24話:荒野を往く(3)
しまった、と思った時にはもう遅かったことをアスカは悟った。最初にナイフを取り出した右手、次に左足、方陣を展開した左手、最後に右足、あちこちから伸びてきたはアスカの動きを一瞬で奪った。
(っ、首、くる、し………!)
喉ごと締め付けられアスカは、朦朧とし始めた意識の中でナイフを落とした。
近くでティーラの悲鳴が聞こえるも、アスカは意識を繋ぐだけで精一杯だった。遠くからセロが叫ぶ声が聞こえるも、何もできないまま、されるがままに。
そうしてアスカの意識が戻ったのは、数分後のことだった。木と瘴気の臭いに咳き込んだアスカは、ここが何処であるかを知った。
(ま、さか……あのトレントに捕らえられた!? だめ、逃げなきゃ―――)
アスカは強化した手足を動かし、蔦による拘束を外そうとした。だが、蔦はほんの数ミリ伸びるだけで、とても千切れそうになかった
(それだけじゃない、吸われてる? 強化が上手く働かない………!)
力が入っている感覚がないのだ。締め付ける蔦から、どんどんと心素が失われていく。方陣を展開しようとするも、途中で霧散するばかり。現状を知ったアスカの顔が、蒼白を通り越して土気色になった。
(情けない、あの分だとティーラちゃんまで……!)
自分のせいだ、とアスカは暴れ始めた。落ち込んでいる暇などないと考えての行動だったが、結果は先程と同じで、アスカは抜け出せる糸口さえ見つけることができなかった。
(そうだ、セロは……ダメだ、音しか聞こえない)
ビルボード・トレントの木の壁はそう厚くないため、アスカは木の外の音はかろうじて聞き取れた。だが、状況把握には不足過ぎた。注意して聞いて分かったのは、まだ戦闘中だということだけ。
どちらが優勢なのか全く分からなかったアスカは、力の限り暴れ続けた。自分を捕まえているこの個体も、中で暴れられれば戦いにくいだろうと思っての行動だった。
このまま押さえていれば、きっとセロが。そう思ったアスカの視界は急に切り替わった。森と、戦っているセロの姿が視界に飛び込んできた。
(これは――この個体の見ている光景? 意図的、だとしたらビルボード・トレントの隠された能力か)
何らかの共感能力らしい、とアスカは推測した。だが、自分の視界に映しているのはどういった理由なのか。そんなアスカの疑問は瞬時に示された、分からせるためだと言わんばかりだった。
見えた風景は森の中。自分が気を失っている間に移動したのだろう、とアスカを察した。だが、何よりも重要なのは戦況だ。森の中、木々の間をビルボード・トレントの鞭は“支配”していた。占領下で支配している、そうとしか思えない鞭の飽和攻撃が走り回っている灰色の男目掛けて繰り出されていた。
(セロ! こ、この数、いったい何体が出現して―――!)
5体どころじゃない、最低でもその倍は居る。先程のような弱い個体ではない、ランク6の中級に相応しい強さを持つ魔物が、セロに向けて集中攻撃をしていた。
アスカはビルボード・トレントの視界になって分かった。これは、あまりにも楽すぎる仕事だ。遠距離攻撃を持っていない人間を一人、仲間と協力して遠間からただ一方的に嬲るだけでいい。
硬い木が削れ飛ぶほどの威力だ、何度も当てられればダメージも重なる、直に動けなくなる。その厭らしい戦術が、視界に映るセロに向けて執拗に行われていた。
頬に、頭に、腕に、足に、攻撃が当たった跡が見える。それでもセロは諦めず、木々を遮蔽物として利用しながら大量のビルボード・トレントに挑み続けていた。
ステップを踏み、フェイントを駆使して鞭の嵐をかいくぐる。目にも止まらないトリッキーな動きで迫ってくる、だけど最後の一撃が届かない。上空からの葉の攻撃は密度が高すぎるためだ。回避する一手は不可欠で、その隙を見せたセロに何十もの鞭が殺到する。
また、新たに傷が増えた。鞭の痛みにセロの顔が歪む。だが、膝を屈さずにセロは動き続けた。必死の形相で自分たちに向けて、何度も、何度も。
(っ……!)
