Сторона Волх・В・Были́на с2

 


「すげー、ロンドン塔みたいだ!」

「勇者様、落ち着いて下さい」


 馬車に揺られて早幾日。ようやく基人国グルントラーゲンの大学にたどり着いた。ケツが痛い。

 目の前には立派な建造物がそびえ立っている。


「何だアイツ」

「馬鹿、アレが勇者様だよ!最近召喚されたって奴!」

「えっ、アレが!?」


 畏れと怪訝さの籠った目でこちらを見て来る二人。

 まぁ、俺の身体はムキムキマッチョじゃないし、武器の心得とかもないし、高校の制服だし、勇者っぽくは見えないな。


 何故未だ高校の制服を着ているのかと言うと、理由は不明だが絶大な防御力を発揮するからだ。

 具体的に言うと服の頑丈さを試す為に使われた国宝の名剣が折れた。


「勇者様、何をしておられます?魔女の話を聞きに参りましょう」

「そうだな!」


 いっけね、俺達は魔女の話を聞きに来たんだった!

 魔女ってどんな奴だろうな?やっぱりお婆さんの姿なのか?


「勇者様には大学を見学して貰いつつ、魔女と親しかった人達に話を聞いて貰います」


 俺、メリー、護衛や案内役の先生となると大所帯だ。見学する立場なのにうるさくして申し訳ないな。

 それと、何処に行っても視線を集めるのはやっぱりまだ慣れない。


「まずは図書館へ向かいましょう。あそこには彼がいる筈です」

「彼?」

「ジーベル・グルントラーガ・グロスヘルツォーク・フォン・ハイドリヒ様です。基人国グルントラーゲンの第六王子です」


 王子様か!すっげー、やっぱりいるんだな!

 どんな奴なんだろうな?王冠被ってたりするのか?


「到着致しました、が……」

「何だこれ?冷たっ!氷か?」

「勇者様!急に危ない事はしないで下さいませ!」

「悪りぃ悪りぃ」


 辿り着いた所には氷漬けになったドアがあった。触ると冷たい。

 まるで氷の中にドアを閉じ込めたようなソレは、一見するとアート作品のようにも思えた。


「ま、でも」

「勇者様?」

「全て氷漬けになったのが仇となったな!」


 俺は召喚された時に持っていた十字剣を呼び出し、野球のバッドを振るう要領でドアを叩き切る。

 この十字剣、仕組みはよく分からんけど要る時になったら現れてくれて便利なんだぜ!


 バギィッ!!と剣の斬撃により氷がひび割れ、ドアごと崩壊する。

 割れたドアの先には、呆然とした顔で俺達を見て来る水色の癖のある髪に赤い目をした青年がいた。


「……」

「よっ!お前が王子様か?」

「……きゅう」

Ойえっ!?」


 危ない!俺は咄嗟に駆け寄り、気絶した事で重心を保てなくなった青年を倒れる椅子ごとキャッチする。

 何とか上手く行き、ホッと溜息を吐いた俺にメリー達が駆け寄って来る。


「勇者様!急に危ない事をしないで下さいと何度もお願い致しましたよね!?」

「あぁ……そうだったな?」

「ちゃんと聞いて下さいませっ!全くもう……」


 メリーのお小言タイムが始まった。何で人を助けるのがダメなのか俺には分からない。

 心配してくれんのはありがたいが、身体が先に反応しちまうんだから仕方ないだろ……。


「うぅ……ぎゃー!?」

「お、目が覚めたな!元気そうで何よりだ!」

「お、おまおまおま、お前は誰だ!?」


 目が覚めると同時に壁際まで飛び去る青年。よし、元気だな!

 司書っぽい人がオロオロしているが、元気なら大丈夫だろ!


「俺か?俺はヴォルフ・フセスラーヴィエヴィナ・ブィリーナ。この世界に召喚された勇者だ!」

「ゆ、勇者!?」

「ジーベル様、お久しぶりです。メリーです」

「メリー様!?お、お久しぶりです。このような醜態を晒してしまい申し訳ありません」

「いえ、構いません。勇者様が奔放なのが悪いのです……」


 あわあわと王子様は狼狽えつつも立ち上がり、メリーと握手を交わす。

 なんか二人とも死んだ目になってるな。疲れてんなら肩揉んでやろうか?


「遅ばせながら、お初にお目にかかります。基人国グルントラーゲン王の息子が一人、ジーベル・グルントラーガ・グロスヘルツォーク・フォン・ハイドリヒと申します。以後お見知りおきを」

「よろしくな〜」


 俺と王子様は握手を交わす。なんか細いな。ちゃんと飯食べてんのか?

