので少し値が落ちますね……」
「うむむ……」
「そもそも、何故紫色の炎が出るのでしょう?企業秘密ですか?」
「いや、企業秘密じゃないけど……わたし達にも理由が分かんない」
サッパリパリだ。作り方・理由はおばあちゃんのみぞ知る。
長年おばあちゃんが炭枯怨を作る工程を見ては逃げ出して来たけど作り方自体はわたしの知っているレシピ通りだった。
逆に何が違うのか分からない。そもおばあちゃんの作る料理全てが出来上がると未知の物体になるのが謎だ。
炭枯怨と同じく作り方は間違ってないのだ。逆に普通と違う所と言えば……作り手自身?
魔女だし、長生きだし、外見詐欺年齢だし、真名不明だし、正体もよく分からない。
スコーンが炭枯怨になる理由はそこにあるかも?
「おばあちゃん、作り方自体は間違ってないのにこんなの作るんだもんな」
「作り方は合ってるのね?」
「え、うん」
「……なら、無意識に魔力を込めてるとかかしら?」
「あー、ありえるかも」
ガレオットさんが炭枯怨には魔力が込められていると言っていた。
おばあちゃんがわざわざ魔力を込めている工程は見た事がないから、作りながらじんわりとスコーンを自分の魔力で染め上げているのかもしれない。魔女だしありえる。
結果、スコーンは炭枯怨に変化して変な能力を兼ね備えたのかもしれない。
もしそうなら……。
「んしょ、んしょ、あった!」
「あら?何よそれ」
「アルちゃんに貰ったの」
袋から取り出したのはわたしの魔力が詰まったビー玉程の魔石だ。
ここから魔力を吸い取って、元の透明な無属性の状態に戻し、燃え盛る炭枯怨の上に落とす。
「おおお!?炎の色が普通になりましたね」
「これなら……」
穴が空いて使い物にならなくなった容器の代わりに手で海水を掬って、振りかける。
するとジュッ!と激しい音を立てて火は消え去った。
「やっと消えたわね」
「
魔石を拾い上げると紫色に染め上がっていた。ちょっとばかし煤がついている。
適当な布で煤を拭っているとガレオットさんが興味深そうに覗き込んで来た。
「珍しい物をお持ちですね」
「貰い物だけどね」
「そんな高価い物をくれるんですか……?何者ですかその人」
「さてね」
アルちゃん……アルトマイヤー・ヘルツォク・フォン・ショータイズは大学の校長なだけあって多分有名だと思う。ガレオットさんも知っている可能性が高い。
わたしはガレオットさんに『大学に行ってない』と言ってる手前、正直に話すとある筈の無い繋がりが見えて来てしまう。
「……しかし、消せる物とセットにして売ったら良いかとも思いましたがその消せる物があまりにも高価すぎますね」
「火事になったらマズイけれど、放っておけば最終的に燃え尽きて火は消えるよ」
そこは普通の炭と変わらない。ちゃんと検証済みだ。
そう言えば、炭枯怨におばあちゃんの魔力が籠ってんなら不味いと感じるのもある意味当然かも。
だって、口を通して他人の魔力を押し込まれるようなモノでしょ?
物に魔力を込めるのですら反発があるんだから、人体に入れた所で同じように反発があると思う。
それが味覚に不味さとして現れているのかもしれない。
……勿論、単純にメシマズの可能性も大いにあるのだけど。
「ふむ、なら良いですかね。くれぐれも火事には気を付けるように言いましょう。
見た目の珍しさもさる事ながら、今は需要があるのでとても高値で売れますよ」
「需要?」
「はい。
今年は暖冬なのでまだ起きている人が多いのですが、それも時間の問題でしょう」
へー、虫みたい。いや、虫か。
リリアーヌは大丈夫なのかな?
チラと見ると少し寒そうにしているだけで今にも寝そうなんて雰囲気は無い。
でも急に寝られても困るし、暖かくなるようにマントか服でも着させた方が良いかな?