どうして私はこんな所で動けなくなっているの、とアスカは歯を強く噛み締めた。自分が殺したようなものだからだ。ティーラも、セロも、自分が十分に警戒をしていればこんな目に合わせることはなかった。
苦し紛れか、セロの投げたナイフが奇跡的にこちらに届いた。目前の木壁がカコン、と鳴る音をアスカは聞いた。だが、何に繋がるでもなく。表皮を傷つけるだけに終わったナイフは、地面に落ちていった。
見せつけられた光景を前に、アスカはただ悔し涙を流すことしか出来なかった。
(セロさん……!)
ビルボード・トレントの猛攻が止まらない。回避しきれる筈もない、雨のような攻撃がセロを打った。鞭のような枝だ、飛び上がるぐらい痛い筈だ、昔には刑罰になったぐらいだ。なのに、それを受けたセロは止まらない。頭から血を流し、皮膚が腫れ上がるぐらい打たれようとも。
意識が朦朧としていたティーラは、目から涙を流していた。何かを深く考える余裕もなく、怯まないセロの姿を、ただ応援していた。
目が慣れたのだろうか、セロは障壁による防御を多用することで攻撃をやり過ごす方法を見出し、攻撃の雨をかいくぐって間合いを詰めることに何度も成功していた。
だが、最後の一手が届かない。決め手の一撃を放つ隙がないからだった。硬い表皮を砕くためには、タメが必要になるが、トレントの猛攻を前にその隙が作れない。
耐えようとしてもその度に吹き飛ばされていくだけ。血飛沫が舞い散る様子が、トレント越しにティーラの視界に入った。焦っているのか、セロの動きが段々と荒くなっていく所まで見えるように、鮮明に。
ダメ、とティーラは呟いた。とにかくこのままじゃ絶対にダメだと。
(せめて………届いて、私の
はっきりとしない意識の中、ティーラはとにかく心素を練り上げた。エルネードの血に代々伝わる
とはいえ、ティーラ本人も出来るとは思っていなかった。ビルボード・トレントの視界を通じての治療など、だが。
(っ! やった―――届いた! セロさん、まずは落ち着いて)
少しだが、傷が癒える。何が起こったのかとセロが驚き、トレントを見て。
その直後、セロはティーラ達に背を向けて全力でこの場から逃げ出した。
「―――え?」
ティーラの口から、信じられないという声が響き。
味方が居なくなった二人が気を失ったのは、その数秒後のことだった。
ぐらぐらと揺れる視界、動かない身体。アスカは不快極まりない目覚め方をすると、ぼんやりと目を開き、呻き声を上げた。
(ぐ、っ………ここ、は?)
どこだ、とアスカは言おうとしたが声にもならなかった。視界は晴れず、ぼんやりとしたまま。アスカは自分を包んでいる木がゆっくりと動きながら揺れていることから、どこかに移動中であることだけは分かった。
だが、考えがまとまらない。どうして、とアスカは考え、鼻に訴える悪臭を前にその理由を理解した。
(この、臭い……これは、あの猿の、糞の?)
