37話:踏み出した先


目が覚めたら、列車の中だった。ガタンゴトンと、300年前は何度も体験した音。それに揺られながら、アスカは「は?」と呟いた。半ば呆けたまま、周囲を確認する。そこには、自分を見張る人間の姿があった。


「……ねえ、変質者さん? いつの間にか着ている服が変わってるんだけど」


「それは誤解よ。一応だけど、私が着替えさせたから」


見張りの3人の中では紅一点の、茶髪の女がアスカに苦笑を返した。まるで言うことを聞かない娘に接するように、上から目線で。アスカはその態度を鼻で笑った後、見覚えのある残りの二人を睨みつけた。


「アンタ達は、あの時援護に来てくれた……途中で混ざったのはただの前フリ?」


危ない所だから感謝していたのに、と恨めしい声を出すアスカだが、男二人は何も答えず嘲笑うのみだった。その態度に苛立ちながら、アスカは周囲を見回した。


(客室じゃない、コンテナの中? 拉致する奴らだから当然と言えば当然だけど……)


どこを走っているのか分からない。見た所で理解できる気もしなかったが、何が目的かを探らなければならない。アスカは緊張しながら、間食だろう串焼きを食べている男に向けて話しかけた。


「到着する前に予習が必要とは思わない?」


「思わない。お前より、この串の美味さが重要でな」


「私はそうは思わない。何の用があるのか、って所が気にかかってしょうがないのよ。勝利者インタビューならいつでも応じるけど」


「なに、ちょっと旅をしようって話さ。一日もかからない短い旅だ、休息がてら楽しんでくれると有り難い」


「そうね。環状線一周の旅なら、それぐらいかかるか」


「生憎と、お前程度に余分な金を使うつもりはないがな」


「だが、光栄に思え。お前に会いたいと願っている人が居る。……天真昭人の妹であるお前に、な」


不本意だが、という顔をする男達。アスカは間抜けが、とほくそ笑んだ。


同時に、事態の厳しさを悟ることになった。


(誰が妹よ、って所は置いといて……環状線という点では否定されなかった。恐らくは鶴橋から電車に乗せられた、のよね……それだけの力を持っている組織に私は拉致されているのか)


金か権力に物を言わせたのだろう、いずれにしても愉快ではない事態だった。そこでアスカは、服を失っている事態への必然性について考え始めた。


だが、情報が少なく判断できる材料がない。アスカは忌々しいと内心で舌打ちしながらも、出来ることはある筈だと会話を続けた。


「それで直談判をせずに、戦闘が終わった後に不意打ち? それも二人がかりで女一人を? ただのこそ泥の腰抜けじゃない」


「……」


男は答えず、食べ終わった後の串を投げつけた。串はアスカの頭に当たった後、床に転がる。汚いと思いつつも、アスカは男が苦い顔をしているのに気が付いた。挑発はまるきり効果が無い訳ではなさそうだ、と。


だが、男は途中で舌打ちをして女の方を見た。それを見たアスカは「念話で釘を差されたな」と忌々しげに女を見た。ストッパーが居るのであれば、これ以上の情報は引き出せず、脱出の取っ掛かりを作るのも難しいと判断したからだ。


ならば、どうすべきか。アスカは現状を改めて確認した。


(武器はない。収納から取り出すのも無理。方陣の展開も阻害されてる。コンテナの入口は進行方向の一つだけ)


まるで見られたくない荷物があるかのようだった。それはなんだ、私だ、とアスカは察すると同時に訝しんだ。何故自分なのか、という点だ。電車での移動は途方も無い金がかかるという。繁忙期になるとたった一駅で一人500万もかかるらしい。金だけではなく、駅を運営している中央府とのツテやコネが必要になると聞いたことがあった。


気絶させられてから、そう長くは経過していないだろう。なのに目の前の誘拐犯達はその短時間でコンテナを一つ予約できた。それほどの権力と資金力を持っているということだ。


(恐らくは、セロの師匠が所属している組織。狙いは私……じゃなくて、昭人のことか)

