第9話 秋人の第一声特集 ~その2 ※ネタバレ注意!
それでは前話からの続き、秋人の第一声特集です。
注意事項を再掲しておきます
・あいさつと呼びかけ以外の秋人の第一声を引用で抜き出します。世間話も除外したので随分喋ったあとのセリフを抜き出している場合もあります。
・完結済み作品に限る。連載中の作品は除外。
・複数作品を投稿されている方は、PVあるいは星の数から代表作と思われる作品のみ。
・第一話の投稿順。完結順ではありません。
・作者名の後に※が付いている方はフレーズ評価OKのタグ無。
・フレーズ評価OKのタグのない作品も引用紹介しています。引用転載に不都合がある場合はコメントください。速攻で削除します。
では、行ってみましょう!
◇◆◇◆◇◆
◇22「美冬さんにとって僕は、邪魔な存在だったかもしれない。でも、僕は良かった。美冬さんに会えたことを、僕は後悔しない」(紺藤 香純さん)
謎めいたやり取りをする美冬と秋人。しかもこの二人のものではない視点で話が進みます。せつなくて暖かさの残る不思議なファンタジー、最後まで仕掛けが凝っています。じっくり読み解きたい一作です。あと紺藤さんの二作目とのギャップを楽しむのもありかもですね。
◇23「この木で、いつも遊んだっけなあ」(増黒豊さん)
不思議なセリフを抜き出すことになってしまいました。どこかかみ合わない会話を重ねていく秋人と美冬。淡々と会話しているように見えますが……。柔らかい語りが印象に残る増黒さんの一作は、上手にヒントが仕込んであります。これも真似したい手法ですよね。
◇24「村を離れる前に、貴女の顔が見たかったんだ。貴女に会いたかったんだ」(桜月のえるさん)
桜月さんの秋人は美冬に対して飾りのない思いをぶちまけています。今回の企画では珍しい異世界ファンタジーものと言っていいでしょうか。世界観が独特かつ難解なので、セリフはストレートな方がいいみたいですね。
◇25「……雪なんて、久々だな」(いいのすけこさん)
ストレート系のいいのさんのお話。結局秋人は自分の訪問の理由をすぐ話さずに、昔話を始めてしまいます(しかも結構長い)。この流れの方が自然ですよね。今回の企画参加作、秋人が最初に自分の来訪の目的を告げるものと、一通り他の話をしてから「実は俺 ……」と言う場合の二種類がありますよね。ストレート系の話の場合は、昔話でワンクッション入れてから「実は」と切り出すパターンの方が多いようです。いいのさんの作品はお手本ですね。久しぶりの幼馴染相手に話をするなら昔話になるのはとても自然なことです。
◇26「美冬、町から出るぞ。すぐに」(文長こすとさん)
文長さんの作品の秋人は第一声で美冬を誘っています。というか命令していますよね。このパターンは極めて珍しいです。なぜ秋人は美冬に町を出ろと命令しているのか。綿密に作りこまれた文長さんのSFの世界観では、迫りくる危機に対する対処法として極めて自然なセリフなんです。しかも時間制限付き! 悠長に昔話しているヒマなんてなくて当然ですよね。必読の一作、イチオシです!
◇27「ちょっとだけ、話しておきたいことがあって来たんだ。その、昔のことなんだけど、いま言っておかないと、もう話す機会もないと思って」(竹神チエさん)
竹神チエさんの秋人のこのセリフも、実は第一声ではありません。前段に挨拶があって、猫の話があって、美冬の現況の話があって。用件に入るまでが長い長い……。しかし、急いては事をしそんじる。急がば回れ、です。竹神さんの作品はリアル寄りのファンタジー。ここで字数をケチったがためにリアリティを損っては本末転倒です。一見冗長にも見えるこのやり取りを入れておくことで、自然につながるようにしてあります。素晴らしいです。
◇28「突然、夜分にすまない。実は、いや、たぶんおばさんたちから聞いてると思うけど――」(Han Luさん)
Han Luさんの作品もリアル寄りファンタジーです。ファンタジー寄りのリアルかな? ポイントは秋人が来ることを事前に美冬が知っていたこと。美冬は秋人が何を言いに来るかもだいたい予想が付いているんですよね。この組み立てはとても自然ですが、他にこのパターンの作品はあまり見かけません。これ、みんなゆあんさんのレギュレーションの罠にハマってるんですよね。Han Luさんは昔話などのワンクッションを省きたいけど、序盤でリアリティを損いたくない、ということで、ひと工夫されました。お見事です。勉強になるところです。
◇29「実を言うと、俺、もうすぐ旅に出るんだ」「それでさ……その前に、どうしてもお前に渡したい物があって」(雨野愁也さん)
秋人の一人称視点で進む雨野さんの作品の前段です。秋人の一人称視点は珍しいですよね。ただ後段は三人称視点に移ります。……すみません。これ以上はネタバレを回避するのが難しいです。あとは読んでみてくださいとしか。
◇30「あのね、みいちゃん、今から話すことは誰にも言わないでほしいんだけど」「実は俺、明日、母さんと家を出る」(楠瀬スミレさん)
レトロモダン調、昭和が舞台のすみれさんの作品、映画館、路面電車と言った時代を映す小道具を巧みに使って雰囲気を盛り上げています。このあと秋人が町を出る理由もレトロと言えばレトロですよね。お話自体はストレート系なので、このセリフが出る前に他愛ないやり取りと昔話がたくさん。幼馴染なら自然ですよね。