投げつけてきた糞から臭った、毒がありそうだったアレに似ている。アスカはその臭いを元に直感的に悟った。ビルボード・トレントが長期間、獲物を拘束できている理由を。
瀕死になった人間を相手に栄養素だけでは不可能だ、心石使いならば人によっては状況を打開する。それを封じているのが、この糞だ。
恐らくだが、この糞の臭いには一部の神経系を麻痺させる成分があるのだろう。そして、あれだけの数が居たことから、森は猿の縄張りということも分かる。ビルボード・トレントはそこを間借りして、臭いを取り込むことで利用しているのだろう。
(道理で、あの時に探知が働かなかったはず……その前にも兆候はあったのに)
最初の一体の老トレントだ。あの時も察知に手間どり、もう少しで奇襲を受けるところだった。
(違う……そんなことを反省している場合じゃない。こいつらは、一体なにを)
木の中に閉じ込められているとはいえ、気配はうっすらと分かる。アスカは周囲にこのトレントの同類が集まっていることを察し、何が目的で、と訝しんだ。
推察を重ねるも、聞こえるのは葉がざわめく音だけでは何も分からない。そうしている間にもアスカの心素は吸われ続け、残量は全体の半分以下になってしまった。
このまま吸われ続ければ、一体どうなるのか。アスカは嫌な光景を想像してしまい、吐きそうになった。必死で脳裏から追い出す。申し訳程度の肉とぶよぶよの皮だけになってしまった、見るも無惨な吸殻の姿を。
(……まだ。まだだよ、チャンスはある筈。今は落ち着いて、ティーラちゃんも捕まってるんだから)
一人で悲劇のヒロインをしている暇などない、何とか打開策を見いださなければ。そう考えたアスカは必死に頭を回転させ始めたが、すぐに中断せざるを得なくなった。
再び、自分の視界とトレントの視界と繋がったからだ。そして、見せつけるように開かれたビルボード・トレントの中に彼女は居た。
狩人として活動し始めた頃、少しだけ話したことがある程度だ。名前は、ユミと言ったはず。ボリュームのある牛のような大きな胸を自慢する所は苛ついたが、酒を飲む度に大言壮語になる彼女のことを、アスカは嫌いではなかった。
私には夢がある、と彼女は言っていた。
自分にもあるんだ、と別れ際に告げた。
―――その彼女は、此処で終わっていた。誰が見ても疑いようのない見るも哀れな有様で。
なんで。なぜ、どうして、こんなことが。
鈍い重みをかけられたアスカの心が軋み、その両目から涙がこぼれた。あまりにも、あまりにもな光景だったが故に。
そこでアスカが壊れなかったのは、圧倒的にリアルな光景を前に、恐怖が入り混じった絶望と共に彼方へと忘れようとしていた言葉が浮かんで来たからだ。
数少ない家族、弟である
都合のいいことばかりは起こらない、確率により支配されている当たり前の現実なんだと。
言われずとも分かっている。アスカは読んだ時にそう思った。
(でも、だけど、私は)
だが、どこかで都合の良い解釈をしていなかっただろうか。アスカはそう呟いた。
―――心石という、空想の世界にしか存在し得ないものがまるで降って湧いたように存在している。
―――ゴブリンやコボルト、ゾンビといった小説の中に出てくる通りの魔物出てくる。
―――冒険者に捕獲され、絶体絶命だった所を自分の力で切り抜けることができた。
だが、この世界は現実だ。どうしようもなくという言葉が適している、理不尽がそこかしこに転がっているリアルだ。
ビルボード・トレントの品評会が続くにつれて、アスカは痛いほどにその事実を噛み締めた。
どれも見覚えがあったり、人づてに聞いた特徴と一致していた。
(―――吐くな。喚くな泣くな、挫けるな。折れるなら一人だけの時にしてよ、私。そういうのは全部あとにして)
今は違う、一人じゃない、自分の失策で同じ目にあっているティーラが居る。アスカは叫びだしたくなる気持ちを押さえ、下唇を噛み切った。痛みと共に口の中に血の鉄分が広がっていった。
(そうだ……これが現実だ。劇的な覚醒なんて起こらない、仮に現出に至った所でこの状況は脱せないから)
それが今の自分の力量だと、アスカは弁えた。出力が上がった所で関係ない、拘束されているこの状況で数大量の強敵を前に勝てる自分をアスカは想像できなかった。
ドカーンと覚醒してズババとこの忌まわしき敵を駆逐できるなんて夢でさえない、あり得ない空想の妄想の幻想だ。そんなものが本当に存在するなら、目の前の人達はココでこんな風になっている筈がないのだから。
(考えろ、私。切っ掛けがあるなら外から、それ以外に助かる道はない)
ならば、自分に出来ることは。アスカは必死に考え続けた。トレントが映してくる光景もまとめて呑み込み、生き残る手段を模索し続ける。
“助かる”ではない、“助ける”のだ。その機会が訪れた場合に、最善の行動ができるように、もう二度と失敗をしないように。
(だから………だから………ッ!)