「リリアーヌ、これ貸してあげる」
「まぁ!ありがとうなのだわ!」
わたしは着ていたケープを脱いでリリアーヌに着せてあげる。
ただ、サイズはわたしに合わせた子供用だからリリアーヌには少し小さい。
魔力を込めればサイズを変える事も出来るけれどそんな技術を知らない人達がいる手間、出来ない。
ケープを脱ぐと一気に寒さが身に堪えだした。
「えくちっ」
「
「うん……ありがと」
「そうだ、パリスに着いたら貴女達に服を贈らせていただきましょうか。お礼ですよ」
「わ、良いんですか?」
やったー!これで皆暖かくなれる!
どんなデザインにしよっかな〜っと。ふふんふふ……いや待て。
「っていやいや、今までのお礼として護衛するつもりなのに、更に恩を積まれちゃ意味ないじゃないですか」
「でも大商人がを恩を受けっぱなしというのは評判が下がる一因となってしまうのです。せめてこれくらいはさせて下さい」
「うぅ〜……はい」
申し出自体はありがたいのだから断る理由が無い。
恩を返せるつもりだったのにまた恩を重ねてしまった。いつになったら完全に返せる事やら……。
「それはそうと、まず炭の値段を決めましょう。相場は三キロで虫人国の銅貨五枚って所ですが、これはそれより値が付きますので金貨三枚は下らないでしょう」
「そんなに!?」
「アタシ達、宝の持ち腐れだったのね……」
えーと、子人国の貨幣は基人国の二倍の価値があって、さっきのヌガーを買った時、虫人国のは子人国のだいたい三分の一だったからー……。
えーとえーと、❸=⑼、❸=⑥で⑥=⑼だから……①=(二分の三)、つまり虫人国のは基人国のの1.5倍か!やった出来た!
【おめでとうございます】
{わー、すごいすごい}
何か腹立つんだけど……特に{楽}!
ま、良いわ……それより今は計算計算。
んー、て事は日本円にして四万五千くらいかね。凄い儲かる。
カーアンが落ち込んでるけれど誰がまさかお荷物だった炭にこんな値が付くと思うよ?
「まぁ、炭ギルドが文句付けて来ると思いますが知らんぷりしましょう」
「ちょっ」
「貴女達は新しい旅商人です。この国のルールは知りません。良いですね?」
ガレオットさんが内緒話をするように顔の前で人差し指を立てる。
その後ろで細い目がキラリと光った。なんだかんだ言って商人なんだなぁ……。
「でも……」
「では、炭ギルドに行ってから売ると仮定しましょう。まず値段が勝手に決められ、上前が撥ねられます。
次に炭が『研究』と称して半分程取り上げられます。
しかし貴女達に謝礼金が下りる事は一切ありません。
更に……」
「良いわ良いわ、もう良いわ。利益が出なくなるのは分かったわよ」
「ヒェ……」
「怖いの……」
「わたくし達の事を思ってのアドバイスなのだわね」
「そういう事です」
アリスとお互い抱き合ってプルプル震える。
抱き合った時にアーサーの潰されたような声で『ムギュ』と聞こえた気がしたけど多分気のせいでせう。
「所で、これを魔道具として定期的にガレオット商会に卸してくれませんか?勿論ちゃんとお金は支払いますよ?」
「えっ」
そっちが目的かーい!炭ギルドじゃなくガレオット商会で炭枯怨を売りたかっただけ!?
あれ、優しさは?優しさはドコ?わたし達を思ってのアドバイスじゃなかったの!?
「駄目ですか?カテゴリ的には炭よりも魔道具の域だと思いますが……」
「いや、カテゴリ云々じゃなくて定期提供が難しいんだよね」
これを作れるのは世界でただ一人、おばあちゃんだけだ。頼めば沢山焼いてくれるだろうけれど、その頼むのが大変だ。
だっておばあちゃん家に行かなきゃいけないし、旅をしている以上そう簡単に行ける訳ではない。
「そうですか……。もし目処が立ちましたらぜひご連絡下さいね。ガレオット商会はいつでもお待ちしてますよ」
「あっはい」
ひとまず諦めた……諦めた?っぽい。一時的に引いただけかな?
