象徴武器の話

 


 おばあちゃんに保護されて四年。わたしは十歳になっていた。

 ……もう憑依説は絶望的だなこりゃ。


 変わった事はわたしがそれなりに大きくなった事。具体的にはドロワーズがミニスカ並みになって困っている。


 それと、髪の毛が伸びた事。一つ縛りからわたしから見て左肩に流す三つ編みにチェンジした。

 この髪型は前世と一緒だ。前世はもうちょい髪の毛長かったけどね。


 更に、最近はおばあちゃんがガチで回避したり受け流したりするようになった。

 成長は喜ばしいけれど素直に喜べない自分がいる。


 変わらない事はおばあちゃんがランダムメシマズな事、それからわたしの性格だ。

 前世と合わせて二十五歳の筈、お酒だって飲める年齢の筈なのに変わっている気が一切しない。


 おばあちゃんにも度々言われるが子供っぽいと言うか……大人っぽさが無い。

 わたしの精神が永遠の子供なだけか、はたまた肉体に引っ張られているのか……。わたしは肉体説を推します。


「今日はちョッと違う事をやるぞ」

「違う事?」


 朝食を終え、さぁ修行だと意気込んだ矢先に予定が変更された。

 おばあちゃんは付いて来いとわたしに促す。


 なんだろうと思いつつ付いて行く。おばあちゃんはおばあちゃんの部屋に入って行く。

 それからガタン、とはしごを掛け屋根裏部屋に進んで行く。


 屋根裏部屋に入って驚いた。中は綺麗に片付いていて、床には真っ直ぐ絨毯が敷かれていた。

 正面の窓にはステンドグラス、脇の窓には透明なガラスがはめ込まれている。


 そして何より目立つのは真っ直ぐ伸びた絨毯の先にある十字架だ。

 正確にはただの十字じゃなくて硬貨でも見た十字架にSの字が合体したような十字架だ。


 周りにはロウソク、説教壇、それから花瓶に活けられた花。

 凄く宗教的な神聖さを感じさせる部屋だった。


「凄い……こんな部屋だったんだ……」

「掃除したンだよ、必要だッたからな」


 そう言えば昔『屋根裏部屋は汚いから入るな』って言われたね。

 じゃあちょっと前までは汚かったのか。神聖そうな部屋なのに……。


「今日はお前に象徴武器シンボリック・ウェポンについて話そうと思う」

「象徴武器?」


 初耳。何それ厨二心踊る。わたしが少しワクワクしているとおばあちゃんがいきなり何も無い所から・・・・・・・十字架を取り出した。

 驚きのあまり思わず固まる。


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「これがあたしの象徴武器、杖だ」

「杖なのそれ?」


 ハッとして我に帰る。おばあちゃんが杖と言うそれはどう考えてもデカイ十字架にしか見えない。

 確かに杖サイズだけれど、デザインがケルト十字だし持つのに不便そうな……はっ、まさか!


「魔法少女の杖みたいな奴!?」

「マホ……何だ?」


 杖の下側を持って『ヒラケゴマー』とか言うと変身したりするタイプの杖かな!?

 それなら納得!魔法少女おばあちゃん爆誕!来週も見逃すなよ!


 ……。

 ……?


 魔法少女おばあちゃん……?

 矛盾じゃん、やだ……。


「それでおばあちゃん変身するの?需要があるかは知らんけど見たい!凄く!」

「はァ?お前は何を言ッているンだ?」


 さぁ、見せてよ!変身シーンを!どう変身するの!?きゃわわんな感じ!?それともクールな感じ!?

 衣装は!?魅せシーンは!?必殺技は!?お供は!?メンバーは!?居ないか。敵は!?宿命は!?


「はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ」

「落ち着け」

「いだっ!?」


 ゴン!と良い音がして杖がわたしの頭に直撃する。痛い!

 触ってみると少し膨らみが。たんこぶかな……?


「多分、お前が想像しているのとは違う」

「えぇ?」

象徴武器コレは魔女によッて違う。あたしのがたまたま杖なだけだ」


 そんな、魔法老女(年齢的に)じゃないの!?夢破れたり。

 女の子は変身するかっこかわいい少女に憧れるモンだよ。フ○リキュアとか。


「象徴武器は魔女の武器だ。こういう風に」


 そう言いながらおばあちゃんは目の前で杖を出したり消したりして見せる。マジックみたい。


「出し入れ出来る」

「凄!」


 魔女の本みたいな奴かな?それの武器版?魔女によって違うって事はわたしも別の武器が出せるって事だよね!ひょーっ!