直視するだけで吐きそうになるソレをアスカは観察する。当然のことだと思いこむ。あの地下の部屋で感知は私に任せてと告げた、セロはそれを受け入れた。戦闘は任せろと言われた、頼もしいねと笑みを返した。
そしてセロは叩きのめされても、何度も立ち上がった。アスカは見ていた。度し難い痛みに耐え、自分を助けようとしたあの戦い振りを。
あの光景が、任されたからという意地が、アスカの正気を繋ぎ止めた。見るに堪えない光景と、いずれ自分もああなるかもしれないという絶大なる恐怖に負けないように。
それでも、という想いが最後の盾になる―――その気概に、次々に映る光景が矢になって突き刺さった。
首を傾け、涎を垂らしたままピクリとも動かない壮年の狩人。小刻みに痙攣し、笑いを上げることしかできなくなった同年代の少女の探索者。もはや目に何も映さなくなった、ある徒党の女リーダー。
知っている顔から知らない顔まで、等しく晒されていた。
絶望だけがこの世界だと、語りかけてくるように。あの日、為す術もなく氷の中に叩き込まれた時と同じ、木の棺桶の中でずっとこのまま、目の前に居る人達と同じように。
彼らには“来なかった”のだ。道中に見た小さな痕跡の理由はそれだ、捕獲された仲間を捨てて散り散りに逃げ、一人づつ一方的に魔物に狩られたからだ。
それでも、アスカは諦めなかった。あの少年が一人で逃げるという理由を、欠片も想像できなかったから。
(だから、お願い――――セロ!)
何の根拠もなく都合の良い、気配さえ感じないのに、ただアスカは呼びかけて。
応じるかのように、灰色の戦士は戦場に戻ってきた。
「―――待たせたな」
敵だらけの森の中、その戦技者は堂々とした宣告と共に、あるものを投げつけた。
アスカにとっても見覚えがある、赤い体毛の狼の、その首から上を。べちゃり、と重力に従って落ちたそれはビルボード・トレント達の前の地面を血で染めていった。
―――その直後のこと。アスカはセロの後方から16体ものフレイムウルフが目を血走らせながら走ってくる光景を前に、言葉も忘れて震えていた。
(―――助ける。ふざけるなよ俺、他人事じゃないだろ。俺がやる、俺以外に誰が出来るんだ)
助けはこない。だから行動する、助かるんじゃない、絶対に助ける。どうやれば良いじゃない、やると決めたのならその結果を現実に引きずり落とす手段を考える。考え抜いた上で打開策を見出し、当然のように勝利する。
仇を討つと誓った時と同じだ、殺してやるんじゃない、“殺す”。どうしてって、俺がそうしたいと決めたから。故に削ぎ落とす、勝利に至るまでの無駄な
不足すれば持ってくればいい、持ってくるのが困難なら引っ張ってくればいい、それを成すための基本の能力は師より教わった。
だから、セロは迷わなかった。魔物の大群を擦り付けるトレインという行為、その先入観にとらわれず、必要な要素が揃っていると判断して。
(そうだ、案にしても練って出せ。その場凌ぎは馬鹿げている、ティーラに教えられた。二人共まだ生きていると知った、必要以上焦る必要はない、確実な手段を見出すだけ)
事前の経験と調査が活きたと、セロはアスカの慧眼を称賛した。
魔物は同士討ちをする、それを知れた。
敵の硬さを崩すのに必要な要素は炎、故にセロは持ってきた。
故にセロはフレイムウルフの群れを探し、見つけた。首を切り落としてこの場に持ってきた。最後まで冷静に、敵意を満々に追ってくるフレイムウルフから逃げた。
仲間を捕らえている、憎きビルボード・トレントが密集している場所へ。
セロはウルフが炎を吐く間合いと範囲の両方を先ほど理解した、徹底的にそうした。そしてセロの目論見通り、ビルボード・トレントは炎を防げなかった。
(鞭は速い、けど炎を散らすには不向き。トレント自身の足は速くない、そんな構造になってない。もしそんな事が出来るなら、機動力を活かして遠距離攻撃に徹しているだろう)
分析は既に済んでいた。フレイムウルフの炎を障壁で受け流す練習も先ほど済ませた。
