10話:交流


不機嫌になった時に取る行動は人それぞれで異なる。ラナンは特に分かりやすい、というのがアルセリアの感想だった。いつもと比べて口数が極端に少なくなり、ぼうっと何かを考えている。その虚ろな眼差しは、何を見ているのか。


その横で仮想敵を前に模擬戦をしていたアルセリアは、ため息と共にラナンに話しかけた。


「……いい加減許してやれって。勝負には勝ったんだから」


セロは天心流の秘蔵っ子との模擬戦で、赤い布を持ち帰ってきた。勝てるだろうとは思っていたが、実際に目の当たりにすると師匠として感慨もひとしおだった。


ラナンも喜び、よくやったとセロの身体を優しく叩いていたほどだ。セロが気まずそうに、ある話を持ち出すまでは。


「別に、怒ってない。ただ情けないな、とは思ってるけど」


口を尖らせてのラナンの言葉に、アルセリアは面倒くさそうな顔をした。イズミとかいう相手のことだ。負けたことが信じられず、赤い布をすんなりと渡さなかったらしい。そして、交換条件として「どうしても再戦を」と泣きつかれたという。


「……勝負に二度はないっていうのに、断らないんだから。泣かれたのが効いたのかしら」


ぶつぶつとラナンが呟くが、今の外見は男でしかなかった。それを見たアルセリアは気持ち悪いからやめてくれ、という顔をしながら、勝負に関しては心配ないぞと告げた。


「相手を封じた後で詰めることしかできなかった、いわゆるヘタレの剣だが……セロの学習能力はピカイチだ。次はもっと楽に勝てる。次の次は更に、という感じでな」


「そこは疑ってないわよ。でも、セロはあっちこっち斬られたのに相手は無傷よ? 再戦するってんなら引き換えを要求する所でしょ」


「あ、そっちに怒ってるんだな」


土下座を、いや装備とか、いや全財産、いや、とだんだん物騒になっていくラナンの言葉をアルセリアは聞き流しながら、別のことを考えていた。イズミの剣の癖についてだ。


(セロからの話を聞くに、いかにも天禀の剣だな。ただ、殺気がない)


殺さない勝負とはいえ、その程度の腕ならつまみ食いするのは時期尚早。セロが反撃に躊躇ったのも戸惑ったからだろうな、とアルセリアは面白くなさそうな表情になった。


(……そんな事では生き抜くことも難しいだろうに。懸念していたことが現実になりつつある)


セロは鍛錬の密度、量ともに申し分がない。もう1年積めば、かなりのものになるだろう。だが、この世界を生きていくのにそれだけでは足りない。心技体の文字通り、技術や体力、筋力が発展しようが、心―――力が物を言う世界でただ生き残るのではなく、上を目指すという心構えが成っていなければ待っているのは屈辱に塗れた死、あるのみ。


必要であれば、もう一度。そう考えたアルセリアは、動きと共に思考を止めた。


「―――本当に変わらないわね。その目、余計なことを考えてるでしょ」


「……ラナン。いや、そういうつもりはなかったんだが」


「だから怖いのよ。いい加減、自分がズレてることを認めなさい」


責めてるのではなく、自覚がないのが問題だと。いつか自分にとっても望ましくもない結果を産むわよ、とラナンはため息混じりに忠告した。


アルセリアは降参とばかりに両手を上げるが、セロの話は別だと指摘した。ラナンは分かってるわ、と先ほどとは全く異なる、冷酷な師匠の顔で自分の考えを述べた。


復讐の念に振り回されて不細工な殺気を散らかさないようにすることは出来た。だが、抑えきれているのも問題だと。解決する方法は、そう多くない。それでも、という顔をするラナンに、アルセリアは苦笑した。