 これ実質武器授与だよね!おばあちゃんに強さを認められたって事かな!?


「で、この象徴武器を今からお前に授ける、と言うか出現させる」

「わふーっ!!」


 やったー!こういう固有の武器って良いよね!ロマンだよ!ロマンだよ!!

 何が出るかな?何が出るかな??


「この十字架の前で十字を切ッて片膝立ちしろ」

「うん」


 言われた通りにする。すると、一枚の紙がわたしに投げつけられた。説教壇に立ったおばあちゃんからだった。

 おばあちゃんは顎で『読め』とジェスチャーする。わたしは目を閉じ、指で字を追いながら声に出す。


「天地の創造主、全能の神を信じます。

 わたし達の主、聖人様を信じます。

 主は精霊を宿らせ、

 聖女に喚ばれ、

 魔王のもとで苦しみを受け、

 十字架を伝え、知識を伝え、天に昇り、

 三日目に帰し、再び昇って帰らず、

 全能の神の右の座に着き、

 生者と死者を裁くために来られます。

 精霊を信じ、

 聖なる普遍の教会、

 聖徒の交わり、

 罪のゆるし、

 からだの復活、

 永遠のいのちを信じます」


 なっっが!こう言う時に字の有り難さが分かるね!

 読み終えると十字架が光り輝く。よく見ると十字架とSの字にはカラフルな宝石がはめ込まれていて、その内の茶色の宝石が光り輝いていた。


「栄光は神と聖人と精霊に。初めのように今もいつも世々に」


 おばあちゃんがそう言い十字を切る。途端、カッ!と一層光が強まり、光がわたしを中心に巻き起こる。


「わぁっ!?」


 反射的に目を瞑り、光が弱くなったのを確認してから目を開く。

 さてさて、何がわたしの武器かな?剣かな?槍かな?ナイフかな?それとも━━


 ……。

 …………。


「……?」

「……ブフォッ!」


 え、と何かな、これ。見た事あるし、名前も知っているんだけれど、頭が追っつかない。

 え、これ、え、え……?


「鍵……だよね?」

「そ、そうだな……ブフッ!」

「何わろてんねん!」


 目の前でふよふよ浮いているのはどこからどう見ても鍵だった。

 鍵?鍵が武器?鍵でどう戦えと?わたし即興護身術程度しか用途知らないよ?


「と、とりあえず性能を探る為にいじッてみろ。

 終わッたらあたしに性能を報告しろ。修行に取り入れるから……プッ」

「おばあちゃんなんか嫌いだぁあああ!!!」


 なに人の不幸(?)を笑ってんの!?腹抱えてさぁ!うわーん!!

 わたしは呑気にふよふよ浮いている鍵を引っ掴んで庭へ走り出した。


 〚♧≣≣≣♧≣≣≣⊂§✙━┳┳·﹣≣≣≣♧≣≣≣♧〛


「……しっかし、どうしたモンか……」


 わたしは鍵をじろじろ見回す。デザインは可愛いんじゃないかな。

 金色で、クローバー型の持ち手に茶色の宝石がはまっている。


 持ち手と棒の部分の境目には鉄十字のアクセサリーが付いたリボンが巻かれている。

 柄にはSの字を組み合わせたような模様が彫り込まれていて、鍵の部分は十字型の凹みをしていた。


 鍵、鍵、鍵ねぇ……。鍵というくらいだから扉が開いたりするのだろうか。

 物は試しだ、早速実行!


 わたしは裏口の扉の鍵穴に鍵を突っ込んでみる。

 回すとカチャリと軽い音がして開いた。


「おおーっ」


 か、鍵だぁ……。他は?他はどうなんだろう?

 鍵で閉めてからわたしは他の扉を開けに家の中へ戻る。


 わたしの部屋!開く!閉まる!

 おばあちゃんの部屋!開く!閉まる!


 トイレ!開く!閉まる!

 物置!開く!閉まる!


 検証結果!この鍵はマスターキーだった!何処の部屋も開くし閉まる。

 じゃあ鍵の付いていないキッチンはどうなんだろう?