手足の火傷は不思議と痛くない、想像より遥かに軽い。ビルボード・トレントの鞭も些事だ、少なくとも二人の無事と比べれば。
そんな自分の考えを疑うことなく、セロは更に動き回り、その場に居る全てを泥沼の乱戦に引きずり込んだ。ビルボード・トレントはフレイムウルフを一番の敵と見たのか、身を焦がさせながらも、鞭による迎撃を集中させていた。
フレイムウルフもビルボード・トレントの事を忌避しているのか、炎や爪、牙で応酬していた。
セロは乱戦の中で一人、何の変哲もない木に登ると、枝の上で潜みながら魔物どうしの殺し合いを見守っていた。
そして、にやりと笑った――――見つけた、と。
唯一、ナイフで傷つけられているビルボード・トレントの個体をセロは見つけた。念の為にと切っ先に付けた血によるマーキング、間違いない。
距離はやや遠い、だが問題はないとセロは前方に軽く跳躍した。
人は重力に勝てない。その摂理の通りに自然落下するセロの直下に障壁の方陣が浮かんだ。そして、心素が巡ると同時に硬化し、足場となり。
蹴るようにセロが飛び、赤いバンダナが巻かれた頭が空中でくるりと回転した。
「我流、即席蹴撃が壱」
―――逆さ三日月、と。
回転する勢いのまま振り下ろされた踵落としが、アスカを拘束するビルボード・トレントの弱った木の前面部を豪快に削ぎ割った。
まさか、とは言わない。信じていた、というのはあまりにも気安く、簡単だ。期待していた、と言えば嫌なヤツになるだろう。
だが、何より嬉しく、それよりも――――と。アスカは夢が現実になった、なってしまった光景を前にして何も言えなかった。ただ、自分でも押さえられないほど身体が震えていた。
「……んの野郎」
アスカの様子に何を思ったのか、ビルボード・トレントの魔石を一撃で叩き割ったセロの顔に、アスカは一瞬だけ時間を忘れた。だが、全て後だ―――差し伸べられた手に引っ張られるままに、その腕で抱き留められて顔が熱くなったことも。
「あ……あ、あ、ありがちょう、セロ。……違う。ティーラちゃんを捕まえているのは、あいつだ」
「了解だ、アスカはこのまま木の上に―――」
「分かってる――でも、足手まといになる前に、やれる事がある」
アスカは風の
アスカはその2体の内の右の個体を指差し、告げた。
「あいつの中。捕まえられた狩人が背中に剣を差していた」
「―――助かる。本当に、本当に」
繰り返し礼を告げながら、にぃ、とセロが笑った。アスカはそれを間近で見た。そこには怒気だけではない、助けられるという事実にこの上なく喜んでいる感情が隠れているようで。
「……アスカ。本当に大丈夫か? 下がっててくれ、後は俺が」
「う、上からフォローする、念話で!」
もう限界だと、アスカは木の上に退避していった。セロはあまりにも早いアスカの足に呆然とするも、やはり体調が、と一人で納得していた。噛んだし。
だがセロはそう思う心の裏で、カイセイと対した時と同じように一つの決意を抱いていた。
(
セロは誓った。フレイムウルフの炎もトレント達の攻撃もその全てが気にならない、新手にシット・モンキーが10体来たが物の数じゃない。こんな炎と痛さと臭さで俺をやれると思っているのか、とセロは迫りくる脅威を前に、逆に怒りを募らせた。
あまりにも純粋かつ物騒な誓いに、その場に居た全員が例外なく怯えた。
―――そこから先は語るようなものでもなく、最初に見せつけた殺傷殺意の誓いの通りの結果になった。
生き残りをかけた戦闘が始まってから終わるまで、20分。
勝ち抜いたセロは血だらけになりながら、泣きそうな顔になっているティーラを両手で抱き留め。横でベソをかいているアスカと一緒に治癒を施す二人にされるがまま、困った顔で大人しく治療を受けることになった。
その横では、40もの魔物を切り裂いた剣がその屍の中に突き立てられていた。
無数の刃こぼれさえ勲章であるかのように、血で汚れた刀身を誇るようにして。
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