アスカは弟の昭人が何をしたのかは知らない。だが、相当に深くヤバイ何かをしでかしたという事だけは肌で感じていた。


(念話は…………通じないか。予想はしていたけど)


ジャミングをする術があるのだろう。途中までは飛んでいる自覚があるが、途中でかき消されているような感覚がする。内心で舌打ちをするアスカに、女は告げた。


「お仲間なら来ないわよ。今頃は貴方の死を悲しんでるんじゃない?」


「……何をした? いえ、死亡を偽装して追跡を振り切ろうってハラね。つまり、アンタ達はラナンとかいう女の部下って所かしら」


「っ?!」


「黙って。……肯定も否定もしないわ。でも、何を根拠にそう思ったのかしら」


「気を使いすぎなのよ。それなり以上の力を持つ組織で、セロへの対応に配慮している姿勢。底抜けの間抜けだって分かるわ」


推測4割を含んでの指摘。だが、3人の反応は図星を突かれたそれだった。女が、忌々しげに舌打ちをした。


「嫌になるほど頭の回転が早いわね。でももう遅い、アンタは終わってる」


「……まだ生きてるけど」


「今は、ね。でもあなたはあの場所で死んだことになってる。そして運ばれた先で、貴方は死ぬの。あの御方の様子を見るに、それだけは間違いない」


断定するような口調。嘲りが含まれたそれに、アスカは更に訝しんだ。ラナン達と同格ということは、自分だけではない、セロであっても及びもつかない程の力量の持ち主なのだろう。それだけの人間がどうして昭人のことに興味を示すのか。


(……多分だけど手紙の事ね。あの時はほとんど読めなかったけど)


アスカは境内で見つけた自分宛の手紙のことを思い出していた。文章のあちこちが黒く塗りつぶされていた奇妙極まる手紙を。


文面から解読できたのは、二つだけ。一つは、この世界がゲームのような空想の空間で起きているものではないこと。もう一つは、世界が滅びの危機に瀕していること。


どういった意味かはアスカも分からない。ただ、最後にこう書かれていたのだ。“世界を救ってくれ―――あるいは、壊せる者を探してくれ”と。


冗談なら悪趣味だ。だが、本気であって欲しくないとアスカは感じていた。本当であるなら、それこそ世界に関わる程の大問題になるから。


(違う、惚けるな。間違いなくそれだ。こうしてまで浚う価値なんて、昭人の事以外に考えられない)


ならば、真実なのだろう。終わっているという言葉も。到着するまでに逃げないと、自分は死ぬ。上役の強さを考えると、電車に居る内だけがチャンスだ。


両手両足を縛られていても、どうにかして。そう考えた途端、アスカの身体に力が入らなくなった。まるでどこかから力を抜き取られているような。そのまま気絶しそうになったアスカは下唇を噛んで絶えた。


「これ、は……アンタの仕業ね」


アスカが、気絶する前に自分の顔を掴んでいた男を睨みつける。男は肩を竦めながら、ため息をついた。


「掌握って知ってるか? 自分が学んでいる合気の奥義でね。それは相手の動きを全て把握しコントロールする、という状態なんだが――」


「対象の顔を掴み、数秒間維持する。その条件を満たした時に発動する心戒わざってことね」


「ご明察。効果は三日間、俺が死なない限り続くよ」


告げられたアスカは、自分の身体から心素が抜けていくことに気が付いた。上手く練ることもできず、強化も通じない。こっそりと試した念話も同じだった。


動きを封じて、心石による作用まで完封されている。執拗なまでの仕打ちに、アスカは内心で舌打ちをした。


「徹底しすぎ。そんなに私が怖い?」


「自惚れ過ぎだね。アンタ程度、物の数じゃない」


「ならショウゾウを倒せば良かったじゃない。割って入るのを怖れた、ってことはそういうことでしょ?」


アスカは意識しながら嫌な女らしく、侮蔑たっぷりに感情を乗せてこき下ろした。返ってきたのは、つま先だった。腹にめり込んだそれが肋骨に罅を入らせる音を聞いたアスカは、たまらずに咳き込んだ。