「恨まれるぞ、間違いなく。……壊れるかもしれん」


「壊れたらそれまで、恨まれるのは当然、そのために先達は居るのよ。私は、結んだ誓い約束は破らない」


復讐の邪魔になることはしない、とラナンは告げた。アルセリアは、剣を鞘に収めながら頷いた。


「餞別は?」


「用意してる。泣いて喜ぶわよ、きっと」


「……そうだな。泣くことには違いない」


仕上げは1年後、その時を別れとする。隠遁生活も終わりだと、ラナンはため息をついた。


「寄り道にもほどがあったが……良い情報も入手できたからな」


「ええ。……セロが妹だと認識している少女のことも、ね」


アイネの行方を調べてさせていたラナンに、情報が届いたのは昨日のこと。青い髪の美しい少女は攫われた先で、シェール家の一員になったという。セロにとっては、あまりにも過酷な話だった。


「アイネちゃん、シェールの家臣団が全力で教育中だって。……私見だけど、間違いなく処置を受けてる。全力で利用する気120%って感じ?」


「青の巫女がまさか、という話だからな。そしてゼノワは家の中で確たる発言力を持つようになったという訳だ」


何がどういう経緯で、セロの妹になったのか。その部分は不明だが、青の巫女の失踪は当時はかなり騒がれた事件にもなっていた。


それから、二人は面白くなさそうな顔で意見を交換しあった。シェール家うんぬんは自分たちの目的とはやや無関係だが、やり口と性格に相容れない所があったからだ。女二人は容赦の欠片もなくズケズケとゼノワなる当主候補のことを罵しり、悪口を重ねた。


「成り上がりとは違うってのに、尻軽にも程があるわ。青の賢者はどこ見てんのかしら。仕事しろって感じよね」


「当代の赤の勇者も、腑抜けた日和見だ。青のあいつはなんだ、まだ若造だし、遠慮してるだけだと思う」


「あー、はいはい。そんなんだから緑の腹黒に負けそうなのよ。此花区の“海槍”あたりに刺されて死にゃいいのに」


「ギルドもいい加減ピリピリしてるからな。そういえば、一昨日に西成のクズ集団のトップが入れ替わったそうだけど」


「一生やってろって感じよね。北区のなんちゃって冒険者共あたりと一緒に爆死してくれたら、大阪の空気も良くなるのに」


女の悪口と師走の忙しさは一度走り始めたら止まらない、という。そんな格言の通り、二人はセロが帰ってくるまで、溜め込んでいた不満と悪口を好き勝手言いたい放題していた。












なんとなく当たるタイミングが分かるという。イズミから攻撃のコツを聞いたセロは、激怒した。話が違うじゃねーか、と半年ぶりぐらいの荒い口調だった。


「修行になるからと思って再戦を受けたのに……」


「な、なにいな! あんたも年食ってるわりに説明が下手やんか!」


セロはイズミに、剣のコツについて尋ねた。イズミは答えた、なんとなく。


イズミはセロに、凌ぐ体捌きや防御の上手さを尋ねた。セロは答えた、集中と修行あるのみ。


ラナンがこの場に居たら言っただろう、五十歩百歩、目くそ鼻くそ、と。


「口調が変わったのも気になるけど、誰が年寄りだ。そういうお前はいくつなんだよ」


「レディーに年を聞くなんて失礼やね。どういう教育受けてるん?」


「……負けの代償の支払いってことで。いいから言えよ」


「くっ……15や。来月で16になる」


「えっ」


セロは予想外の言葉に固まった。無表情のままだが頭を働かせ、事情を察するとラナンとアルセリアに向けて呪いの言葉を吐いた。全然違うじゃねーかまた騙しやがったな、と恨めしそうに。


「そういうアンタは?」


「……同じぐらいだ。そう聞かされてるんだろ?」


「そうやけど……でも、なんでよ。私、同年代には負けたことがないのに」


コツを教えなさいよ、とイズミに言われたセロは無表情のままだが、内心ではかなり困っていた。修行の内容、アルセリアの名前、夢を代償にしていることは誰かに話すことを禁じられていたからだ。