まぁ手に入ったら積極的にガレオットさんに売る事にするよ。
「話を戻して、炭の値段はこれで良いですか?」
「相場分かんないし、それで……んぐ」
「待ちなさい。もっと上げられるんじゃないかしら?」
「おや、目敏い」
承諾しようとしたらカーアンに手で口を塞がれた。もごっ。
その後ゆるゆると手を離してくれたけれど離れきった直後にアリスによってアーサーで口が塞がれた。何でぇ?
「えふっ!埃臭っ!」
「商談相手は金持ちでしょう?日々の生活に困るような庶民じゃないんでしょう?なら、もっとお金を出してくれる筈よ。
珍しい、美しい、これから流行りそう。そんな言葉に新しい物大好きな金持ちが食いつかない筈ないわ」
「そうなのだわ?」
それとアーサー埃臭い!水場に行ったら丸洗いするからね!
「おやおや、金持ちと言っても千差万別。見栄っ張りの借金苦だって居ますよ?」
「知ったこっちゃないわ。浪費癖があるのが悪いのよ」
「……そういう考え方、嫌いじゃないですよ」
「「ふふふふふふ……」」
カーアンとガレオットさんが怖いよぉ……。二人共黒い笑みを浮かべちゃってまぁ。
数字が絡んでくる話はどうも苦手だ。二人の間に入れる気がしない。
「一つ金貨十枚よ」
「高価過ぎですね、金貨二枚」
「何で下げてんのよ、金貨十一枚」
「そっちこそ何で上げてるんですか、金貨五枚」
「まだよ、金貨九枚銀貨五枚」
「金貨六枚、これ以上は上げられません」
「あらそ、なら売らないわよ」
「……金貨六枚銀貨五枚」
「サービスよ、金貨七枚」
「……良いでしょう、手を打ちます」
ひぇ……最終的に元の提示金額の二倍以上になっちゃったよ……。
日本円にして炭枯怨一つで約十万五千円!高価ーい!これだけあれば元の世界でも旅行出来ちゃうよ!
「ではそれで買い取ります。全部でいくつありますか?」
「……はっ!確認するね」
正気に戻って炭枯怨を数える。今まで見るのも嫌で数えた事なんて無かった。
えーと、ひーふーみー……全部で四十七個あるね。おばあちゃんどんだけ焼いたの?
「四十七個!」
「つまり金貨三百二十九枚分ね、しっかり頂くわよ」
「はい、勿論ですとも」
カーアン計算速っ!?日本円にして約四百九十四万円か。一気にお金持ち(仮)になったね。
現状買い取る側のガレオットさんが無一文だからわたし達も炭の持ち腐れ状態なんだけどね……。
「あぁ、それと。これは僕のお節介なので聞き流して貰っても構わないのですが、『定期提供は出来ない』と言いましたよね?」
「うん」
「炭の分の代金を使い切ったら、貴女達はどうするのですか?」
「う……」
残念ながら元の貧乏生活に元通りだ。だって稼ぐ手立てがランダム遭遇の魔獣だけなんだもん。
それでよくここまで来れたよね。耐えて来たわたし達が凄いのか、財布を握ってるカーアンが凄いのか。
「お金を稼ぐのって、商売だけなのかなぁ?」
「いいえ、違いますよ」
「むー、どうすりゃ良いの?」
「貴女達は各国を渡り歩いているのでしょう?外国語教師をするのはどうでしょうか」
あ、確かにそういうのもアリか。でもあまり長期間滞在したくはないな。旅が目的なのに、旅費を稼ぐ為に旅をしなくなるんじゃ本末転倒だもの。
うーん、となると別の……前世だったら……あ。
「おや、紙とペンですか?これまた珍しいのをお持ちで」
「五分頂戴」
「良いですよ。何をするんですか?」
「絵を描くんだよ!」
そうだよ!わたしは前世じゃ漫画家でかなり稼いでたじゃないか!