「ヒロヤ!」


「分かってる。……これだから天才は嫌なんだ」


こっちの気持ちをまるで理解しちゃいないと、ヒロヤと呼ばれた男が顔を歪める。女も同様のようで、憎々しいという感情を隠そうともしていない。それでも戦闘態勢は解かず、必要以上に近寄って来ない。その様子を見たアスカは咳き込みながら、力量を図っていた。


(間抜けじゃない、鍛えられてる。年齢は20に届いていないし、カイセイのような老獪さがない……でも、甘くもない)


正しい教えの元で念入りに戦い方や動き方を叩き込まれてる使い手だ。付け焼き刃で3年、戦ってきた自分が正面から相手取るには厳しすぎる。


一対一ならともかく、3人を相手にしたまま一人で脱出するのはほぼ不可能。ならば、と考えた所でセロ達が来る筈もない。3人の言葉が真実ならば、自分は死んだと思わされている筈。その上、ここは電車の中。上流階級や組織、使い手の中でも上澄みしか利用できないこの場所で揉め事を起こせばどうなるか、馬鹿でも分かる話だ。


組合の有名な者や、勇者連合の精鋭達も同乗している可能性が高かった。そこで騒動など、起こした所で瞬殺されて終わりだ。あの荒野よりも死地に近く、9割9分無事に済まない。それが分かっているから、この3人は警戒しながらも余裕を見せているのだろう。自分も同意する、まさか追ってくる筈がない。


奇襲に成功し、逃げおおせた所で指名手配されるのは確実。賞金もつくだろう、まずもってまともな道には戻れない。


なのにどうして、もたれかかっている壁の向こうからノックの音が聞こえるのか。


うっすらと、幻聴まで聞こえるのか。


3人も気付いたのだろう、コンテナの入口がある方向に武器を構えた。


――直後、コンテナの横から飛び込んできた光が壁に孔を開けると、そのまま反対側へと抜けた。


「アレイン!」


「分かってる!」


アレインと呼ばれた女がアスカの所へ駆けつけようとするが、一歩遅い。そこにはもう、反対側の孔から入ってきた人影がアスカを守るよう立っていた。


灰色の髪に赤いバンダナ、腰にかけた剣。見間違う筈もないその背中に、アスカはため息をかけた。


「……バカ。あほ、見た目詐欺、老け顔」


「いきなりの罵倒ありがとう。……本物だな」


「でも、どうやって」


「偽装の死体はティーラが看破した。“ほくろの位置が違う”ってな」


念入りに治療するフリをして確かめたらしい。そこから紆余曲折、絞り込んだ挙げ句の賭けだったことまで。誘拐に電車を使うかどうか、最後まで確証を得られなかったが、運が味方したと。


アスカは怒りに歯を軋ませながら、震える声で答えた。


「捕まった間抜けが一人……放っておけば良かったのよ。列車襲撃の意味、本当に分かってるの?」


「間に合わないのは二度とゴメンだ」


肝が冷えたよ、とセロは3人の敵を見据えた。ゆっくりと剣を抜き放ちながら心素で全身を強化していく。


腕に、足に、目に、鼻に、肌に、心臓に、フェイクだとしても死体を見せつけてきた相手への怒りに。


アスカは見た。コンテナの中に広がっていく、セロのフィールドを。


(これは……私が現出リアライズの域にたどり着いたから? セロがしている事が、今なら分かる)