故に色々とやりとしたが、質問に対する回答の内容は当たり障りのないものになった。再戦をするにも、互いの身にはなったが、成果は期待していたものにはならなかった。セロは反省と共に、いつもの通りに問題点を洗い始めた。


「お前の剣には表現力が足りない、と何度も言われていたけどな……俺の理解力が足りないせいのなのか?」


「変わったこと言うんやね、その人。剣ばっかりで、小技とかはさっぱり。わざと挑発して相手を怒らせて隙を突く方法とか、実戦では基本やよ?」


「……挑発、か」


セロはアルセリアの顔を思い浮かべた。次の瞬間、頭が縦と横にお別れをして個数が4倍になっている未来が見えた。


いやいや、と次はラナンを思い浮かべた。セロは笑顔のラナンを幻視した。幻のラナンは『全身には215本の骨があるけど大サービス、』と言ってきた。


「な、なんでいきなり震えだすん?」


「なんでもない。ただ少し、背筋が寒くなっただけだ」


命の危機に心臓が早鐘を、体温が高く、飲み込んだ涙が鼻水に、とセロは強がった。その迫真の表情を前にイズミは顔を引きつらせ、追求するのを止めると話題を変えた。


「そ、そういえば、術とか使わんかったね。苦手なん?」


「まだまだ未熟。勉強中で、実戦だと使い物にならないレベル」


セロは、基本的なことの授業は既に受けた。受け継いだ形ではない使い手が主に術として扱えるのは、3種類。


1、収納といった定義魔法マジック


2、心石に収納した魔法陣を使って発動する方陣魔術ウィッチクラフト、別名をクラフト。


3、言霊による詠唱と方陣を併用して使う心言魔術ソーサレス


定義魔法マジックは、特定の式を頭に思い浮かべれば誰でも使える、簡単なもの。その起源と開発経緯こそ謎に満ちているが、便利で生活の助けにもなる優れもので、100年前の停滞を解いたのは主にこの魔法だという。


方陣魔術ウィッチクラフトは、術使いの立場を高めるためにと、300年前から研究されている方式。主には方陣士クラフトワーカーから金銭や代償を、代価を支払い契約を結ぶことで購入できる魔法陣クラフト心素マナを流し込むことで発動する。種類が最も多く、汎用性と速射性に優れているものも多いため、最も多く使われている魔術。


心言魔術ソーサレスは言霊と魔法陣クラフトの両方で、さらなる威力、特殊性を追求した一つの極み。方陣魔術ウィッチクラフトに毛が生えたものからドぎつくえげつない代物まで、ピンからキリまであるが、使えることが一種のステータスになる奥義。


「あー……魔法陣クラフトは高いからなぁ」


「自分で稼いだ金で買え、っていうのが師匠の教え。当たり前過ぎるけど、ちょっと焦る時がある……借金とか、借金とか」


最近になってようやくだが、セロは実戦と称して近場で徘徊する魔物の狩りを手伝わされたことがあった。その時、ゴブリン1体の安さに驚き、戸惑った。


無力な子供だった時には分からず、興味も持っていなかったが、幼い頃は命賭けだったゴブリン。中の心石―――魔物の場合は魔石と呼ぶのだが―――しめて、1体で300イェン。石拾いの金額は別にボってもなかったんだな、と少し大人になったセロだった。


