魔女魔法の話

 


 本日十月十日快晴なり。

 そしてそれは━━


「八歳(多分)になったぞオラァッ!!!

 魔法だ魔法だヒャッハーッ!!!」

「あァはいはい」


 わたしの誕生日(仮)である!念願の魔法だぜFoooooo!!!

 いやー思えば今まで長かった。最初はおばあちゃんにフルボッコにされていたのに今では拳ではなく足で対応してくれるようになったし、鉄下駄を履いても普通に歩ける。


 未だにおばあちゃんに傷はつけられないけれど確実に進歩している。

 鉄下駄は筋力を増やす為にどんどん重くなっていっている。最初の頃のわたしが履いたら一歩も動けないんじゃないかな。


 流石に二年も経てば変わるモンだね。

 ただ……わたしが憑依だったパターンの場合二年は大きい。特に学生の今は。


 実の所わたしはもう憑依じゃなくて本当に転生してしまったんじゃないかと思っている。

 憑依だったらもう解けてても良いんじゃないかと思うのだ。


 でも解けないし解ける様子も無い。おじいちゃんには悪いけれど諦めている節があります……。


「じャあ魔法について教えるが……何から教えれば良いンだろうな?」

「はい!はい!属性!」

「属性な。ちョッと待ッてろ」


 おばあちゃんが本棚から一冊の本を取り出す。開くと、中には十二の紋様?魔方陣?が描かれていた。

 この世界、文字はダメでも絵は良いらしい。文字の元って絵だからダメかと思ったよ。


「これが十二の基本魔法陣だ。上から順に植物魔法、風魔法、闇魔法、氷魔法、治癒魔法、雷魔法、炎魔法、時間魔法、光魔法、土魔法、水魔法、毒魔法だ」


 うわいっぱい。メジャーなのから変なのまで沢山あるけれどこれが基本らしい。

 魔法の組み合わせとか派生とかあるのかな?わたしは何が使えるのかな?わくわく。


「この内、風魔法、炎魔法、土魔法、水魔法の使い手が人口の約七割を占める」

「七割!?」

「また、そもそも魔法を使える奴が少ねェ。使い手とは言ッてもその属性を持ッてるッてだけの奴も含んでの七割だからな」


 へぇ、そうなんだ。確かに思い出せる記憶の中でも村で魔法を使っていたのは一人か二人だけだった。

 一人は水魔法の使い手でみんなの服の洗濯を、もう一人はわたしにファイヤーボールを投げつけて来たクソガキだ。


「あれ、魔女魔法は入ってないの?」

基本・・魔法ッて言ッたろ。魔女魔法は基本じャ無ェ、例外なンだ」


 わたしから浮き出た魔法陣も、おばあちゃんから浮き出た魔法陣もこの本には載ってない。

 魔女から浮き出た魔法陣は円形をモチーフにしていたが、基本魔法陣はしずく型だ。


「魔女魔法は別名『物語魔法』と言う。あたりが知ッてる限りだと『Mother Goose』『捜神記』『千一夜物語アラビアン・ナイト』だな。他にもいた気がするが思い出せねェ」

「確かに全部物語だね」


 捜神記はともかく他二つは元の世界でも有名な物語及び詩集だった。

 魔女は物語を元にした魔法が使えるんだね。確かに基本じゃない。


「魔女とは物語魔法の適正者だ。物語魔法は基本魔法と違い属性も無く、規模が大きく威力も高い」

「魔女以外で物語魔法の適正者はいないの?」

「昔はいたが今はいねェな」


 魔女と勘違いされて迫害された感じかな?

 もしかしたら現代でもいるけれど隠れているのかもしれない。


「強いのに頼られないで迫害されたの?」

「逆なンだよ。迫害の理由に強いから恐ろしいッてのがあるからな」

「う、うわぁ……」


 強さが故の孤独かな?ちょっと違う?確かに弱者にとって強者は恐ろしい存在だ。

 迫害ってある意味多数決での少数派をいじめているようなモンだからなぁ。強くても数には勝てない。


「魔女は大抵基本魔法は使えねェな」

「ん?前にわたしに治癒魔法をかけてくれた事無かったっけ?」

「あ?……あー、あッたな。あれは治癒魔法じャなくて魔女魔法だ」


 おばあちゃんは昔の事を思い出すように顎に手を当てて考え、思い出した。

 薄々予想はしていたけれどやっぱりか。詠唱がマザーグースだったし。


「魔女なら物語魔法が使えるんだよね?わたしがマザーグースを唱えたらその魔法が使えるの?」

「いや、同じ物語魔法の使い手でも使える物語は個人によッて違う」

「じゃあわたしがマザーグースを唱えても使えないって事?」

「そうなるな」


 えー、物語っていっぱいあるんだよ?その中から適正一つって難しくない?

 グリム童話、アンデルセン童話、イソップ物語集……挙げたらキリが無い。この中からどう探せと?


「ふぎぎ……おばあちゃんはどうやって適正を探り当てたの?」

「探り当てた?お前は何を言ッてるンだ?」


 え、わたし何かおかしな事言いました?言ってないよね?

 はてなマークで頭いっぱいのわたしの前でおばあちゃんが手から魔法陣を浮かび上がらせる。


「どぅえっ!?」


 魔法陣から更に本が浮き出て来る。何何何!?

 詠唱している様子も無いし魔法とは違うみたいだけれど、何これ!?