それは透明な心素だった。セロから発せられ、相手を包んでいる。どういうことか、尋ねるべく手を伸ばしたアスカはびくりと身体を震わせた。


気が付いたからだ。セロが、今までに見たことがないぐらいにキレていることに。














ここまで愚か者だとは思わなかった。それが、3人の感想だった。列車内での騒動は厳罰だ。自分達であっても許されない、指名手配からの死刑は免れない重罪だった。


このままでは、目の前の男は死ぬだろう。夢姫ラナンキュラスが気にかけていたこともあり、それは拙いと3人は考えていた。


『説得するか。……アレイン、頼む』


『ったく、しんどい役目はいつも私か。ヒロヤ、外に一人居るみたいだが―――』


『マサシゲに任せる。マサシゲ、牽制だけでいい。掌握はまだ続けてくれ。俺はアレインのフォローに入る』


外に気配は一人だけ、説得に応じてくれればまだやり用はある。ここでこの男を殺して、自分達の主を含む派閥が夢姫に睨まれることは避けるべきだとヒロヤは判断していた。


アレインも同感のため、説得を始めた。標的の前に仁王立ちになり、こちらを見ている男に軽い感じで話しかけた。


「オッケー。私達の素性を明かそう。なんと、アンタの師匠……ラナン殿と同じ組織の者だ」


「つまり、カイセイとかいう爺さんの部下か?」


「……なんでそこであのクソ野郎の名前が出てくるかは分からないけど、違う。また別の派閥でね。でも、ラナン殿の事は尊敬している」


?」


告げられた言葉に、アレインが絶句する。反射的にヒロヤが剣を抜こうとするが、それを止めながらアレインは会話を続けた。


「手違いがあったという事だ。そこの女性は私達の悲願を達成するために、重要な情報を握っていてね。少々強引な方法になったことは謝罪するが、ラナン殿のためにも必要な―――」



呟くような、小さな声。


だけど、鼓膜の奥の奥にまで届いているような。


同時に、アレインは悟った。もうやり合うしかない事を。濃密極まる殺気が、自分達を包み込んでいく。師匠で慣れていなければ平常心を失っていただろうという程度に。


それでも踏みとどまれる程度に鍛えられていた3人の意識が、交渉から戦闘に切り替わる。いかに早く、効率良く殺せるかどうか。骨身にまで染み込まされた鍛錬の結晶は、遠距離攻撃による封殺を選択した。


アスカを庇う他に選択の余地はないと、構え。


次の瞬間、アレインの両腕が切り飛ばされ、鮮血が空中に舞った。









赤い液体が頬を撫でる。生暖かいそれを完全に無視しながら、セロは次の相手を睨みつけた。視線の色が変わる、生け捕りから抹殺のそれに。遅すぎると、握った剣を振るった。

セロは既に皆殺しの体勢だ。怒髪天という段階を越えていた。決定的だったのは、アスカが蹴り飛ばされてから。ほぼ同時にたどり着いていたセロはアスカの苦しい声を聞いていた。踏み込んだ後、血が混じった唾液が唇の端から流れているのを見た。


もう戦争だろう。その決意に至っていたセロは、容赦を捨てていた。


一歩、床が軋む程に強く踏み出す。繰り出すのは大ぶりの一撃だ。剣の重心を捉えたまま遠心力に任せ、しなやかに鞭のように。振るった横薙ぎの一閃。それはすんでの受け止められたものの、関係ないとばかりにセロは勢いのまま相手を吹き飛ばした。


男が軽いボールのように吹き飛び、壁へ。激突してコンテナが激しく揺れるが構わず、セロは距離を詰め、その勢いのまま前蹴りを顔面へと叩き込んだ。


足の裏から硬い肉の感覚が返ってくる。確かめるように三度、繰り返して踏みつけた。ずるりと、血の跡と共に男が崩れ落ちる。


最後の一人は絶叫していた。何事かを叫び襲いかかってくるが、遅い。


伸ばしてきた手を切り飛ばし、ニノ肘を切り落とし、最後に肩口から心臓にかけて刃を組み込ませた。


ごぼり、と口から大量の血を吐き出す。ごとりと斃れ、それが最後だった。セロは前に進む。背後から声が聞こえるが、それよりも焦燥が勝っていた。


ここで遅れれば、先日に見たあの光景が繰り返される。間に合わず、大切な仲間が永遠に奪われる。セロの頭の中にあるのは、その事に対する恐怖だけだった。


「待、て……お前、ラナン殿、からの恩を……」


「あるが、お前じゃない」


セロは真実だけを答えた。真実を語っていようが構わない、こいつらは奪いに来たのだ、ならば応戦しないという教えをセロは受けていなかった。


言葉の中に嘘を含めることは可能だ。それこそ、その気になればいくらだって。話しかけ、惑わしてくる輩は多い。そんな相手への最善策は、何かを話す前に殺すこと。交渉の余地が残っているのならば別だが、事態はその域をすでに通り過ぎていた。