「そっちは……いかにも金持ってそうだな」


「従姉妹のお下がりやけどな。ま、頑丈で軽いし肌触り抜群やから、文句は言われへんけど。でも、そっちも強度はともかくいいデザインやん」


「……そうか?」


セロは無表情で聞き返したが、内心でかなり喜んでいた。自分で縫った服だからだ。イズミは嘘じゃないと、センスを褒めた。


「見た目、っていうのは大事なんよ。衣は威であり、位に通じる。それだけで無用な争いは防ぐことができる。チンピラの使い手も相手は選ぶからな」


イズミの言葉に、セロは成程と頷いた。あまり意味が分かっていなかったが。イズミは弟と同じような反応をするセロの様子を見るとため息をつき、言葉を砕いて説明した。


「まあ、舐められへん格好は必要ってこと。センスある服を着てる、つまりそれだけ稼いでいるイコール強い、っていう感じやな。これを疎かにする奴は頭を使ってへん証拠や」


名前を売るにも見た目がショボかったら意味ない、とイズミは力説した。


「そこらへん分かってなかったクソオヤジは弟子に逃げられるし、道場の経営は苦しくなるし……ええんや、同情してくれんでええ。あ、ここ笑う所やで」


「……わははは」


「棒読みやないかい! ってツッコミ避けんなや!」


怒るイズミに、はたして剣を持っていた彼女と同一人物なのかを疑い出したセロ。少し考えたが、ちっとも分からなかったセロは直接尋ねた。


イズミは気まずげな顔で「あー」と呟いた後、あれは癖だと答えた。


「剣の仕事の時には、思考ごと変えてるねん。ずっと張りっぱなしやと疲れるからな」


「……演技、のようなもの?」


「そや。面倒くさいけど……今の得意先に求められたからな」


道場経営の困窮から、臨時の傭兵稼業へ。どこにでもある話だと、イズミは苦笑した。


「オフぐらいはゆっくりしたいねん。アンタは私に勝ったからって、変な色目で見えへんし」


女だ、若いと下に見られること。それなりに容姿が整っているから、厭らしい目で見られること。強さを妬み、負け惜しみどころか憎しみをこめた目で見られること。


慣れたけどな、とイズミは答えた。そして堕ちたくはないから、と笑う。


「無念無想、無我の境地が剣の極意の一つや。至高の究極は剣と一体になるか、剣そのものになること。心身合一こそが、剣の戦技者の最終到達地点。でも、そう成り果てた存在を人は悪鬼と呼ぶんや」


触れた者全てを斬り伏せる、剣の魔神。100年前にそう呼ばれた剣士は、最期には賞金首として魔物のように狩られた。そうは成りたくない、と語ったイズミは真剣な目をしていた。


「それも一つの道や、と親父は言うけどな。私は嫌なんや。だからこうしてる………ま、弟からも変人扱いされるけど」


「……道、か」


「そう。金のためとはいっても、魂までは売りたくない……どの口が言うねん、ってツッコミ入れる所やで」


「いや、ありがとう。なんか……タメになった」


「と、年下に何言うてんねんオッサン。口説いてんちゃうで」


「どの口が言うねん」


「そこで使うん?! え、ちょっと酷くない?」


「酷く、ないと思う……でも……いや、やっぱりゴメン」


「逆にお断りされた?!」


イズミはショックのあまり、顔を引きつらせた。セロは色々と打ち明けられない申し訳のなさから謝罪をしただけだが、少し傷ついた顔をするイズミの様子に気づき、本当にゴメンと頭を下げた。


「……ええねん。やっぱり、私は色物やねんな。剣ばっかりの人生送ってるし、女らしくないし」


落ち込むイズミに、セロは違うと答えた。見た目は綺麗っぽいが、存在が剣としか思えないとある人との差をこれでもかと力説した。


うっかりで斬るとか慣れてやがんな、とアルセリアに対して思ったのは最近のこと。そしてイズミの話を聞いたセロは、名前を出すなと言われた理由など、色々と察していた。


「女の子だって。本当に。マジで。うっかりで斬らないし、全力で折ってこないし」


「……ハードル低いなぁ。でも、どんな修行してるか、何となく分かったわ」


集中と修行、というアドバイスを甘くみていたかもしれない。イズミは真剣な表情で頷くと、セロに礼を告げた。


「それに、ありがとうな。必死に励ましてくれて。最後まで無表情のままやったけど……なんか、分かったわ」


「……つまり、未熟な部分の指摘?」


「なんでそうなんねん。………なんか、なあ。そこら辺に疎い子供みたいやな、アンタ」


図星を突かれたセロだが、無表情で誤魔化した。イズミはその意図は読み取れなかったが、痛い所を突けたような手応えに、してやったりの表情をした。


「それじゃ、明日も頼むわ。……未熟を直さんと、私こそ死ぬし」


「分かった」


セロは頷きを返した。同格の相手との勝つか負けるか分からない模擬戦は、アルセリアの時とは違う、別種の何かの感覚が得られるからだ。対戦相手に偏りが出ると変な癖にも繋がりかねないとして、セロはアルセリアからは事前に了承を得ていた。