異世界で通用するかはまだ未知数だけど、そこはガレオットさんに判断して貰おう。少なくともカルラさんからは高評価だった。
「絵……ですか?黒一色で?」
「そうだよ?」
「絵というのは、色がついてる物ではないのですか?」
「単色でも描かれた物なら絵なんだよ」
インクだけによる絵は無いのかな?逆にガレオットさんの口ぶりから察するに絵の具とかはあるっぽいな。
お金も手に入る事だし、沢山画材欲しいなー。カーアン買ってくれるかな?
「出来たー!」
「おや?これは……僕ですか?なる程黒と白の二色で……ふむふむ」
わたしが描いたのはガレオットさんだ。胸部より上しか描いてないからそんなに時間はかからない。
アリス、リリアーヌ、ガレオットさんの異世界組は興味津々で絵を覗き込んでいる。ただ、それ以上にカーアンのがっつき具合が怖い。
「本物……本物……グリム先生の作業風景……ウッ!生"き"て"て"よ"か"っ"た"!」
「ごめんカーアン気持ち悪い」
「上手なの〜」
「これは……売れますね!因みに貰っても良いですか?」
「良いよ〜」
「わたくしも描いて欲しいのだわ」
「じゃ、じっとしてね」
皆からも中々高評価だ。カーアンは限界オタクになってるので放置。
リリアーヌの絵も描きながらガレオットさんに値段の相談を持ちかける。
「売れるって言っても、どのくらいが適正かな?沢山の人に来て貰えると嬉しいな」
「そうですねぇ……。インクもペンもそこそこ値が張りますし、高価く設定したい所ですが人を集めたいとなると……銀貨三枚が適当ですかね」
ウィスキー三本分くらい?ならお酒を我慢すれば行けるくらいの値段か。
お酒以上の魅力を感じて貰わなきゃ来て貰えない事を考えると、ライバルはお酒かな?
「はい、出来たよ」
「ありがとうなのだわー。家に着いたら額縁に飾るのだわ」
「そこまでしなくても……」
「あら、分かってるじゃない」
「んあ?」
「あら?」
描いた本人とファンの意見が真っ向から対立した。
額縁に飾る程出来が良い訳じゃないし、それよりかもっと素敵な絵を飾った方が良いと思うんだよ。
「馬鹿ね、アンタの絵は額縁に飾られるべき存在なのよ?」
「そんな価値ないと思うなー」
「馬鹿ね、馬鹿!アンタの!絵は!どんな金銀宝石にも劣らないのよ!!」
「おっふふwww視界が揺れるwww」
ガッシと肩を掴まれて前後にめちゃくちゃ揺すられた。なんか楽しい。
元々怖い顔が更に怖くなってるのを他所にわたしは適当に絵を描いてそれをばら撒く。
「ほーれ、拾うがいー」
「あああ!ありがとうございます!ありがとうございます!!」
「どうだ明るくなったろう」
「あ"あ"あ"!!?勿体ない!!」
某成金の如く絵をばら撒いたり燃やしたりしたらカーアンが盛り上がったり落ち込んだりした。
やっぱカーアンは面白いなぁ。
「アレは何なの?」
「分からないのだわ。未知を見させられているのだわ」
「僕、カーアンさんの事怖いなって思ってたんですけどそうでもないかもですね」
元ネタを知っていれば笑ったかもしれないけれど知らない異世界組の目には奇異に映るらしい。
確かにいきなり絵をばら撒いたり燃やしたり、それに一喜一憂したりしたら『ヤベェ』って思うよね。
「あ、そうなの!アリスもお姉ちゃん達を助けたいの。これならお金になるの?」
そう言って騒いでるわたし達を他所にアリスがアーサーを取り出して地面に置く。
見た通りぬいぐるみのようにぐったりしていたアーサーがアリスの適当な指の動きに合わせて動き出した。
「わ、操り人形ですか?糸も無くどうやって動いているんでしょう?これもイケると思いますよ」
「わぁいなの!」
アリスが健気で泣けて来る。何やってんだろわたし達。
カーアンで遊ぶのはやめてアリス達に近づく。
「うーん、そうなるとわたくしも旅仲間としてお荷物になる訳にはいかないのだわ。レイピアの型を披露すれば少しは稼げるのだわ?」
「それも良いかもしれませんが、貴女は
「蜂蜜ね、分かったのだわ」
おや、リリアーヌは蜂蜜が作れるの?これは初耳。
後で見せて貰おう。どうやって作るのかな?