「ほら、ここに書いてあるだろ?『Mother Goose』ッて」

「ほんとだ」


 四方を留め金で装飾された紫色を基調とした立派な本は確かに表題に『Mother Goose』と書かれていた。

 今のは召喚魔法みたいだったけれど、違うのかな?


「あれ、おばあちゃん英語読めるの?」

「エイゴ?これに書かれている字は『エイゴ』ッて言うのか?」

「……え?」

「よく分からねェけどこの本に書かれた字だけは無条件に読めるンだ」


 中を見た感じマザーグースが沢山載っている。全部英語でだ。

 わたしはペンを取り出しながら言う。


「それに別言語で何か書いてみても良い?」

「やめろ!絶対やめろ!」


 おばあちゃんはわたしから本を庇うように抱き抱えながら壁の端まで逃げる。

 な、何で?わたし変な事する気なんて一切無かったのに!


「何だか無性に嫌な予感がする!」

「えぇ〜……?」


 本当にそんな気無いのに。ただ独語でOmaおばあちゃんと書いてみて、おばあちゃんが読めるか試してみたかったのに。

 おばあちゃん英語を知らないなら独語も知らない筈だし、テストになるかなって思ったのに……。


「そンなにやりたいのなら自分のでやれ!」

「ど、どうやって出せば良いの?」

「え?あー、基本的な事を伝え忘れてたな」


 おばあちゃんはわたしに外に出るように促す。陶器のお椀を伴って。

 普段は『割れにくいから』っていう理由で木のお椀を使っている訳だけれど、高価な陶器なんか使って一体何をするんだろう?


「良いか、魔法はな」


 おばあちゃんが地面に置かれたお椀を指差す。


「コレだ」

「陶器?」

「陶器と言うか、うつわだ」


 その横に井戸水が入った木製バケツがドン、と置かれる。


井戸水コレが魔力で、バケツコレがあたしだ」

つるぺたバケツボディ……?」

「違ェよ殺すぞ」


 おばあちゃん別につるぺたじゃないよね?どいんって感じじゃないけれどぽいんって感じだよね?

 具体的に言うとBカップくら━━


 ガッ!

「真面目に話を聞け」

「ふぁい……」


 片手で頭を鷲掴みにされた……怖い……。

 しかも頭がギチギチ言ってる……痛い……。


「はァ……話を戻すぞ。詠唱は器を形作るのに必要な事だ。それからこの魔法陶器魔力井戸水を注ぐ。これで魔法の完成だ。

 そしてこれを━━」


 おばあちゃんは陶器を振り上げ、落とす。

 自然の摂理重力に従い地面にぶつかって陶器は粉々に割れ、水浸しになる。


「こうする。これが魔法の発動だ。これが魔法の使い方のイメージだな。あくまであたしの感覚だが。

 さて、質問はあるか?」

「はい先生!他は良く分かったけれど魔力のイメージがイマイチ掴めません!」

「魔力、魔力な……」


 おばあちゃんの説明だと魔力が扱える事が前提なんだよね。

 だがしかし!わたしは全く分からない!何故なら魔法を使えた事が無いから!使えてたら聞く必要無かったんだけれどね!


 でもなんでわたしが魔法を使えなかったか分かったよ。

 普通の魔法の適正が無いから、詠唱を知らないから、魔力の使い方が分からなかったからだ!


「そうだな……じャあ今から魔力をお前に流してみるからこの手に触……あッたけェなお前の手」

「えへへ」


 子供特有のあたたかお手々。これに気付いた時、わたしも驚いた。

『小さい子の手ってこんなにあったかいんだ!』って。前世では冷え性だったから余計に驚いた。


「じッとしてろよ」

「うん」


 お手々の暖かさが全身にじんわり、じんわりと伝わって来る。

 あぁ〜気持ちが良えんじゃあ〜^ ^。……っていけないいけない、集中集中。


 ん、ん〜?うっ!?何ぞこれ、気持ち悪い!胃がムカムカするような、全身が怖気立つような……。その中に、何か反発する物があるような……。

 わたしは慌てておばあちゃんの手を振り払う。


「どうだ?何か感じるか?」

「うん!何か反発してる!気持ち悪い!ぅぇ……!」

「反発してる奴がお前の魔力だ。手に集めてみろ」

「う、うん」


 全身から手にぐいっと寄せるイメージで〜……マッサージの血行促進みたいなイメージでぇ〜……。

 う、集まっては来たけれど手が気持ち悪さのあまり汗ばんで来た。やだ……。


「それで、念じるンだ。『本出て来い』ッてな。因みにこれには詠唱は要らねェ。魔女の能力の一つみたいなモンだからな」

「う〜……本!出て来うわっ!!?」


 言い終わる前に魔法陣が手の上に展開、本が出現する。

 おばあちゃんと同じような立派な本で茶色を基調としている。デザインは違うけれど。


 そして、表題には『Grimmグリム Märchen童話』と書かれていた。


「やった!やったー!出たよ!グリム童話だって!名前の通りだったわ!」

「良し。お祝いに今日はあたしがスコーンを作」

「それは要らない」


 いやー魔女魔法の話を聞いていた時からヒヤヒヤしてたんだよ!

『わたしグリムって名前なのにアンデルセン童話とかだったらどうしよう』って!もしそうだったら非常にややこしい事になっていた。


 でもこれでやっとわたしも魔法が使えるね。

 寝る前にはしゃいで本を出し入れしていたら疲れて変な体勢で寝てしまった。何故だ。

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