 わたしは扉の前で捻る動作をする。ギィ……と音がして閉めていた筈の扉が勝手に開く。

 ……ホラーに応用出来るね!


 と言うかこれ泥棒し放題じゃないか。なんて奴だ。

 他には?他には機能は無いのかな?


 庭に戻って物は試しと木に鍵を差し込んでみる。なんの抵抗も無く、すんなり鍵が入って行く。

 鍵が入るって事は回せるという事。鍵が入った事に驚きつつも回してみ


 ドカァアアンッッ!!!

「ぴぎゃぁああああっ!!!???」


 な、ななな、なんぞ!?わたしの目の前で魔法陣がくるくる回る。

 待って、今怪我したの!?原因は木以外には考えられないけれど、木は一体どうな


「あああああああああああああああああ!!!???」


 木、木が、木がぁ!木が、バラバラになっている!

 え、怖、え……?これ、鍵がやったの……?


 わたしは手元の鍵を見る。相変わらず呑気そうに陽光を反射しキラキラ光っている。


 ……。

 …………。


 ……ヤバない?


 え、これ鍵のくせに超絶破壊兵器じゃんチートじゃん核より核じゃんこれ人にやったら即死兵器じゃんマズイマズイマズイよこんなん人が持ってて良いモンじゃないよヤバイヤバイヤバイ!!!


 は?え?これ例えば空気中で適当に回そうモンなら酸素分子が酸素原子と酸素原子にいきなり分かれて大爆風が発生なんて事になりかねないよね!?

 化学不得意だからよく分からんけども!


 もしわたしがヤケになって空気中で回そうモンなら全世界から一瞬でも酸素が失われるって事でしょ?

 それはマズイ。多いにマズイ。核より管理がガバい超兵器だ!


「おおおおっおぁ……」


 鍵を持つ手が震える。

 これは……わたし個人が持って良いモンじゃない。然るべき措置、具体的にはこの世からの抹消が必要だ。

 わたしは窓から家の中に居るおばあちゃんに呼びかける。


「おばあちゃーんっ!!」

「何だ?」

「近くにおススメのマグマスポット無い!?」

「ある訳無ェだろ何するつもりだ!」


 ちぃっ!マグマで溶かしてしまおうと思ったのに!

 ならごく小規模でわたしに出来る事をするまで!


「おばあちゃーんっ!!」

「今度は何だ」

「スコップ無い!?」

「外の物置」

「ありがとう!」


 わたしは奪うように物置からスコップを取り出し一メートルくらいの穴を掘る。

 ふぅ、こんなモンかな。


 それから鍵を穴の中に投げ捨て土を被せる。

 わたしに出来る事、それは記憶からの抹消だ!


 核以上の武力を持つ鍵は無かった、良いね?……よし!

 ふ〜っ、穴も掘ったし一仕事したなぁ……。帰ってお茶でも飲へぶぁっ!?


 背後から強い力で何かが頭につかる。

 い、一体何が……はっ!


「か、鍵……いや、鍵さん?どうして……」


 思わず頭に触れる。何か金属質の物が手に触れる。これは、そう、この形は……鍵だ。

 き、貴様は穴に埋めた、遺棄した筈なのに何故生きている!


「……(ぐりぐり)」

「痛い痛い痛い!」


 ちょ、待、これ意思持って動いてない!?怖い!怖いよ何これ!

 わたしは頭に刺さった鍵をすっぽ抜く。


 立ち上がり、穴の有った所を見ると丁度鍵サイズの小さな穴が空いていた。

 間違いない、出てきたね。


 何故だか鍵からプレッシャーを感じる。これは謝らねばならぬ感じかな?鍵に?


「ご、ごめんね……」

「……(ぷいっ)」


 あ、そっぽ向いた。ご機嫌斜めみたい……。

 ……何で自分は鍵の機嫌を伺っているのだろう。


「さ、さっきのは冗談だよ。わたしが本気で君を捨てる訳無いじゃないか!」

「……!(\\\)」


 おい待て鍵なんで頰(?)染めて照れてやがる。ヤンデレ?ヤンデレなの?わたしに対するヤンデレは地雷なんでお断りです。

 どういう訳か超兵器に懐かれてしまったぞぉ……?


 こいつぁ大変な事になったぞ……。

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