脳裏に過る、アスカの服が着せられた死体のこと。こうして実際に見るまでずっと、頭に焼き付いて離れなかった。もし本当に死んでいたらと、震えていた。


だからこそ、あの偽装を施した相手が許せなかった。何をいわんや、覚悟ができていたのだろうと。残るのは殺意だけだ。これ以上、殺される前に殺すしかない。



「ま……待って、セロ!」


「……何を?」


「み、皆殺しをする前に、目的を……!?」


アスカの声に驚きが混じる。セロは慌てて前を見た。そこには、ポーションがかけられた女の姿があった。


切り飛ばされた腕が復元している、恐らくはランク5以上の高級ポーション。数秒も経たずに完治した女は、収納していたのだろう短刀を両手に持ちながら宣告した。


「――殺す」


「遅えよ」


今更かと、セロは剣を振るった。小手調べの振り下ろしの一撃、女はそれを交差させた剣で受け止めた。


衝撃に電車が大きく揺れる。足場を崩したセロに好機と見たのか、女は瞬時に間合いを詰めた。足腰が強くなければできない動作だ。


セロは舌打ちしながら払うように剣を振るった。力は入れず、速度を重視した牽制の連撃。女は手に持った剣でそれを受け止めながら、前に、前にと進んだ。


(短刀か。それも、かなり高級な)


拵えを見るに、相当な業物だ。心素で強化したとして斬りつけられればひとたまりもないだろう。それを一つづつ、丁寧にセロは受け止め、威力を横に逸らしていった。


軽量物の武器による連撃は、調子に乗らせると止められない。対処するには、正面から受け止めずに斜めに受けて衝撃を逃がすことだ。それにより相手の体が流れ、重心も乱れていく。


無理を続ければ、終わりはすぐに見えてくる。案の定と大ぶりになった一撃をセロは狙いすまし、短刀を持つ手ごと切り飛ばした。


(だが、それは囮。本命は逆の手で………?)


セロは訝しんだ。たかが片手を切り飛ばされたぐらいで、女が叫び声を上げながら倒れ込んだからだ。痛い、痛いと転げ回っている姿をじっと見つめながら、セロは眉をしかめた。


この程度の傷、止まるにも値しない。油断を誘うための手段でしかないのに、目の前の女は本気で痛がっているようだった。


どういう意図が、とセロが警戒をする。


直後に、コンテナの天井が爆ぜた。セロは障壁でアスカを庇いながら、油断なく構える。そこに飛び込んできた、赤色の髪を持つ筋肉質の男に向けて、睨みつけるように。


男は周囲を見回した後、腕を回しながら告げた。


「この状況から察するに―――お前だな。騒ぎの原因は」


死人の男が一人、血まみれの男が一人、泣きながら転がっている女が一人。言い逃れは無理だな、と呟きながらセロは大きく頷いた。


「そいつらの敵、という意味ならそうだ。で、お前は何者だ?」


「お前の敵さ、殺し屋」


赤い髪の男は両腕を斜め上に掲げた。収納から取り出されたのだろう、強固かつ物々しい手甲が二つ、男の拳を覆っていく。同時に練り上げられた心素が、一気にセロのそれを上回った。



「――勇者連合ユニオン所属、カテゴリ・グリーン、現ランキング30位。違うな、未来の戦士長と呼んでくれ」



轟と拳を打ち鳴らし、獣のような笑みを浮かべながら、鬼のような男は告げた。



「倒神流が師範代、鳴神猛なるかみ・たけし――いざ参るぜぇ!」



挨拶代わりの正面からの一撃。



セロが繰り出した迎撃の一閃と交差したそれは、電車全体を大きく揺らし始めた。



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