「なら……アタシは歌ね」
「歌えるの?」
「ムッ、歌えるわよ!見てなさいよ!」
ばら撒いた絵を満足そうに回収し終えたカーアンが戻って来た。
すーっと息を大きく吸い込み、胸に両手を当てて歌い出す。
「Først den ene vej
og så den anden vej
og tju og tju
og skomagersdreng
Skomagerdrengen er et svin
for han drikker brændevin……」
「わぁ……!」
「綺麗な声なの……!」
「王宮で雇いたいレベルなのだわ!」
「……」
カーアンの喉から響いたのは透き通った水のような声だった。
聴く者の心を癒し、落ち着かせ、幸せな気分にさせる歌だ。ずっと聞いていられる……。え、ヤバない?これ、糸巻きの歌だよね?
「……」
「ガレオットさん?」
「……」
さっきから押し黙っているガレオットさんが急に立ち上がった。
スタンディングオベーションかな?と思ったらそのまま海の方へフラフラと歩き出した。
「ちょっとぉ!?ガレオットさん!?」
「っは!?」
慌てて腕を引っ掴むと夢から覚めたかのように大きく目を見開いて、それからパチクリした。
自分でも何をしようとしていたか理解してないみたいだ。このまま進んでたら海に入る所だったよ?
「あ、あれ?僕……」
「……カーアン、あのさぁ……」
「……言われなくても分かるわよ。要練習ね」
カーアンの正体は
もしかしてカーアンが歌上手いのって人魚だから?人を惑わすのも人魚だから?
そう思ってカーアンに告げようとしたけれど考えた事は一緒だったみたいだ。
練習でどうにかなるのだろうか……。
「何が起きたか分かりませんが、素晴らしい歌声でした!
是非ともウチの専属歌手になって欲しいレベルです。どうですか?」
「嬉しいけどエンリョしとくわ」
「そ、そうですか、残念です。もしその気になったらご連絡下さいね」
カーアンの力強い意志の籠った返答に一瞬たじろいだものの直ぐに立ち直るガレオットさん。流石商人。
何でリリアーヌと言いガレオットさんと言い直ぐに雇いたがるんだろう。金持ちってそんなモン?
「あ、そうそう。今って何月だっけ」
「今ですか?正確には分かりませんが、僕が子人国を出た時には十一月の頭だったので変わってないかと」
「十一!?」
ふと思い出して聞いてみたらとんでもない日数が経ってた。
わたし達が子人国を出たのは九月の終わりくらいの筈だから軽く二か月は監獄島に居た事になる。そりゃ寒くもなるわ。
「わたしの誕生日がー!過ぎちゃったー!わーん!まだプレゼント貰ってないのにー!」
「それはアタシも同じよ。泣く程の事かしら?」
「泣く事だよぅ!」
わたしは十月十日(仮)、カーアンは十月二十二日生まれだ。
つまり十月を余裕で過ぎた今、わたしは十七歳、カーアンは十六歳になった事になる。十七歳にもなって子供サイズとは。とほほ……。
「なら、無事にパリスまで送ってもらった暁にはお二方に誕生日プレゼントも進呈しましょう」
「え!?良いの!?やったー!」
「あら、ありがとうございます」
ガレオットさんやっさしーい!ロスト誕生日に冷淡な反応しかしないカーアンとは大違い!
絶対絶対ガレオットさんに傷一つ付けず送るぞー!
【はい、頑張りましょう】
{おーっ!}
気合いを入れた所でアリスが身震いしながらカーアンのスカートの裾を引っ張っているのに気が付いた。
「カーアンお姉ちゃん、寒いのー……」
「うわ、もう日が暮れて来てるじゃない!」
「宿にする?野宿にする?」
「「宿が良い
「……手持ち金で足りるかしら?」
お金持ちになった筈なのに未だ貧乏という矛盾を抱えたわたし達は寒さを凌ぐべく宿屋を探す事にした。
リリアーヌとガレオットさんの高級組の返事は即答だった。
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