 俺達は図書館の椅子に移動し、要件を切り出す。司書っぽい人が茶菓子と紅茶を出してくれた。いただきまーす。


「はぁ、魔女の話ですか?」

そうだふぉうふぁどんな奴だふぉんふぁふぁふふぁ?」

「勇者様……王族の前ですよ、失礼に当たります」


 だってこのクッキー美味いんだもん。何だか元の世界にいた頃を思い出す味だ。

 メリーは困り顔だが、王子様はくすりと笑ってクッキーの皿を俺側に押してくれた。


「構いませんよ、メリー様。これはボクが彼女を思い出しながら作ったのです。こんなに喜んでくださると、こちらまで嬉しくなります」

「ジーベル様の手作りでしたか。それで彼女、とは?」

「リーゼルです。リーゼル・ゲッティンゲン。メリー様達が聞きに来た、件の魔女です」

「むぐっ!?」


 勢い余ってクッキーを喉に詰まらせた。紅茶を喉に流し込み、何とか事なきを得る。

 まさかクッキーから魔女の話になるとは思わなかった。


「リーゼルは特別枠で入った平民でした。見た目は幼い少女そのものでしたが力が抜きん出て強く、陸上恐技に秀でたボック先生すら余裕で下す程です。

 反面、魔女と言う割には魔法についての知識は浅く、ボクが教えてあげていた程です」

「ボック様をですか!本当にその魔女は強いのですね。やはり聖人様の敵……」


 陸上恐技って何だ?よく分からんが、リーゼルって奴はメリーにすら名を知られた存在が負ける程強いらしい。

 それと、見た目は老婆どころかちびっ子らしい。老婆が大学にいるならともかく、ちびっ子が大学にいると浮くな。


「リーゼルは本と食べ物が好きでした。よく図書館に来て一緒に勉強しました。ボクにクッキーをくれた事もありました。魔女である事を除けば、ただただ変わった平民の子でした」

「……魔女の肩を持つのですか?」

「……いいえ、そんなまさか」


 メリーが腰のロザリオに手を伸ばし、王子様は目を閉じ首を振る。

 いつの間にやらピリッとした空気が辺りを支配していた。クッキー美味ぇ。


「ボクが肩を持つのはリーゼルです。魔女ではありません」

「それは魔女の肩を持つ事と──」

「違います。ボクが肩を持つのはリーゼルです。ボクがリーゼルの肩を持たなかったら誰が持つんですか?」


 ん?何言ってんのかちょっと良く分かんないな。

 リーゼルってのは魔女なんだろ?なら、リーゼルの肩を持つなら自動的に魔女の肩を持つ事になるだろ?違うのか?


「聖人様にすら見放されたあの子を庇えるのはボクだけだ。味方になれるのはボクだけだ。愛してあげられるのはボクだけだ!

 あぁ、リーゼルリーゼルリーゼルリーゼブッ!?」


 突然、錯乱しかけていた王子様が机に突っ伏す。頭にはたんこぶが出来ていた。

 王子様の後ろにはいつの間にか重たげな本を振り下ろした格好の男性がいた。


「ウチのジーベルがすみません、メリー様、勇者様」


 男性は水色の癖のついた髪に桃色の目をしていた。

 白衣を着ていて、まるでお医者さんみたいだ。


「お久しぶりですRainartライナート様。

 勇者様、この方はジーベル様の兄君です」

「こんにちは、勇者として呼ばれたヴォルフ・フセスラーヴィエヴィナ・ブィリーナだ。初めまして」

「はい、初めまして。基人国王の息子が一人、ライナート・グルントラーガ・グロスヘルツォーク・フォン・ハイドリヒと申します。

 ジーベルの兄に当たります。どうぞ、ジーベル共々お見知りおき下さいな」


 俺達は握手を交わす。王子様の兄って事はこの人も王子様か。

 いっぱいいるなー王子様。こんなもんなのか?


「先程はジーベルが失礼しました。罰はなんなりとお受け致します」

「いえ、罰するも何もございません。それより、ジーベル様は魔女に執心していらっしゃるようですね」

「そうですね、大方魔女に魅入られてしまったのでしょう」

「まぁ!」


 メリーが驚きと怒りの混じった声を上げる。魔女って少女なんだろ?

 それに魅入られた、要は好きにさせられたって事は……ジーベルはロリコンになったのか!


「許せません、一国の、しかも基人国の王子を誑かすとは何たる不遜!」

「えぇ全く。オレですら治せませんでした。聖女様、どうか哀れなジーベルに聖人様の祝福を」

「勿論ですとも!」


 言うが早いがメリーは聖人に祈りを捧げる。それよりも塩の方が効果ありそうだな。

 祈りを捧げている間、ジーベルは気絶していて動かなかった。


「どうか、ジーベルが宣教師になった際はよろしくお願い致します」

「えぇ、お守り致します。早く魔女の呪いが解けますように」

「ありがとうございます」


 結局俺は終始置いてけぼりだった。

 その後、フックス、ブランダー、校長といった面々と話をしたが、ジーベルのとあまり変わらない情報が得られた。


 フックスは仲良くなれそうだったな。いつか手合わせをすると約束したんだ。

 そんなこんなで俺の大学見学は終わった。話を聞きに行っただけだったな。

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