◇31「まだ飲めるかい?」(ゆうすけ)
普通に書いたつもりでしたが、こうやって並べてみると私の作品の秋人の第一声、かなり異彩を放ってますよね。これ、美冬がカフェバーやってるという設定が特殊だからなんでしょうか。このあと美冬が「よくへーきな顔して私の前に出て来られるわね!」といきなり罵倒し始めるのも他の方の作品ではあまり見かけません。おかしい。ストレート系書いたはずなのに。
◇32「いやぁ悪い悪い。久しぶりに窓がら来たぐなって。泣ぐな。こっだらどごがら美冬に会いに来るの俺ぐらいだべ」(@muukoさん)
めくるめく津軽弁ワールド! もうこれだけでインパクト十分です。ストレート系のストーリーへの味付けはたくさんの方がさまざまな手法でやっておられますが、方言で味付けすると、素材に変なクセを付けないでぐっと物語に立体感出せますよね。@muukoさんの作品はドストレートですので、方言効果がよく分かります。
◇33「明日、この街を出るんだ。朝九時の電車で。だから美冬に会えるチャンスは本当に今日が最後だと思って」(國枝藍さん)
巧みな構成でせつないファンタジーに仕立て上げた國枝さん。ここだけ読むとものすごく普通な、どちらかというと面白みのない秋人のセリフですが、その仕掛けが明かされてから読み直すと……。このセリフの前に、秋人がいなくなった理由を問いただす美冬に対して、秋人がきわめて平凡に答えていますが、それも仕掛けの一つなんですよね。この國枝さんの作品に出てくる秋人のセリフのほとんどには裏に葛藤が隠れています。深くてせつないです。
◇34「美冬は何も悪くない。悪いのは、俺だ」(泡沫希生さん)
泡沫さんのファンタジー。期せずして國枝さんとせつない系ファンタジーの名作が連続しました。この泡沫さんの作品では、この美冬との対峙シーンが出てくるのがラスト寸前というのも異色です。先に秋人の苦悩と疎遠になったところをたっぷり描写している、というかそっちがキモなんですよね。だからこそ、対峙シーンからラストまでの展開に息をつく間もありません。最後は泣けます。素晴らしい。おススメの一作です。
◇35「それに、もうこの町に戻ることはないから、今までありがとうな、って。ばっさり振られたよ。もうばっさりと」(薮坂さん)
ストレート系の皮をかぶった薮坂さんの青春群像劇。美冬と秋人の対峙シーンを直接書かずに、第三者に対して美冬が説明するという形で登場します。ですからここに挙げたセリフは秋人ではなく美冬のものなんですよね。参加作の中では唯一の構成です。これはお見事。で、このような構成になっているのにも、ちゃんと意味があります。しれっと書いてありますが、ものすごく高度にテクニカルな作品なんです。平易な筆致に騙されてはいけません。企画参加作の中でも一二を争う技巧派作品です。しかもセルフレギュレーションをきっちり消化してくるあたり、ただものではないですね。それもそうですが、仕掛けをその途中で見破る読者さんが少なからずいることにも驚愕しました。必読の一作です。
◇36「いや、昨日逢ったばかりじゃないか! 『赤紙が来た』って……」(魔女っ子★ゆきちゃん)※
ものすごく不穏な気配を漂わせる魔女っ子★ゆきちゃんさんの秋人の第一声。ただまあ、この作品、万人にはおすすめしづらいのも確かです。極端に読む人を選ぶ内容、構成、そして表記。読者に一切媚びずに、ひたすらわが道を突き進む魔女っ子★ゆきちゃんさん。その生きざまに共感できる人だけに読みに行ってほしいと思います。私は少なくとも嫌いではありません。
◇37「上京するって、言いにきた」「止めても無駄だよ」(雪白さん)
ストレート系青春ストーリーの雪白さんの作品。散文詩のような短くてきれいな描写で幼馴染の恋愛模様を刻々と記します。いやあ、変に筆致企画ずれしてしまうとこういう真正面から直球のお話は書けなくなってしまいますね。私だけかもしれませんが。おそらく今回の企画参加作の中で最もレギュレーションに対してまっすぐ正対して書かれた作品なんじゃないかと思います。秋人の第一声も、まさに核心を突くコアな一言です。
◇39 もっと早く来られればよかった、と秋人は表情を曇らせる。(あかいかわさん)
前作葉桜の君にの世界観を引き継いだとても幻想的な物語です。秋人と美冬の会話も実際の出来事なのか、それとも別の登場人物の書いた手紙に記された物語の一部なのか。何が真実で何が虚像なのか。その境界線がすごく曖昧です。ある意味最もファンタスティックなファンタジーでしょう。不思議系ファンタジーの好きな方におススメの作品です。
◇40「すみません、美冬……さん」「どうしても少し、お話がしたくて」(蜜柑桜さん)
幼馴染にしてはえらい硬いセリフだな、と思われた方、鋭いです。この作品のキモになっているところですね。ストレート系の王道を堂々と書いた蜜柑桜さん。ですが、舞台設定の味付けが効いています。このセリフの硬さもその味付けの一つ。本文をご覧いただくと丁寧に料理されたストーリーだということがよくわかります。
◇◆◇◆◇◆
圧倒的に字数オーバーしてもまだまだ終わりません。あと十作品……。
次回に続く……。
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