(それに……イズミの話は勉強になるからな)


修行に鍛錬に、肉体を鍛える日々だった。相手はアルセリアか、ラナンか、そこら辺の弱い魔物ばかり。そんなセロは、イズミと会話をしていた中で、“広さ”を感じた。


学力を付けて感じたものとはまた異なる、具体的には言い表わせないが、セロは自分が酷く狭い場所に居るのではないか、という想いを抱いていた。


(強くなることは間違いじゃない、それこそが最優先………でも、このままではダメなような気がする)


どうにも言い表わせないが、あの金髪の男―――仇は、見るも豪華な格好をしていた。覚える余裕もなかったため、全てを記憶していた訳ではないが、立ち居振る舞いから、イズミよりもずっと上位のように思える。


イズミが足掻いている広い世界で、誰からも認められている。その差がはたして、何を意味するのか。復讐の障害になってくるのではないか、とセロは考えていた。


だからセロは、ラナンとアルセリアに頼み込んだ。欠けている何かを得るために、イズミが近くで滞在する一週間だけ、模擬戦を続けていいだろうかと。


ラナンは渋々と、アルセリアは笑顔でOKと答えた。それからセロは一週間、毎日同じ時間だけイズミと模擬戦をして、同じ時間だけ会話を重ねた。


夜空の下、廃墟を走り抜け、倒れた金網を越えて足繁く。


剣を手に、剣で語り合う。終われば言葉で感想戦を、二人でコツを論じ合う。


反発もせず、別の視点からの言葉を「そういうものか」と飲み込み、自分のものにしていく。


それを見守っていたのは、主が居なくなった廃墟の壁にかけられた、壊れた時計だけだった。


そして一週間後、最後の模擬戦が終わった。


イズミは深く息を吐いた後、セロに向けて手を差し出した。


セロは剣を鞘に収めると、その手を握りしめた。


「まいったで……でも、ありがとう。次は絶対に勝つからな、覚えとけよ」


「ああ……分かってる。でも、俺の方がもっと強くなってるから」


「当たり前やろ、そんなん……でも、敵としては会いたくないな」


「……そうだな。本気の本気で殺し合えば、俺の全敗やったろうし」


「だから当たり前やがな。そんで、口調が感染ってるで」


「イズミのせいだな」


術や装備、本気の剣を使っていれば、とは互いに言わなかった。剣と剣、互いを殺すためではなく、会話をするように結んだ時間を汚したくないと感じたからだった。


「……普通の会話も楽しかったけどな」


「ん? どうした、イズミ」


「そこは拾っとけや」


そういう所は最後まで、と。にっこりと笑いながら、イズミは手を離した。


「それじゃあ……またな、セロ。次は……できれば、戦場じゃない所で会おうや」


「ああ、どこかで、また」


短い言葉で、二人はそれぞれの場所へと帰っていった。


互いに少しだけ名残惜しい気持ちはあったが、子供ではいられない二人は割り切り、帰路についた。


イズミは地元へ、先月に確定したという長期雇用主の元へ。


セロはいつもの拠点へ、最近かなり不機嫌になった、二人の師匠の元へ。


「……ま、あっちも安泰らしいし。俺ごときが心配する必要はないか」


雇い主の家は大きく、家風も厳格だが誠実だという。セロはイズミが少しだけ教えてくれた、雇い主の家と、次期当主の話を思い出していた。


とてつもなく強いが優しい、ユニオン所属の戦技者の鑑のような人だという。



「どんな家なんだろうな――――――シェール家」





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